施設報告

八戸市屋内スケート場建設事業新築工事(YSアリーナ八戸) - 国際競技対応スピードスケートリンク納入施設例 -

照明事業部 営業技術部 仙台技術課
照明事業部 国内営業本部 仙台営業所 第二営業課
照明事業部 商品企画開発部 第三開発課

キーワード

長根公園,長根屋内スケート場,YSアリーナ八戸,世界水準,国際競技,地域防災拠点,多目的施設,LEDioc FLOOD DUELL

2.照明設計(つづき)

2.3 照度検証と照明点灯パターンの検討

2.1および2.2で定めた設計照度と設置条件を基に,分布シミュレーションを繰り返し行い,ようやくすべての設計照度に対し要件を満足する答えを導き出したのだが,その過程で特に考慮し検討を必要としたのは以下の3項目である。

検討1
選手目線でのグレア回避の方法
検討2
直線部とコーナー部の器具間隔の違いによる照度差の回避
検討3
各点灯パターンの照度の確立
2.3.1 検討1『選手目線でのグレア回避の方法』

『選手目線でのグレア回避の方法』については,具体的なグレア値を追求するのではなく,選手の滑走目線で,いかに視線内に可能な限り器具の発光面が入らないベストな照射角度を設定しながら,氷上が見やすく記録更新に専念できる環境を形成する配光選定の両立にポイントを定め,導いた答えは前方向クロス照射方式の手法である。

使用する器具は,広角および超広角配光器具とした。これは均斉度確保を重要視するための選択であるが,この器具を使用する場合,単純に器具をリンクに対し垂直方向に照射すると,どうしても器具の発光面が目線に入りやすくなる。また,器具の取付高さが13.8mと,器具光束に対しやや低い位置に設置するため,十分な光の広がりも得られずに,光軸周囲が強調された光むらが発生しやすい状況になる。

そこで,図8に示す通り,全機種垂直位置より前方30°方向に器具を向け,その光軸を広角配光器具は向かいの側線付近を照射し,超広角配光器具はコース中央より手前を照射するようにした。

この手法により,図8,図9に示す通り,光軸は選手の滑走方向に対し常にやや前を照らすようになり,器具のグレア回避と光の広がりが得られ,選手への氷の反射光の軽減効果をもたらすことを可能にした。

図8 照射方向と角度

図9 コース上の光軸方向イメージ

図10 コース上選手目線の光軸位置

その状態をコース上の選手目線から見ると,図10のように光のトンネルの中を駆け抜けるような空間が形成され,上空で光軸が交差することで空間照度の確保にもつながり,その結果TV撮影に必要な鉛直面照度の均斉度が得やすい効果をもたらした。図11に3D CADによる照射全体像を示す。

図11 3D CADによる照射全体像

2.3.2 検討2『直線部とコーナー部の器具間隔の違いによる照度差の回避』

『直線部とコーナー部の器具間隔の違いによる照度差の回避』とは,前項表3で示したキャットウォークの直線部とコーナー部の器具取付間隔の違いに伴うもので,4m間隔に2台設置する直線部に対し,コーナー部は3台設置するため,必然的に直線とコーナーの照度差が生じる環境になることから,回避策の検討を行った。

検討では,直線部はベースとなる広角配光器具の取付間隔が曲線部より広いため,若干光むらが発生しやすい状況になりエリアの照度不足を引き起こすことから,当初はすべて同じLED830Wタイプの器具で構成する予定のところを,外周ライン側だけワンランク上のLED1100W器具を投入し,デメリットの補填をすることとした。

コーナー部については,図10のコーナー部外周にある広角配光器具の光軸到達点を見ても分かる通り,密集した状態で氷上を照らす状況になることを踏まえ,遮光ルーバを装着するものとし,過度な照度を抑えながらコーナー部器具のグレア回避策とすることで,結果,相乗効果として直線部とコーナー部の照度バランスを取ることができた。

以上の検討より,最終的に使用した機種および台数を表5に示す。

表5 使用器具台数およびスペック
形式 器具光束
(ℓm)
台数 総数
コース照明 E30712W/NSAJ2
830W広角
87000 212 494
E30712W/NSAJ2
830W広角遮光ルーバ付
87000 180
E30712SW/NSAJ2
830W超広角
87000 68
E30802SW/NSAJ2
1100W超広角
110000 34
中地照明 E30712W/NSAJ2
830W広角
87000 12 56
E30712W/NSAJ2
830W広角バトン取付用
87000 44
総合計使用台数 550

※共通仕様
光源色5000K(昼白色タイプ),
高演色形Ra80,25〜100%調光対応,
初期照度補正機能付

2.3.3 検討3『各点灯パターンの照度の確立』

『各点灯パターンの照度の確立』とは,検討1・2で確定できた手法や器具で,設計条件を最大照度である国際競技レベルだけ満足すればいいわけではなく,各照度でも同様に満たすための検討である。

本件で使用した器具は調光対応器具のため,調光範囲内で各照度を再現できれば,理想的な光環境が構築できる。しかし,国際競技対応の条件である水平面照度1500ℓx以上,かつTV撮影要件鉛直面照度1000ℓx以上の条件を満たす数値を検証すると,鉛直面照度1000ℓx以上を満足させるには,維持水平面照度は平均約2300ℓx以上必要となり,そこから調光範囲の25%点灯で再現できるのは残念ながら500ℓxまでとなる。そのため300ℓx以下の照度は,25%調光状態でバランスよく間引き点灯させて実現する必要性が出てきた。

これにより,器具の配置に対し,どの照度でどの器具を点灯すれば設計条件を満足できるかの検証が発生し,いくつかの配置と点灯パターンのシミュレーションを経て,現在の器具配置と点灯回路を決定した。

決定した点灯パターンの中から,国際競技用点灯,500ℓx点灯,100ℓx点灯の分布図を図12〜図14に示す。

図12 国際競技用点灯時水平面照度分布図

図13 500ℓx点灯時水平面照度分布図

図14 100ℓx点灯時水平面照度分布図


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