技術資料

動画による路面輝度測定の検討

国内営業本部 営業技術部 照明研究課

キーワード

写真測光,路面輝度測定,CIE30.2,動画測光

3.動画測光実験(つづき)

3.1 校正実験(つづき)

3.1.1 フロントガラスの影響

図5 測定輝度へのフロントガラスの影響

フロントガラスによる影響を,透過による「減光(透過)」と,ダッシュボードの映り込みによる「反射」の二つと仮定する(図5)。

このとき,車内からの測定輝度Ltrと車外からの測定輝度Lntrには以下の関係が成り立つ。

Ltr=τ×Lntr+Lref…(1)

ここで,τはフロントガラスの透過率,Lrefは反射輝度を表す。

図6 輝度測定結果(測定場所①)

図6は,測定場所①で写真測光にて測定した色標の輝度画像を示す。図(a)~(c)はそれぞれ以下の条件で測定した輝度画像を示す。

  • (a) 車外から測定
  • (b) 車内から測定・暗幕設置なし
  • (c) 車内から測定・暗幕設置あり

この色標の輝度測定結果を用いて,フロントガラスの透過率τならびに反射輝度Lrefの影響の確認を行った。

①フロントガラスの透過率τの校正

図7 色標の輝度測定結果(暗幕なし)

図7は,各測定場所における色票(図6中 破線部)の輝度測定結果である。図は,式(1)の関係を求めるため縦軸を車外からの測定輝度Lntr(図6(a)),横軸を車内からの測定輝度Ltr(図6(b))としている。

図は,0.5cd/m²以下の低輝度部分を除いて,いずれの測定場所においても,ほぼ一定の割合(傾き)で,車内からの測定輝度が,車外での測定輝度に比べ低くなっていることを示している。これは,フロントガラスの透過による減光のためと考えられる。したがって,図7の近似式の傾きを(1)式よりフロントガラスの透過率τと考え,切片を反射輝度Lrefと考えるため,本実験でのフロントガラスの透過率τは69%とした。

0.5cd/m²以下の低輝度部分で車内からの測定輝度が車外からの測定輝度に比べ高くなるのは,反射輝度の影響と考えられる。そこで,次に反射輝度の影響について検討を行った。

②フロントガラスの反射輝度Lrefの校正 

図8は,暗幕の有無による輝度測定結果を比較したものである(図6(b),図6(c))。図中の近似式は,暗幕ありの場合である。図は,いずれの測定場所でも暗幕の有無により輝度の測定結果が平行に遷移することを示している。これはダッシュボードに暗幕を設置することにより,フロントガラスの反射輝度Lrefが一様に減少するためであると考えられる。

図8 暗幕の有無による輝度測定結果の比較

また図より,近似式にはわずかながら切片が存在する。式(1)より近似式の切片は,Lrefを表している。このことから暗幕を設置することで,Lrefを減少させることができるが,完全に取り除くことはできないということが分かる。

そこで次に,暗幕を設置した場合にどの程度Lrefが生じるかについて検討する。

Lrefはダッシュボードの映り込みにより生じる。一般的にダッシュボードは黒く,表面は細かい凹凸が存在するため,反射光は拡散反射成分が大部分を占める。そのため,Lrefはダッシュボードの水平面照度とほぼ比例関係となる(※社内実験にて確認)。

図9 車内の水平面照度Ehと反射輝度Lrefの関係

図9に,各測定場所の水平面照度とLrefの関係を示す。横軸は水平面照度Eh,縦軸はLrefの値を示す。

上記の近似式は以下となった。

Lref=0.0003×Eh+0.0698…(2)

路面輝度測定時に,ダッシュボードの水平面照度を測定し,(2)式を用いることで路面輝度測定時のLrefを予測することが可能となる。今回の実験では,走行中のダッシュボードの平均水平面照度は約21ℓxであった。そこで,(1)式より算出される0.08cd/m²を反射輝度値として用いる。

以上より,透過率と反射輝度が求められる。(1)式を以下のように変形し,Lref,τを代入することで,Ltrから,フロントガラスの影響を取り除く。

Lntr=Ltr-Lref/τ…(3)

3.2 実測実験

次に実際のトンネルにて,路面輝度の測定実験を行った。3.2.1節では,写真測光と比較した動画測光の精度について述べ,3.2.2項では,動画を撮影した全区間の路面輝度分布の作成について述べる。

3.2.1 動画測光の精度検証

図10,図11に,輝度画像を示す。

図10 写真測光

図11 動画測光

図10は車外からの写真測光により測定した輝度画像,図11は車内からの動画測光により測定した輝度画像を示す。それぞれ,(a)は輝度分布画像,(b)は(a)中に黒線で示す照明器具1スパンの路面範囲を透視変換した画像で,画像右側が進行方向である。また,白線で路面輝度の計算値の分布を示す。

なお,動画測光は,暗幕を設置し,時速60km/hでの撮影動画を用い,3.1節で得られた反射輝度,透過率の値を用いて補正処理を行った。

写真測光と動画測光のそれぞれの図を比較すると,図11(a)下部のダッシュボードの映り込みを除けば近似した輝度分布となっていることが確認できる。よって,提案した補正方法を用いることで,車内からの動画測光で車外からの写真測光と同等の輝度分布が取得できるということが確認できる。

次に路面輝度分布より得られる測定値を比較する。

表1に,平均路面輝度,総合均斉度を示す。表の値は,撮影画像より得られた輝度分布の路面部分を透視変換し,進行方向10分割,横断方向10分割(1車線5分割)1)の全100データを用いて求めた。

表1 路面輝度測定結果
測定 平均路面輝度 輝度均斉度
写真測光 2.74 0.66
動画輝度 2.88 0.65

平均路面輝度,輝度均斉度ともに,写真測光による算出値と動画測光による算出値は近い値となっていることが確認できる。

以上より,車内からの動画測光による輝度分布に適切な補正を行うことで写真測光と同程度の精度を有することを確認した。

3.2.2 動画測光による路面輝度分布

図12 全路面輝度分布の作成イメージ

最後に,動画輝度測定による全走行区間の路面輝度測定について検討する。3.2.1節で示したように,輝度画像から透視変換を行うことで路面輝度分布を取得することができる。そこで,図12に示すように撮影された動画のフレームごとの路面輝度分布を作成し合成することで走行区間すべての路面輝度分布を作成することができる。

図13 全区間の路面輝度分布

図13に,動画測光による全路面輝度分布を示す。撮影動画は,トンネル途中から出口までの動画を用い,図の右が走行方向である。

図より高い輝度が規則的に分布していることが確認できる。これは,照明器具の設置場所に合わせて高輝度部分が出現しているためである。また,一部,途中に高輝度部分や,右端に低輝度部分があるが,高輝度は非駐帯で補助照明が追加設置されている場所,低輝度部分はトンネルを抜け,照明器具がなくなった場所である。このように,全路面輝度分布から走行区間全体の輝度変化を把握することができる。つまり,照明器具の不点灯や劣化など路面輝度が低下する部分を容易に特定することができる。

4.まとめ

本報告では,車載カメラによる路面輝度の測定方法について検討を行った。また,実際に車載カメラを用いてトンネルの路面輝度測定を行った。

その結果,校正実験によりフロントガラスの「透過率」,「反射輝度」の値を定め補正を行うことで,動画測光で写真測光と同等の路面輝度分布が得られることが確認された。また,撮影動画から全路面輝度分布を作成した。この全路面輝度分布は,路面全体の照明状態を把握するのに適している。動画撮影は交通規制を行わずに実施できるため,運用道路の維持管理に適していると思われる。さらに,本報告で述べた結果を用いて,撮影動画より路面輝度を解析するソフトウェア「eLscope(エルスコープ)」を開発した。

今後は,60km/hを超える走行速度で撮影された場合の影響や走行中の水平面照度の変化の影響など検討を行う予定である。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第28号掲載記事に基づいて作成しました。
(2013年5月16日入稿)


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