技術資料

太陽電池評価用ロングパルス光ソーラーシミュレータ

光応用部 光応用開発課

キーワード

太陽電池,モジュール,評価,ロングパルス光,ソーラーシミュレータ,PXSS,IV特性

1.はじめに

太陽光発電(以下PV)産業は,そのクリーンエネルギーとしての側面から注目され続けている分野であり,セル・モジュール及びシステム等の各段階において,製造・評価・検査等を行う関連装置が必要とされる。

PVモジュール設置・運用の際に効率的な出力を得るため,生産・研究開発段階から標準的な出力値を把握しておく事が重要となる。そのために必要とされるのが,擬似太陽光を照射しPVモジュールIV特性を屋内評価する事が可能となるソーラーシミュレータである。

当社では,最大有効照射時間100msを特徴とするキセノンフラッシュロングアークランプを用いたパルス発光型ソーラーシミュレータ(以下,ロングパルス光ソーラーシミュレータ:PXSS)を開発し,PVモジュール評価用装置として市場に提供している。以下,この装置の概要を紹介する。

2.ロングパルス光ソーラーシミュレータ:PXSSについて

ロングパルス光ソーラーシミュレータ:PXSSの外観写真を図1に,システム構成模式図を図2に示す。

図1 外観写真(右からIVカーブトレーサ・本体・電源)

図2 システム構成模式図

2.1 装置性能・特長

1回の発光中の照度変動に関する特性を図3に示す。有効照射時間(発光後に立ち上がった照度が平坦となる部分)は最大100msである。また,その照度の放射照度時間変動率は,IEC60904-9Ed.2.0にて等級Aである。

波長λ=550nmの値が1となるよう相対値化した発光スペクトル分布を図4に示す。スペクトル合致度は,IEC60904-9Ed.2.0にて等級Aである。

測定モジュールの最大面積は1400×1100mm,放射照度場所むらはIEC60904-9Ed.2.0にて等級Bである。

また,瞬間的な発光となるキセノンフラッシュロングアークランプを用いたシミュレータであるため,定常光型シミュレータと比較し,測定モジュールの温度上昇を軽度に抑える事が可能となる。

図3 1回の発光中の照度変動特性(一例)

図4 スペクトル分布図(一例)

2.2 モジュールIV測定について

図5 IV カーブトレーサ画面(一例)

一般に,PVモジュール出力特性の測定は,対象モジュールに階段状に電圧を印加し,モジュール両端の電圧と,電圧が変化してから一定の遅延時間が経過した後の電流を測定することによりIV特性を得ることである。

ロングパルス光ソーラーシミュレータ:PXSSにて測定したIV特性データは,併設のIVカーブトレーサにより処理される。処理中のPC画面を図5に,測定・表示可能なモジュール特性一覧を表1に示す。

表1 測定・表示可能なモジュール特性一覧
測定対象
  • サンプルモジュール電圧,及び電流値
  • 基準セル電流,及び電圧値

※注)サンプルモジュールと基準セルを同時に測定可能。

表示特性
短絡電流
Isc
開放電圧
Voc
最大出力
Pm
最大出力動作電流
Ipm
最大出力動作電圧
Vpm
曲線因子
FF
変換効率
Л
電流規定電圧
Vi
電圧規定電流
Iv
短絡電流密度
Jsc
開放電圧/セル
Vsc
並列抵抗
Rsh
直列抵抗
Rs
測定照度
Mirr

2.3 モジュールIV測定結果一例

ハイブリッド型PVモジュールに対してIV測定を行った結果を一例として紹介する。

図6 測定時間によるIV特性曲線の差異(一例)

IV測定周期の設定によりIV測定時間を変化させ測定したIV特性曲線を図6に示す。IV測定時間(=IV測定周期×測定回数)は以下4種である。

  1. 10ms(100μs×100回)
  2. 25ms(250μs×100回)
  3. 50ms(500μs×100回)
  4. 90ms(900μs×100回)

また,測定時間90msの値が100%となるよう相対値化した結果を表2に示す。尚,このときの電圧掃引方向は負から正である。

測定時間を長く設定すると,Pmは増加傾向を示した。

表2 測定時間90msの値を100%とした相対値(一例)
測定時間[ms] Isc[A] Voc[V] Pm[W] Ipm[A] Vpm[V] FF[%]
(1)10 100.0 98.8 93.6 99.9 93.7 94.7
(2)25 100.0 99.4 97.9 101.5 96.4 98.5
(3)50 100.1 99.8 99.9 100.6 99.3 100.0
(4)90 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

また,ロングパルス光ソーラーシミュレータ:PXSSによる測定時間90msのIV測定結果と,(独)産業技術総合研究所にてキセノンショートアークランプを用いた発光時間約600ms~700msのロングパルス光シミュレータによる測定時間約100msのIV測定結果との比較を図7に示す。各測定項目の差異は-0.7%~+0.5%であった。

ロングパルス光ソーラーシミュレータ:PXSSによる測定は,(独)産業技術総合研究所による測定と同等な結果を得る事ができた。

ロングパルス光ソーラーシミュレータ:PXSSでは,最大有効照射時間100msの特徴を活かし,安定した1回の発光中にモジュールIV特性評価が可能となる。

図7 ロングパルス光ソーラーシミュレータ:PXSSによるIV測定結果(一例)

3.おわりに

当社製ロングパルス光ソーラーシミュレータ:PXSSについて,装置性能・特長・測定結果等を紹介した。当社では,本装置以外にもPVモジュール関連装置を取り扱っている。詳細は,当社ウェブサイトを参照いただければ幸いである。

補遺

上記説明では,1灯式の光照射部を有するソーラーシミュレータを取り上げたが,この光照射部を複数連結して装置を構成すれば,有効照射面積を拡大することができる。参考資料として表3に,3灯式までのソーラーシミュレータの外形寸法と有効照射面積を示す。

表3 パルス光ソーラーシミュレータ仕様

PXSS4K-1P 1灯式 PXSS8K-2P 2灯式 PXSS12K-3P 3灯式
有効照射面積 600×1200mm 1100×1400mm 1100×2100mm
外形寸法(照射装置) 1084W×1584L×802H mm 1584W×1884L×802H mm 1584W×2684L×802H mm

この記事は,株式会社電子ジャーナル発行;Electric Journal 別冊,2010 太陽光発電技術大全CD-ROM版(2010年1月発行) pp.257-259に掲載された記事を一部修正したものである。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第22号掲載記事に基づいて作成しました。
(2010年3月23日入稿)


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