技術資料

紫外線消毒装置の消毒特性に関する検討

研究開発本部 技術研究所 光応用基礎研究室
立命館大学大学院 理工学部 安井 宣仁
立命館大学 理工学部 神子 直之

キーワード

紫外線消毒装置,消毒特製,クリプトスポリジウム,不活化実験,トレーサー実験,流動状態

3.実験結果および解析

3.1 不活化実験

図1 流量と紫外線量の関係

図1に各装置における,流量とQβの生残率から計算した紫外線量との関係を示す。RUN1-2で流量9.27m³/h以下の条件では,出口水のファージ濃度が検出限界以下(St<100PFU/mℓ)であった。図1より,紫外線ランプがほぼ同出力な場合,装置Aが紫外線消毒の効率が最も高く,次いで装置B,装置Cであった。このことから,装置容積が大きいほど消毒効率が大きいことが分かった。

3.2 トレーサー実験1)2)

図2に,装置Cを用いたトレーサー実験1の結果を一例として示す。横軸に経過時間(min),縦軸に電気伝導率(mS/m)を示した。実験結果より装置内の滞留時間は一定ではなく,滞留時間分布が存在していることが分かった。尚,他の条件の実験結果からも同様のことが確認されたため,図示は省略する。

またトレーサー実験2の結果より,流れ方向に対して逆混合を考慮した混合拡散モデルを用い,槽内の滞留時間分布を考え,槽内の流動をモデル化した。照射槽の入口の電気伝導率と,滞留時間分布関数を任意に与え,(1),(2)式より出口の電気伝導率を計算し,実測値と比較検討した。滞留時間分布関数はペクレ数と平均滞留時間の2変数で表すことができる。その結果,混合拡散モデルで照射槽内の流動をモデル化することが可能であった。図3に一例として照射槽No.1のペクレ数と流量の関係を示す。

  • ※ペクレ数とは流動状態を表す無次元数であり,管路の流れにおいて乱れの大きさを表す分散数の逆数である。

図2 電気伝導率の変化(流量6.56m³/h)

図3 流量とペクレ数の関係

ペクレ数は値が大きいほど,槽内がより栓流に近い流れとなり,値が小さいほど完全混合に近い流れとなる。但し,図3より流量が増加しても分散数は一概に小さくはならず,混合状況が最も悪くなる流量が存在する可能性があることがわかった。

(1)

(2)

ここで,h(θ)は滞留時間分布関数(-),θは時刻tを平均滞留時間tavgで除した無次元化時間(-),Peはペクレ数(-),f(θ)は時刻θにおける出口の電気伝導率比(-),g(θ)は時刻θにおける入口の電気伝導率比(-)である。

3.3 不活化実験との整合性

トレーサー実験2の解析結果より得られた滞留時間分布関数と平均紫外線照度より,照射槽内の大腸菌ファージQβの生残率は(2)式で示すことができる。尚,消毒効果の予測にあたり用いた平均紫外線照度は,線光源の1点から発せられる光が光軸に対して垂直のみ発光されるとする半径光モデルを仮定した場合に得られる平均紫外線照度を用いた。

(3)

ここで,Sは大腸菌ファージQβの生残率,Iavgは平均紫外線照度(mW/cm²),tavgは平均滞留時間(s),D0は大腸菌ファージQβの紫外線耐性(5.9mJ/cm²)3)である。

(3)式で得られた計算結果と実験結果の整合性を図4に示す。図4より,実測値は計算値よりも安全側であった。これは,実際には考慮していない照射槽内の紫外線ランプの反射等が影響し,予測値よりも実測値の方が,消毒効果が大きい結果になったためと考えられた。

図4 生残率の整合性

4.まとめ

  • 実験を行なった範囲では,装置容積が大きいほど紫外線消毒の効率が大きかった。
  • トレーサー実験より,反応装置内流動は複雑な状態の流れとなっており,装置の滞留時間分布が存在していることがわかった。
  • 混合拡散モデルを用いることで,照射槽内の流動を表現することができた。
  • 槽内の平均紫外線照度と滞留時間分布関数を用い,消毒効果を把握することが可能であった。
  • 実測値は予測値より,安全側であった。これは照射槽内の紫外線の反射等が影響しているためだと考えられた。
  • 照射槽の流動が消毒効果に大きく起因していると考えられた。

参考文献

  1. 井本立也:反応工学,日刊工業新聞社,pp.195-205(1968).
  2. 橋本健治:反応工学,培風館,pp.189-195(1979).
  3. N. Kamiko and S. Ohgaki: RNA coliphage Qβ as a bioindicator of the ultraviolet disinfection efficiency,Wat.Sci.Tech., Vol.21, No.3, pp227-231 (1989).

(本報告は,第41回日本水環境学会年会(2007年3月)及び第42回日本水環境学会年会(2008年3月)における発表要旨を一つにまとめたものである。)

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第18号掲載記事に基づいて作成しました。
(2008年5月22日入稿)


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