技術資料

道路照明におけるツララ抑制対策技術の開発

新技術開発部 応用技術開発課

キーワード

LED,道路灯,豪雪地帯,積雪,ツララ,LEDioc ROAD™

1.はじめに

図1 LED道路照明の積雪とツララ

日本は世界的に見ても豪雪地帯であり,都市によっては年間降雪量が7mにも達するため,照明器具の雪害が問題となっている。近年,光源が放電灯からLEDに置き換えられることで,照明器具全体の温度が低下する傾向にあり,照明器具の上面への積雪の増加,ならびに照明器具の側面からのツララ形成の2つが問題となっている(図1)。

LED道路照明においては,照明器具上への積雪量が50cm以上になるケースがあり,走行中の車に雪の塊が落下し,フロントガラスを破損させる懸念がある。さらに,照明器具に形成された長さ1m程度のツララが,歩道を通行する歩行者へ落下する危険も懸念されており,それぞれ対策が求められている。

本稿では,照明器具におけるツララ形成の特徴と,対策概要について説明する。

2.評価方法

豪雪地帯を模擬した試験を行うべく,冷凍冷蔵コンテナ(20ft-RE667,株式会社ロッコーエンジニアリング製)の内部に照明器具を設置し,その上部に人工雪を堆積する実験系を準備した(図2)。

図2 豪雪・寒冷地帯を模擬した実験系

図3 点灯時の熱によるツララ形成

本実験では,以下の2つの項目,LEDからの発熱による積雪の溶融度合い,照明器具へのツララ形成について,それぞれ試験的な検証を行った。前者の試験においては,庫内の雰囲気温度(気温)を0℃~-20℃に設定し,LEDを20時間点灯後,各温度において器具上に残った雪の重量を計測することで溶融した雪の重量を調べた。後者の試験においては,積雪の溶融に起因して発生した雪解け水が低温部で凝固すなわち氷を形成し,それが成長することでツララを形成することが知られている(図3)。各温度域においてどの程度のツララが形成されるか,定量的な評価を行った。

3.積雪への対策

豪雪地域における積雪低減策としては,超撥水塗装を用いる方法が知られているが,乾雪には効果が高い一方,湿雪では逆に積雪量が増加する場合がある1)2)3)。また,数ヶ月単位でのメンテナンスの必要性もあり,照明器具への採用は難しい。照明器具の上部に鋭角な屋根を設置し,積雪低減する方法もあるが,堆積した雪が溶けにくい問題と,デザイン性が低いことから広く採用はされていない4)5)。そのため,本開発では積雪対策として,器具点灯時の発熱にて雪を溶融することで,長期間器具に降雪が積もらない状態を実現すべく,以下のツララ対策を検討した。

4.ツララへの対策

4.1 器具の温度均一化

雪解け部の温度を低下させることで,ツララの材料となる雪解け水の量を抑制することができる。また,ツララ形成部の温度を上昇させることで,雪解け水の凍結を抑制することができる。すなわち,照明器具の温度均一化によりツララの成長速度を抑制できる。具体的な方法として,器具内のLEDの設置位置を変更し,器具の温度均一化を行った。前記実験系にて,以下2つの仕様におけるツララ形成試験を行った結果を図4に示す。

0℃,ならびに-15℃付近では,ツララが形成されなかった。0℃付近では雪解け水が凍結しにくく,逆に-15℃では雪の溶融がなくなり,雪解け水が供給されないためと考えられる。-5℃~-10℃では,雪の溶融による雪解け水の供給があり,さらに器具低温部での凍結があるため,最もツララの形成が顕著であった。

以上の結果より, LEDの設置場所を最適化し,器具温度を均一化することで,ツララ形成をある程度抑制できることがわかる。一方で,従来品[A]は器具前方の光照射面付近が高温で,逆に器具後方のポール付近が低温である。そのため,器具前方にツララは形成しがたく,LEDからの光が遮られることはなかったのに対し,対策品[B]では,器具温度の均一化により,従来よりも器具外周全体,特に器具前方にツララが分布し,照射光を遮る懸念のあることが分かった。

図4 器具の温度分布とツララ形成試験結果

4.2 器具上面の断熱

モニター試験などにより,照明器具を点灯しなければ雪解け水が発生しないため,ツララの形成が大幅に抑制されることが判明している。そこで,発熱源であるLED部分をユニット化し,その光源ユニットを器具上面とは断熱することで過剰な雪解け水の発生を抑え,ツララ成長速度の低減を図った。図5にその構造と温度分布を示す。

図5 器具上面の断熱によるツララ抑制検討

図5より,光源ユニットと器具上面は完全に断熱できていないが,従来品[C]と比較して上面部の温度が約10℃低減できており,さらにユニット側面が高温となっていることがわかる。少量の雪解け水が発生する可能性はあるが,ユニット側面は器具から露出して高温となっているため,光源ユニット部分でのツララ形成は抑制され,照射光が遮光されるリスクは低減すると考えられる。これは,4.1節で述べた温度均一化(対策品[B])と比べ大きなメリットとなり得る。この効果を実証すべく,前記実験系にて,以下2つの仕様におけるツララ形成試験を行った結果を図6に示す。

図6 器具外観とツララ形成試験結果

図6より,器具上面の断熱化(対策品[D])により,ツララの材料となる雪解け水の発生を抑えることで,いずれの雰囲気温度においてもツララ形成をある程度抑制できていることが分かる。しかしながら,従来品[C]はLEDの熱が直接雪に伝わるため雪解け量が多く,-5℃における1時間あたりの雪解け量が160g/hとなっているのに対して,対策品[D]は1時間あたりの雪解け量が100g/hと少なかった。昼間の雪解け量と夜間点灯による雪解け量の比率を詳しく解析していないため明確な断定はできないが,断熱化することでツララの長さを抑制することができる反面,器具上部に残雪しやすくなる懸念がある。

参考文献

  1. 吉田光則,大市貴志,山岸暢,金野克美,後町光夫,平野徹,藤野和夫,堀口薫,水野悠紀子,山岡勝,近藤孝,浅井規夫,佐竹正治:着雪氷防止技術に関する研究(第1報)-各種材料の着氷力について-;北海道立工業試験場報告,No.292,pp.13-22 (1993).
  2. 吉田光則,金野克美,小林勝雄,浅井規夫,近藤孝,泉正史,山岡勝,金田安弘,水野悠紀子,堀口薫:着雪氷防止技術に関する研究(第2報)~着雪氷防止塗料の開発と応用~;北海道立工業試験場報告,No.297,pp.19-22 (1998).
  3. 吉田光則,吉田昌充,金野克美:着雪氷防止技術に関する研究(第3報)-滑雪と材料表面特性について-;北海道立工業試験場報告,No.299,pp.13-17 (2000).
  4. 赤坂人司,能戸康彦,山本直哉:LED街路灯 氷柱実験報告;IWASAKI技報,No.24,pp.2-7 (2011).
  5. 赤坂人司,藤田明彦,星野敏行:町道ニセコ登山道路LED街路灯着雪実験報告;IWASAKI技報,No.24,pp.8-21 (2011).

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