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技術資料

光による害虫の物理的防除方法について(その2)

技術開発室 技術研究所 環境技術グループ

キーワード

光,害虫,物理的防除,人工光源,昆虫,行動抑制,誘虫性

5.農業・産業分野への応用

5.1 農業分野

農業分野の物理的害虫防除法は,従来から果樹園における黄色蛍光ランプの照明が良く知られており,吸蛾類(アケビコノハ,オオエグリバ,アカエグリバなど)に効果のあることが認められている。ヤガ類は夜行性のため,昼間は雑木林などの暗所に生息し,夜間飛来して作物に被害を与える。黄色光はヤガ類をすばやく昼間と勘違いさせ(明順応化),飛来や加害行動抑制する。表1226)はフィルターを使用して各色による明順応への反応時間を示したもので,青色・黄色域の光はアケビコノハでは12分,オオエグリバでは22分と最短時間を示した。さらに表1327)は各種蛍光ランプによるモモの被害の抑制効果を示しており,青色光では50%,黄色光では20%の被害果率となり,黄色光の有効なことを示している。表1428)は各色蛍光ランプによる吸害蛾率および果実面最高照度と被害果率との関係を示しており,吸害果率では照度が高いためか青色蛍光ランプが低い値を示しているが,青色光ランプでは他の昆虫も誘引する可能性がある。一方,黄色蛍光ランプは他の昆虫を誘引する懸念が少なく,低照度でも被害果率が低いことを示している。表1529)は照度レベルによる防除効果を示し,照度が高いほど防除効果が高く,2ℓx以下でも波長により効果が期待できることを示唆している。その後,内田ら(1978)30)により黄色光1ℓxでも行動抑制効果のあることが認められた。

表12 照明(50ℓx)によって明順応化に要した時間(供試各全3個体,フィルター法,野村ら1965)
フィルター法または光源 アケビコノハ(分) オオエグリバ(分)
短波長 VC-1 26 28
VB-2 12 22
VG-1 28 40
VO-2 22 52
VR-3 30 48
長波長 白熱電球 34 34
表13 各種蛍光ランプの効果比較(野村ら1965を改変)
光源 一夜当たりの飛来数 一果当たりの刺孔数 刺孔数5以上の被害果率
暗夜 点灯(%) 暗夜 点灯(%) 暗夜 点灯(%)
ブラックライト蛍光ランプ 26 12(46) 10.7 5.8(54) 100 63
白色蛍光ランプ 21 10(48) 9.5 5.0(53) 97 60
青色蛍光ランプ 14 10(71) 11.8 3.6(30) 100 50
赤色蛍光ランプ 20 12(60) 10.0 3.3(33) 100 40
黄色蛍光ランプ 15 6(40) 9.6 2.5(28) 93 20
表14 各色蛍光ランプにおける吸害蛾率および果実面最高照度と被害果率の関係(野村ら1965)
光源 吸害蛾率(%) 果実面最高照度(ℓx) 5m距離の照度(ℓx)
    0~0.5 ~1.0 ~2.5 ~5.0 ~7.5 ~10.0 ~10以上  
FL-BLB 83 65 70 67 - - - - 1.35
FL-青色 40 67 86 40 33 0 0 - 2.40
FL-黄色 50 25 29 0 0 0 0 0 1.55
FL-白色 60 50 40 100 75 50 50 0 6.00
FL-赤色 67 45 25 - - - - - 1.05
  • 注)
  • 1.暗夜における吸害蛾率は平均69%である。しかし全夜を通して考えると,100%に近いと思われる。
  • 2.表中-印は,その照度が現れなかったことを示す。この表によってBLBおよび赤色は照度が低く,かつ光の到達性の悪いことが理解できる。
  • 3.被害果率は刺孔数5以上のものを対象として算出した。
表15 照度レベルによる防除効果(野村,1967を改変)
光域 特徴 備考
I 高照度域
10ℓx以上
その地域への飛来は全般的に少なく死角(暗所)でも防除効果 両区合わせた飛来蛾率は40%以下と期待出来る。
II 低照度区
2~10ℓx
Iについで飛来数は少ないが死角の防除効果はそう大きくない。照射されている果実の忌避効果はかなり大。
III 微照度区
2ℓx以下
飛来数はIVよりは少ないが,死角の防除効果は殆ど期待出来ない。照射されている果実の忌避効果は光源(波長)によってはやや期待できる。 飛来蛾率は50~60%程度と予想される。
IV 暗黒域標準区 飛来,加害多し。  

黄色ランプによる害虫防除は,最近問題となっている難防除害虫類(オオタバコガ・ハスモンヨトウ・シロイチモジヨトウ・アワノメイガなど)の対策に期待されており,各地で作物への終夜照明の影響を考慮した試験が行われている。難防除害虫は薬剤抵抗性が高く,幼虫が花の蕾,結球葉などへ潜り込み食害するため,農薬散布の効果が得られにくい。現状の対策としてはネット掛け,フェロモンによる交信攪乱,生物農薬などが掲げられるが,ネット掛けは高価で手間がかかり,フェロモンは雄のみの誘引,広範囲に使用回数を重ねるなど高価で手間がかかり,雨風による流亡があること,生物農薬(特に天敵)利用では,生存のための環境維持(温室・ハウスに限られる)が必要なこと,薬剤抵抗性が低いため農薬との併用が難しい,1種で1~2種類の害虫(日本は高温多湿のため数多くの害虫が出現)しか対応出来ないなどの問題がある。

一方,黄色ランプによる行動抑制方法は光による物理的手法で,効果が低照度(空間平均照度1~2ℓx)で得られるため,農薬の散布回数を削減できる等,経済的,安全的なメリットがあるため最近特に見直されつつある。黄色ランプによる難防除害虫の実証試験は,黄色蛍光ランプが主流で,バラ31),カーネーション32)33),トルコギキョウ34),青ジソ35),スイートコーン36),トマト37)38)などで行われており,行動抑制の効果が確認されつつある。また,オオタバコガの黄色光の反応としては,黄色LED照射によるオオタバコガの成虫の行動調査39)が行われ,交尾行動が黄色光照射により阻害される可能性の高いことが知られている。一方,露地作物を対象とした黄色高圧ナトリウムランプによる実証試験はモモ,カキ,ナシ,トマト,スイートコーン,チャ,カーネーションなどで行われており,スイートコーン(山梨県)40)ではオオタバコガの交尾活動を抑制する効果,ナシ(埼玉県)41)ではカメムシ類の被害抑制効果,チャではチャノホソガによる被害抑制効果が得られており,一部では実用化され,安価で安全な防除方法として今後期待されている。なお,農業分野における黄色灯の利用に関しては,(社)農業電化協会より「黄色灯による農業害虫防除」として専門書が刊行されているので参考されたい。42)

図15 お茶園の害虫防除照明

図15 お茶園の害虫防除照明

図16 桃園の害虫防除照明

図16 桃園の害虫防除照明

参考文献

  1. 野村,他:日本応用動物昆虫学会誌,第9巻,第3号,p.181(1965).
  2. 野村,他:日本応用動物昆虫学会誌,第9巻,第3号,p.183(1965).
  3. 野村,他:日本応用動物昆虫学会誌,第9巻,第3号,p.184(1965).
  4. 野村,他:日本応用動物昆虫学会誌,第11巻,第1号,p.27(1967).
  5. 内田,他:鳥取果樹試研報,第8号,pp.1-29(1978).
  6. 向阪,他:平成9年度照明学会全国大会講演予稿集,pp.255-256(1997).
  7. 八瀬,他:日本応用動物昆虫学会中国支部会報,第38号,pp.1-7(1996).
  8. 矢野貞彦:農耕と園芸,第49巻,第6号,pp.122-125(1994).
  9. 向阪,他:農業電化,第52巻,第13号,pp.7-11(1999).
  10. 向阪,他:平成7年度照明学会全国大会講演予稿集,p.278(1995).
  11. 那波,他:日本応用動物昆虫学会中国支部会報,第37号,pp.19-24(1995).
  12. 鍋谷敏明:農業電化,第53巻,第2号,pp.9-13(2000).
  13. 向阪,他:農業電化,第53巻,第6号,pp.9-12(2000).
  14. 藪 哲男:農業電化,別冊特集号1998,pp.24-25(1998).
  15. 内田一秀:農業電化,第55巻,第4号,pp.18-22(2002).
  16. 長谷川 浩:農業電化,第55巻,第2号,pp.17-22(2002).
  17. 江村,田澤編著:黄色灯による農業害虫防除,(社)農業電化協会(2004).

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