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技術資料

EBグラフト重合による消臭材料の作製

技術本部 新技術開発部 材料研究課

キーワード

電子線,グラフト重合,消臭

1.はじめに

電子線照射は,物質表層に電子線(Electron Beam,以下EB)を照射することによって,物質の特性を改善したり,新しい機能を与えたりする技術である。処理速度(生産性)が優れていることや,環境に優しいことなどが高く評価されている。そのため,EBの持つエネルギーを利用して,架橋反応,グラフト重合反応,印刷,コーティング,連続滅菌などに利用されている。

EBの用途の一つとしてEBグラフト重合が挙げられる。EBグラフト重合は,基材となる材料にEBを照射して基材にラジカル(反応活性種)を作った後,モノマーおよび特定の官能基(物質の性質を決める原子団)を導入することで,基材に新たな機能を持たせる手法である。EBグラフト重合を利用した製品として,電池用隔膜や不純物除去用の各種フィルター(水・空気・放射線)や消臭・抗菌材がある。

EB装置の用途拡大およびEB利用製品の開発を視野に入れ,EBグラフト重合の関連技術構築のため,EBグラフト重合による消臭材料の作成を行ったので以下に報告する。

2.グラフト重合手法についての基礎調査

※参考文献1),2)

2.1 EBグラフト重合

図1 グラフト重合法

図1 グラフト重合法

グラフト(graft)とは接ぎ木の意味であり,高分子化学では幹ポリマーに枝ポリマーを接ぎ木することをグラフト重合と呼ぶ(図1)。幹ポリマーは基材,枝ポリマーはグラフト鎖とも呼ばれる。グラフト重合により基材の良さを生かしながら,新しい機能を付加することができる。

基材にグラフト鎖を接ぎ木するためには,基材にラジカル(反応活性種=接ぎ木する箇所)を作る必要がある。基材にラジカルを作製するためには薬品,光,プラズマ,放射線(EB・ガンマ線)が利用される。放射線を利用すると基材の形状や材質の選択の幅が広い,開始剤と呼ばれる薬品や溶媒を使わずにラジカルを作製できるというメリットがある。

作製したラジカルにグラフト鎖を伸ばすためには,ビニルモノマー溶液(以下,モノマー溶液)への浸漬を行う。モノマーのビニル基(CH₂=CHR)部分からラジカルが生成しグラフト鎖が成長する。

2.2 基材

基材の形状は目的とする用途に合わせて変えることができる。例えば,グラフト材料により2つの液を隔てたいのであればフィルム,液を通過させたい場合には多孔性膜が使用される。

基材の材質にはポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など市販の高分子が使用される。

2.3 ラジカル

基材にポリエチレンを選んで電子線を照射すると,その高いエネルギーを受け,ポリエチレン内の炭素-水素の共有結合が切れる。水素ラジカルは飛び去り,炭素上にラジカルが残る(図1)。ラジカルは常温下では時間と共に消失してしまうが,低温で保管しておけば高分子鎖の運動が凍結されるためラジカルが保持される。またラジカルは酸素と反応して消失するため,N₂雰囲気下で反応を進行させる事とモノマー溶液の十分な脱酸素が重要となる。

ラジカルにモノマーが接近すると,モノマーのビニル基(CH₂=CHR)の二重結合のうち片方がラジカルと反応し結合し,もう片方が新たなラジカルを生む。そのラジカルに新たにビニルモノマーが接近し,成長しつつあるグラフト鎖の先にラジカルが移る。この繰り返しによってグラフト鎖が成長する。

2.4 グラフト率

基材とグラフト鎖の割合を表すのにグラフト率が用いられる。式(1)より基材のグラフト重合前後の重量からグラフト率を算出する。

グラフト率[%]
=100×(グラフト鎖の重量)/(基材重量) …式(1)
=100×(グラフト重合後の重量-基材重量)/(基材重量)

ここで,グラフト率100%とは,基材と同一の重さのグラフト鎖が付加したことを意味する。

2.5 モノマー

図2 モノマーの例

図2 モノマーの例

グラフト重合法を使って機能性材料を作製する際,目的とする材料を作製するため基材に官能基を導入する必要がある。モノマーの例を図2に挙げる。材料を親水性に変えたいときには,親水性のヒドロキシル基(-OH)やカルボキシ基(-COOH)を持った2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)やアクリル酸(AAc)などのモノマーを導入する。その他の例として,スルホン酸基(-SO₃H)などの酸性基を導入することで,アンモニアなどの塩基性ガス吸着剤となる。また,アミドキシム基(-C=NOH(NH₂))というキレート基を導入することで海中ウランの吸着剤とした事例もある3)。目的とする官能基をモノマーが有していない場合,目的とする官能基に変換可能な官能基を持つモノマーを導入した後で,目的とする官能基に変換する。そのようなモノマーとして,エポキシ基を有するグリシジルメタクリレート(GMA)がある。エポキシ基を持つモノマーは,開環反応により様々な官能基を導入できる為,グラフト重合において重用されている。

2.6 共グラフト重合・二段グラフト重合

モノマーが1種類で足りない場合には,もう1種類組み合わせる手法がある。共グラフト重合法は2種類のモノマー混合溶液に基材を浸す方法である。一方で,二段グラフト重合は,1段目の放射線照射後に1種類目のモノマー溶液に浸し,2段目の放射線照射後に2種類目のモノマー溶液に浸す方法である(図3)。共グラフト重合では,1回の照射・浸漬で済むが,2種類のモノマーから成るグラフト鎖の組成を知る事が難しい。2段グラフト重合は,照射・浸漬を2回行うため時間・コストは掛かるが,1段ごとに重量を測定することで,グラフト鎖の組成を知ることができる。また,二段グラフト重合は,1段目のモノマーで基材を改質する事で,2段目のモノマー導入を促進したい場合に有効である。例えば,1段目に親水性モノマーを導入した後で,2段目に目的とする官能基を持った親水性モノマーを導入する事で,グラフト率を向上させることができる。

図3 共グラフト重合と二段グラフト重合

図3 共グラフト重合と二段グラフト重合

2.7 EBの付与エネルギーを測る単位

EBの付与エネルギーを測る単位として,グレイ[Gy]が用いられる。グレイは,単位質量当たりに吸収される放射線のエネルギー量であり[Gy]=[J/kg]である。物質に10kGyの吸収線量が与えられた場合,10[kGy]=10[kJ/kg]=2.4[kcal]に相当する。汎用のポリマーであれば,吸収されたエネルギーが全て熱に変換されるとした場合に5~10℃程度の温度温度上昇をする事になる。EB装置を用いた場合,吸収線量はEB装置の電流値と処理スピードにより制御でき,式(2)から算出できる。

D=K×(I÷V)・・・式(2)

式(2)における定数Kは,EB装置ごとに,ラジオクロミック線量計で測定し決定される。

グラフト材料作製において,EB装置による基材の吸収線量は50~200kGy程度に設定することが多い。

2.8 EB照射のタイミング

EBグラフト重合法には,基材を目的とするモノマー溶液に浸漬してからEBを照射する同時照射法と,基材にEBを照射してからモノマー溶液に浸漬させる前照射法がある(図4)。同時照射法は,基材とモノマーが共存した状態でEB照射するため,手順が簡単であり,生成したラジカルが失活する事も無い。しかし,モノマーにもEBが照射される為,モノマーにラジカルが発生し,モノマー同士が重合したホモポリマーを形成するという欠点がある。ホモポリマーは目的とする機能材料の性能を低下させる事に繋がる。また,同時照射法ではモノマー溶液をEB照射装置内に持ち込むため,照射器の汚染が懸念される。それに対し前照射法では,基材にEBを照射してからモノマー溶液に浸漬させるためホモポリマーの生成がほとんど無く,EB照射装置の汚染も無い。そのため,グラフト材料製造においては,前照射法が多く採用されている。

図4 前照射法と同時照射法

図4 前照射法と同時照射法

2.9 気相・液相グラフト重合

図5  気相・液相グラフト重合

図5 気相・液相グラフト重合

2.8で紹介した前照射グラフト重合は液相・気相に分類される(図5)。EBを照射した基材をモノマーに接触させる際,モノマー蒸気に晒す場合が気相グラフト重合で,モノマー溶液に浸すのが液相グラフト重合である。気相法では,モノマー溶液の蒸発量で所望のグラフト率を得ることができる。モノマー溶液の蒸発に時間が掛かる場合にはラジカルが消失しグラフト重合が止まる場合がある。一方,液相法ではモノマー溶液に基材を浸し,モノマー濃度・溶媒・反応温度・反応時間によってグラフト率を制御する。

※文献1)「グラフト重合のおいしいレシピ」より引用。

2.10 グラフト重合応用事例

グラフト重合応用事例について,表1にまとめる。グラフト重合は,基材および付与させるグラフト鎖の設定により,様々な機能性材料を作製できる手法であり,消臭材料以外にも用途が多数存在する。

表1 グラフト重合応用事例
機能 用途(製造元等) 処理方法・基材・モノマー等
親水性 印刷適性アップ,接着強度アップ ポリオレフィンにアクリル酸をグラフト重合。
選択透過性 一次電池や二次電池の隔膜 ポリエチレン(PE)にアクリル酸をグラフト重合。
比抵抗の低減
イオン交換性 海水中のウランの採取
(日本原子力研究開発機構,千葉大学※※)
PE不織布にアクリロニトリル,ヒドロキシルアミンを作用させ末端にアミドキシル基を付与。
超純水中の残存微量金属イオンの除去
(倉敷繊維加工(株),日本原子力研究開発機構)
PE不織布にエマルショングラフト重合法にてスルホン酸基を付与。
除染
((株)環境浄化研究所,千葉大学※※,サンエス工業(株))
アニオン交換基を有するグラフト鎖をナイロン繊維に付与。その後,グラフト鎖内に不溶性フェロシアン化コバルトの微結晶を生成。
除染
(日本原子力研究開発機構)
耐久性の高いPE製のフェルト状の生地にセシウムを捕捉可能なリンモリブデン酸基を導入した捕集材。
塩製造用のイオン交換膜
(塩事業センター※※※,千葉大学※※)
グラフトポリマーを含有するポリオレフィンからなる多孔性基材の細孔内に,クロロメチルスチレンとジビニルベンゼン共重合成分と第4級アンモニウム基を有する共重合体を充填。
半導体クリーンルーム用フィルター
⇒アンモニアの除去
((株)イー・シー・イー,日本原子力研究開発機構)
長尺ポリオレフィン系熱融着不織布に強酸性カチオン交換基を導入。
消臭フィルター
(日本原子力研究開発機構,(株)環境浄化研究所)
アクリル酸,ビニルスルホン酸ナトリウム,N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをグラフト重合。
耐光性 PEの耐光性アップ LDPEに紫外線吸収剤をグラフト。
吸湿性・抗菌性
難燃性・耐熱性
染色性
機能化繊維
(クラボウ※※※※)
ポリエステルにアクリル酸あるいはポリエチレングリコールジアクリレートをグラフト。
  • 注)表中の各機関の正式名称は次の通り。
  • ※国立研究開発法人日本原子力研究開発機構。
  • ※※国立大学法人千葉大学。
  • ※※※公益財団法人塩事業センター。
  • ※※※※倉敷紡績株式会社。

参考文献

  1. 斎藤恭一,須郷高信:グラフト重合のおいしいレシピ,丸善株式会社(2008年).
  2. 斎藤恭一,須郷高信:猫とグラフト重合,丸善株式会社(1996年).
  3. 片貝秋雄,瀬古典明,川上尚志,斎藤恭一,須郷高信:アクリロニトリルとメタクリル酸との共グラフト重合不織布の アミドキシム化による吸着材の作成および実海域吸着実験,日本海水学会誌(1999年).

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