技術資料

光による害虫の物理的防除方法について(その1)

技術開発室 技術研究所 環境技術グループ

キーワード

光,害虫,物理的防除,人工光源,昆虫,行動抑制

3.害虫による被害と対策

3.1 害虫による被害 18)

農業分野の害虫による被害は多く,一説には「世界の食料生産は害虫被害がなければ30%増加する」とされている。なぜ殺虫剤を散布するかを知る一助として,以下にこの分野で知られている,害虫による大被害の例を示す。

トノサマバッタの大発生(飛蝗:ひこう)

高密度で発生すると羽の長い,長時間の飛翔に適した形態になり,食性も広くなり集団で移動する。

  • 明治13~17年(1880~84)北海道,札幌・手稲山口にバッタ塚有り
  • 1978年,エチオピア,ソマリアからインド,パキスタンまで移動
  • 1978年,アメリカ(コロラド,カンサス,オクラホマ,ネブラスカ),コロラドのみで6000万ドル(120億円・当時)の被害
  • 1987~88年,スーダン,チャド,ニジェール 700万haの被害
ウンカによる被害
  • 享保17年(1732)の大飢饉
    米の収量が西日本で平年の27%となり12000人の餓死者と200万人の飢えを起こした。(当時の人口約2700万人)
  • 明治30年(1897)に全国的にセジロウンカが大発生,
    平均18.5%の減収=農事試験場に昆虫部が開設。
  • 昭和15年(1940)南関東,東海南部全域にトビイロウンカ,セジロウンカの大発生=農林省は病害虫発生予察事業を開始。
  • 昭和41年(1966)トビイロウンカ約127万ha,セジロウンカ約121万haの発生面積(当時の耕作面積約325万ha)防除剤生産が間に合わず34.9万トンの被害。
  • * ウンカの加害
    成虫・幼虫が稲の葉鞘部に寄生し,口針で吸汁し,稲の成育,登熟を妨げる。増殖力が高く,登熟期には「坪枯れ状態」を引き起こす。

3.2 害虫による加害様式

害虫による加害様式は表6 19)に示すごとく,食害,吸汁・吸血害,産卵傷害,虫こぶ形成などの直接害と,吸汁,食害,吸血刺咬,接触による病原体などの媒介による間接害がある。これら作物や人畜が受ける害を一次的損害といい,作物の種類や品種,栽培時期の変更,制限がなされたり,検疫が行われ輸出入の制限,さらには生産費の上昇,農業,貿易の不振を招くなどの不利益を2次的損害という。表7には植物防疫法による指定有害動物・植物を示す。

表6 害虫による一次的損害の加害様式
加害様式主要な例
直接害
1.食害(咀しゃく害)茎葉イネドロオイムシ・イネットムシ・コナガ・ヨトウムシ・コガネムシ・テントウムシダマシ・モモハムグリガ.ネギコガ
芯部ダイコンシンクイムシ・マメヒメサヤムシガ
果実
〈内部〉
各種シンクイムシ
幹や茎
〈内部〉
各種カミキリ・キクイムシ・ニカメイチュウ
地下部タネバエ幼虫・ハリガネムシ・コガネムシ幼虫・ウリハムシ幼虫・ケラ
2.吸汁・吸血害アブラムシ・カメムシ・ウンカ・ヨコバイ・カイガラムシ・果実吸蛾類,カ・アブ・プユ・ノミ・シラミ・ナンキンムシ
3.産卵傷害モモチョッキリゾウムシ・キクスイカミキリ・バラクキバチ
4.虫こぶ形成クリタマパチ・ブドウネアブラムシ(フィロキセラ)
間接害
1.吸汁-病原体媒介ツマグロヨコパイによる稲萎縮病ウイルス,黄萎病ウイルスの媒介
2.食害-病原動物媒介ヒメトビウンカによる稲縞葉枯病ウイルス,稲黒条萎縮病ウイルスの媒介,アブラムシ類による各種植物病ウイルスの媒介
3.吸血刺咬-病原体媒介シナハマダラカによるマラリヤ病原虫の媒介,コガタアカイエカによる日本脳炎ウイルスの媒介,ブユによる河川盲目症病原糸状虫の媒介,ケオプスネズミノミによるペスト菌の媒介
4.接触-病原体媒介ハエ,ゴキブリ類による消化器系統伝染病原細菌の伝染,シラミの糞から発疹チフスリケッチャの伝染
表7 指定有害動物・植物
1)有害動物
イネウンカ類,ヨコパイ類,メイチュウ類,斑点米カメムシ,イネミズゾウムシ,コブノメイガ
大豆アブラムシ類,吸実性カメムシ類
チャハダニ・ハマキムシ類
キクアブラムシ類
果樹カメムシ類(カキ・カンキツ・キウイフルーツ・ナシ・ビワ・モモ),シンクイムシ類(スモモ・ナシ・モモ・リンゴ),ハダニ類(オウトウ・カキ・カンキツ・ナシ・モモ・リンゴ),ハマキムシ類(カキ・カンキツ・ナシ・ブドウ・モモ・リンゴ),カキノヘタムシガ
野菜カンシャコバネナガカメムシ,アブラムシ類,ハスモンヨトウ,コナガ
1)有害植物
イネいもち病菌,紋枯病菌
ムギうどんこ病菌,赤かび病菌
チャたんそ病菌
キク白さび病菌
果樹カンキツそうか・黒点・潰瘍病菌,リンゴ斑点落葉病菌,ナシ黒斑・黒星病菌,ブドウべと病菌,モモ穿孔細菌病菌
野菜疫病菌(トマト・バレイショ),灰色かび病菌(イチゴ・キュウリ・トマト・ナス・レタス),べと病菌(キュウリ),うどんこ病菌(キュウリ・ナス・ピーマン),黒腐病菌(キャベツ),菌核病菌(キャベツ・レタス),さび病菌(タマネギ・ネギ)

植物防疫法第22条の農林水産大臣の指定する有害動物または有害植物

3.3 害虫の防除方法

害虫の防除の基本的考え方は,人間の病気に対する医療=予防・治療と同じである。最初に発生の予防対策を行い,その後効率的な駆除を行うこととなる。表8 20)は害虫の駆除と予防方法の代表的な例を示し,物理的防除方法には人工光源の利用が掲げられている。

表8 害虫防除法の種類とその主な例(松本,1995を改変)
目標\方法 化学的防除 機械的物理的防除 遺伝的防除 耕種的防除 生物的防除 法的防除
駆除 発生した害虫を対象とする殺虫 殺虫剤施用誘引剤による大量捕殺 電灯誘殺,加熱・捕殺 不妊雄放飼   生物農薬 緊急防除
予防 発生抑制 耐虫性の付与・性フェロモンによる交尾阻害 黄色灯による交尾阻害   発生環境の改変・耐虫性品種の利用・休耕 天敵利用 植物検疫,農作物輸入・移出等の禁止規制
被害回避 忌避剤の利用 遮断,マルチング,黄色灯による行動抑制   栽培時期の調節・輪作    

参考文献

  1. 松本義明:応用昆虫学入門,川島書店,pp.70-73(1995).
  2. 松本義明:応用昆虫学入門,川島書店,p.75(1995).
  3. 松本義明:応用昆虫学入門,川島書店,p.79(1995).
  • 注)本稿は,(社)日本電気協会・関西電気協会の月刊誌「産業と電気」2004年6月号に掲載されたものを一部改変し,2回に分けて掲載する。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第11号掲載記事に基づいて作成しました。
(2004年8月12日入稿)


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