技術資料

赤外線照射による食品加工前クリの品質低下防止技術

光応用事業部 光応用営業部 技術グループ
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キーワード

クリ,クリシギゾウムシ,赤外線照射,加熱処理,殺虫,駆除技術,食品加工

3.実験結果(つづき)

3.5 赤外線処理したクリの加工性調査

3.5.1 原料クリの比重選別

図12 原料クリの比重1.00以上割合

比重1.00以上の個数割合は臭化メチル区に比べ60℃5分区で4%減少,60℃8分及び70℃1分区で7%減少,70℃8分区では11%も減少し,処理温度が高いほど,また,処理時間が長いほど個数歩留は減少傾向であった(図12)。

比重1.00未満クリの内訳は腐敗率が大半を占め,高温長時間処理で増加する傾向であったが要因は不明である。また,果肉先端が萎縮して鬼皮と渋皮の間にできた空洞により,軽いクリが多くなったが,処理条件との関係は傾向が認められず,その発生原因については不明である。

3.5.2 歩留まり評価

上:図13 渋皮煮・原料歩留(原料6kg)
下:図14 甘露煮・原料歩留

9週間,冷蔵庫(約0~2℃)に保管したクリにおいて,加工性歩留まり評価として,渋皮煮,甘露煮,ペーストの原料歩留(重量)を測定した。

図13に原料6kgに対する渋皮煮・原料歩留を示す。70℃,1分までは臭化メチル処理区と同様であった。

図14は渋皮煮の不良品を甘露煮の原料として使用できる原料歩留を示す。渋皮煮と同様に70℃,1分までは臭化メチル処理区と同様であった。

渋皮煮向け歩留の低下は渋皮表面の変質ではなく,果肉腐敗によるものであった。

甘露煮向け原料として,渋皮不良品を原料とした歩留は臭化メチル区と比べ60℃区は3%の減少,70℃1分区は3%の増加と変動は少ないが,70℃3分区は25%に大幅に減少した。この大きな歩留減少の原因は果肉の腐敗部分の多さによるものであった。

図15 ペースト・原料歩留

図15はペーストとして使用できる果肉重量を計測して,原料歩留とした値である。上記加工性歩留まりと同様に,70℃,1分までは対照区である臭化メチル処理区と同様であった。

歩留は臭化メチル区に対し60℃区及び70℃1分区は差が少なく,傾向も認められなかった。しかし,70℃3分区は12%と大幅に減少した。この歩留減少の原因は,甘露煮向けと同じく,完全腐敗及び部分腐敗果が他の区よりも多かったためであった。

3.5.3 渋皮煮及び甘露煮の破断強度測定

図16 加工性・破断強度

渋皮煮では,臭化メチル区に比べ60℃区及び70℃1分区の破断応力値は標準偏差がやや大きいものの,平均値はほぼ同等であった(図16)。値の範囲であれば,最初に噛むときに“やや柔らかい”から“やや硬い”と感じる程度である。しかし,70℃3分区の破断応力値は臭化メチル区と比べ平均値で1.4倍,最高値では1.9倍も硬く,最初に噛んだときに“やや硬い”から“硬い”と感じられ,商品にはならないものであった。

甘露煮では,臭化メチル区に比べ60℃区及び70℃1分区の破断応力の平均値はほぼ同等であった(図16)。

これらの試食における食感も,市販の甘露煮と同程度であった。しかし,70℃3分区の食感は水分がぬけた感じでゴソゴソしており,破断応力でも値がやや高くなっていることが認められた。

なお,破断歪率(クリが破断するときの歪み割合)は渋皮煮及び甘露煮ともそれぞれ処理間による差は認められなかった。

3.5.4 色彩測定
3.5.4.1 渋皮煮及び甘露煮

図17 クリ加工品の彩度(C*)

渋皮煮では,L*値は臭化メチル区と差があるが,視覚的には差が認められなかった(図17)。

h値が0°に近いほど赤色,90°に近いほど黄色が濃くなるが,渋皮表面のh値は30~40°であり,赤みが強い茶色であったが,視覚的には差が認められなかった。

60℃区のC*値は臭化メチル区と同程度であり,彩度は同じであった。しかし,70℃1分は5.5,70℃3分は3.4低くなり,70℃区は渋皮の黒ずみが増す傾向であり,視覚的にも差が認められた。

甘露煮では,試験4区ともL*値は,臭化メチル区と同程度であった(図17)。

h値は黄色である値を示し,臭化メチル区との差はなかった。

60℃区及び70℃1分区のC*値は臭化メチル区と大きな差ではなかったが,70℃3分区のC*値は臭化メチル区に比べ3.5増加し,見た目でもやや白みが感じられたが,白みの増加の要因は不明であった。

3.5.4.2 ペースト

L*値は臭化メチル区と差は少ないが,赤外線処理条件が強くなると値が下がる傾向にあったが,視覚的には差が認められなかった(図17)。

h値は処理時間が長くなることにより黄色に緑色が若干加わる値になる傾向であった。だが,臭化メチル区の値を挟んでの変化であり,視覚的には差が認められなかった。

C*値は60℃8分区が1.6,70℃1分区が2.7,70℃3分が2.0とやや低くなり,赤外線処理条件が強くなると,黒ずみが若干増す傾向であった。

3.6 貯蔵安定性

赤外線加熱処理したクリをポリエチレン袋に密閉して冷蔵庫(約0~2℃)に14週間保管し,0~14週間の時点でクリ果肉断面の腐敗度合(腐敗の長さ)を評価した結果を図18に示す。

いずれの加熱条件においても,低温貯蔵は2ケ月(9週間)までであり,比較対照区である臭化メチル処理区と同様であった。

処理区では60℃区の正常果数が14週間目まで多く,50℃区及び70℃区の正常果数は14週間目で少なくなる傾向であり,腐敗と処理温度との関係は明らかでなかった。

なお,断面の色変化についても腐敗度合と同様の結果であった。

図18 低温貯蔵性(腐敗度合)

3.7 実用化装置の仕様検討

3.1項から3.6項の実験結果及び現状のクリ処理量に基づき,実用化装置の仕様(搬送速度,ランプ容量等)を検討している。

4.考察

4.1 赤外線照射によるクリ果実内のクリシギゾウムシ殺虫効果調査

70℃,1~3分処理での殺虫効果が高いことが確認できた。

なお,70℃での殺虫効果は比較的安定していたが,50℃および60℃では収穫時期により結果は大きく異なった。この現象は,クリシギゾウムシの成長ステージが異なっているためと推察される。

4.2 赤外線照射がクリ果実の品質に及ぼす影響調査

70℃で若干の変性と外観上クリ先端部に若干の変成を認めたものの,50~60℃では無処理と大きな違いは認められなかった。

熱変性場所が先端部のみである要因は,クリの先端は他の部分より厚みがないため,上下から赤外線加熱時,他の部分より高温になったためと考えられる。

4.3 赤外線処理したクリの貯蔵安定性調査

9週間保管したクリの各種加工性歩留まりは,70℃,1分までは対照区である臭化メチル処理区と同様であった。

いずれの評価においても,原料クリの品質が悪く,データにバラツキが見られたため,今後は収穫直後の加熱処理における殺卵効果を再確認したい。

参考文献

  1. 岩下光男:超短波によるクリシギゾウムシ殺虫に関する研究,文部省科学試験研究報告集(農学編),pp.59-61(1953).
  2. 根本 久・原沢正美・芦原亘・松本隆一:マイクロ波線処理によるクリシギゾウムシの防除法,埼玉農総研研報(3),1-5(2003).
  3. 福田仁郎:クリシギゾウムシ,最新防除果樹害虫編,養賢堂,pp.245-247(1961).
  4. アイ ハロゲンヒータカタログ,岩崎電気(2003).
  • <注>本稿は,埼玉県農林総合研究センターと共同で実施した農林水産省・平成15年度食品産業技術対策推進事業に於ける成果報告書の抜粋である。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第10号掲載記事に基づいて作成しました。
(2004年5月12日入稿)


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