施設報告

大川 南天満公園護岸,堂島川護岸ライトアップ - 河川を彩る照明演出 -

国内営業本部 営業技術部LCS
国内営業本部 営業技術部
国内営業本部 大阪営業所

キーワード

大阪,大川,堂島川,護岸,LED,フルカラーLED,ライトアップ,ライン照明

3.堂島大橋上流右岸ライトアップ(堂島川 大阪国際会議場前護岸)

3.1 コンセプト

図17 堂島大橋からの景観

中之島西部に位置する堂島川の堂島大橋上流右岸は,住宅や病院などがあり静かな雰囲気を持つ地域である。
また,対岸には,中之島バンクス,ホテルや国際会議場など,多くの外来のお客さまが訪れる場所でもある。
地域の特徴である「静けさ」を大切にしながら,過剰とならないよう「街に溶け込む明り」を基本ライトアップコンセプトとし,合わせて,水都大阪のシンボル的な地域であるため,「水」を強く感じさせる演出を行い,地域性を強調し,水都大阪の西の玄関口として,「おもてなしの空間」を創出する(図17)。

3.2 照明手法及び照明器具

光を直接見せるのではなく,景観を形成する「もの」である樹木や水面・護岸を照らすことで,夜間においても自然な景観を創っている。
また,全てを一様に照らすのではなく,適度に明暗を付けることで,自然な景観を創りだす。
明暗それぞれが強調され,少ない光で演出ができ,明るさを抑えた華美にならない演出となる。
また,陰影が付くことで,立体感が強調され,奥行き感のある景観を創りだす。
合わせて,照明器具のグレア(不快な輝き)を無くし,障害となる光を極力抑制することで,落ち着きのある街に溶け込む明りとしている。
設置位置は対象物の近くからの照明とし,余分な光を抑制し,少ない光で効果的に演出ができ,低ワット化を図っている。
演出の全ての照明において,LEDを使用し,省資源化,省保守化,省エネルギー化を図っている。
樹木を演出する照明器具は,照明効率の高い投光器タイプを使用し無駄な光を極力抑制し,省エネルギー化を図っている(図18)。

図18 照明配置図

3.2.1 樹木の演出

川沿いの樹木(クスノキ)のライトアップは,中之島周辺で主として使用されている暖色系(電球色)の光で上部の葉の部分を重点的に照らし,遠方からの景観と水面への映り込みを強調している。
「静か」な景観となるよう,全ての樹木を一様に照らすのではなく,適度に明暗を付けることで,樹木の自然な景観を創りだす。
明暗それぞれが強調され,少ない光で演出ができ,明るさを抑えた華美にならない演出となる。
また,陰影がつくことで,立体感が強調され,奥行き感のある景観を創りだす。
上部を重点的に照らすことで,葉の部分の明るさを増やして水面への映り込みを強調し,「水」を感じさせる景観を創りだしている。
設置位置は樹木横にある歩道上の人の目線より高い位置に設置し,歩道上からのグレアを抑制し,落ち着きのある雰囲気を創りだしている(図19)。

図19 樹木の演出イメージ

常緑樹(クスノキ)は季節感が希薄になるため,光により季節感を演出し,周辺地域と時間を共有し,親近感のある景観を創る。
一年を半期に分け,光量,色温度を換えて季節感を演出。上半期(4月~9月)は,常緑樹が生い茂ることから影になる部分が多く,光量を増やしてボリューム感を増やす。
色温度は,2900Kをベースに5000Kをプラスして,爽やかなイメージを創る。
下半期(10月~4月)は,落ち着いた雰囲気とするため光量を減らす。
色温度は2900K(電球色)とし,暖かなイメージを創る(図20)。

照明器具
  • LEDioc FLOOD NEO 96W(広角タイプ,昼白色 5000K相当)(ECF0973N/SA1/2.4/DG)×25台
  • LEDioc FLOOD NEO 96W(中角タイプ,電球色 2900K相当)(ECF0972L/SA1/2.4/DG)×49台

図20 樹木の演出

住宅地に隣接しているため,住宅側に光が漏れないよう,設置位置,照射角度に注意を払い演出している。
設置位置は,道路側から川側に向けて樹木を照らし,障害光を抑制している。
合わせて,遮光ボックスを設置し,住宅側への光を抑制すると共に,どの視点場からも照明器具の輝度が見えないようにし,器具の気配を消している(図21,22)。

図21 設置状況

図22 歩道上の景観

3.2.2 水面及び護岸の演出

図23 水面及び護岸の演出

護岸は水面からの立ち上がりが大きく全体景観の中で大きな要素のため,全体を照らすことで,圧迫感のない景観を創る。
護岸は水面に近いため映り込み易く,幻想的な雰囲気を創る。
護岸をリニアに照らすことで,全体を認識でき,特徴である緩やかなカーブが夜間景観に浮かび上がる。
また,フルカラーLED照明により変化,動きがある演出を行うことで,イベント時などに特別な景観を創りだす。
中之島一帯の統一感を図るために,「水」をイメージする光として,川面を連続した「青色」を基調とした光のグラデーションで演出している(図23)。

視点場である対岸からの景観に配慮し,遮光フードにより視点場から器具の輝度を隠し,照らされている護岸,水面のみを見せることで,少ない光量で十分に視認できる演出となっている(図24)。
また,設置側護岸上部への漏れ光も無くしているため,落ち着きの空間が維持されている。
照明器具は施工性,保守性を考慮して1950mmを1器具として2000mm間隔で配置し,護岸460mに対しラインで照明している。
1器具内には,明るさ,ラインとしての見え方を考慮し,1WフルカラーLEDを100mm間隔で配置している。
フルカラーLEDを使用し,細かな制御が可能なため,施工後に全体景観に合わせ,明るさ,色,動きを調整し,華美ではなく,自然な景観を創りだしている(図25)。

図24 照明器具設置断面図

図25 照明器具寸法図

図26 照明器具取付状況

照明器具の設置位置を護岸上面と同レベルにすることで対岸から目立たず,夜景においても違和感のない景観を創りだしている。
色も護岸と同調させることで,昼間の景観にも配慮した形となっている。
また,照明器具の間にはヘデラ用の植栽網(別施工)が配置され,歩道からの景観にも配慮されている(図26)。

3.3 年間スケジュール及び点灯パターン

樹木の演出,水面・護岸の演出をそれぞれ年間でパターンを変化させ「時間」を演出している。
季節,時間により変化させることで「おどろき」を創り,飽きのこない「おもてなし」の空間を創出している。
樹木の演出は,ウィークデー(月~木)と週末(金~日)とに分けて演出している。
ウィークデーは年間を半分に分け,上半期(4月~9月)は,2900Kをベースに5000Kをプラスして,爽やかなイメージを創る。
下半期(10月~4月)は,落ち着いた雰囲気とするため,2900K(電球色)とし,暖かなイメージを創る。
週末は通年を通して上半期の演出とし,華やかな雰囲気を創りだしている。
水面・護岸照明は,常時の演出を「水」をイメージした演出とし,「青色」を基調とした光のグラデーションを上流から下流にかけて徐々に光を変化させ,流れているイメージを創りだしている。
合わせて,現地の風を測定し,抑揚を光の明暗で表現している。
また,季節を表現した演出パターンを毎正時(30分毎)に出現させ,時間の共有を図っている。
クリスマス時期にはイベントパターンを表示し,より地域に属した演出となっている(図27~32)。

図27 常時パターン

図28 季節パターン 春:桜

図29 季節パターン 夏:新緑

図30 季節パターン 秋:紅葉

図31 季節パターン 冬:キャンドル

図32 年間スケジュール

3.4 照明効果

樹木や護岸のみを照らし,照明器具の輝きを見えなくすることで,地域と同調した落ち着きのある空間が創出され,自然な明るさの夜間景観となっている。
落ち着きの雰囲気の中で屋外において460mのライン照明は類を見ない演出であり,河川沿いのダイナミックな夜景を映しだし,特異な表情を創りだしている。
堂島川の入口として,さまざまな表情を持たせることで「おもてなし」の雰囲気を創り,大阪の観光資源の一つとして大阪の水辺を彩っている。
同じ水辺の演出の南天満公園と違った景観を創りだし,河川の中で地域毎の楽しみを創りだしているが,同様のイメージカラーや演出スケジュールにすることで河川全体での統一感を創りだしている。

4.おわりに

演出照明において「照らす」という当たり前のことをさまざまな方面から見ることができた。
また,「輝き」の扱い方においても,お客さま,監修者さまからの意見を実現し,よりよい景観を創りだすことができた。
ものが照らされ,景観を創って行く中での「輝き」のあり方を丁寧に考え,実現して行くことへの理解が今後の夜間景観を向上させる要素であると感じ,このような業務が波及して行くことを望む。

この照明演出ではLED照明を率先して使用した。
まだまだ一般的ではない中,省エネルギー,保守性を考慮して採用した。
「光の質」はまだまだ問題があったが,HID光源との併用により十分な効果が得られた。
また,フルカラーLED照明を採用し,HID光源では難しかった光の制御ができ,新しい景観を創りだした。
LED照明の今後の発展により,省エネルギー,省保守以外のメリットが新しい景観,よりよい景観を創りに貢献すると思われる。

南天満公園,堂島大橋上流右岸(中之島バンクス前)は,それぞれ選出された業務だが,最初の業務で実証実験を繰り返し,お客さまと共に創り上げたことから,地域のコンセプトをより深く理解でき,2件目によりよい提案ができた結果だと考える。
これらのご依頼を通し,コミュニケーションの大切さを感じた。
また,屋外照明は,単一の施設ではなく,街全体での景観であることを深く認識でき,考えることができた業務であった。
今後も街全体の景観を考えながらの計画が増えて行くことを願う。

最後に,貴重な演出照明を実現させて頂いた大阪府様並びに監修者様,一連の業務で意見をくださった皆様,設計及び工事に関わっていただいた関係各所の皆様に感謝を申し上げる。

一連の業務である玉江橋上流左岸ライトアップ(堂島川 ほたるまち前護岸),大江橋下流左岸ライトアップ(堂島川 日本銀行北側護岸)の2業務は追って報告する。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第28号掲載記事に基づいて作成しました。
(2013年5月24日入稿)


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