施設報告

ナゴヤドームの照明設備

照明事業部 営業技術部 営業技術課
照明事業部 営業技術部 LCS
照明事業部 商品企画開発部 第三開発課
照明事業部 民需特販営業部 名古屋営業課

キーワード

スポーツ照明,体験・体感型照明空間,DMX制御,演出照明

2.コンセプト(つづき)

2.2 高付加価値のフィールド照明とドーム天井照明の導入

フィールド照明LEDioc FLOOD ZEST(ナゴヤドーム仕様)(以下,ZEST)の主なポイントはグレア低減,スーパーハイビジョン対応,個別調光可能の3点である。

2.2.1 グレア低減

1点目のグレア低減であるが,既設照明設備であったHID投光器からLED投光器へと更新するにあたり,重要視されたのがまぶしさの抑制である。選手への影響がないようフィールドでの検証を行い,反射鏡方式のグレアを抑えたLED投光器が採用された。

本器具は反射鏡方式を採用しているため,光の取り出し効率が高く,また,反射鏡により遮光ができるため発光部が直接見えにくいといったメリットがある(図8)。

同等の明るさのメタルハライドランプ1500W用投光器と,ZESTの発光面の輝度分布を比較すると,正面では同程度の輝度値だが,角度が付くにつれZESTの方が低い輝度値となっている(図9)。

図8 LEDioc FLOOD ZEST反射鏡

図9 輝度比較

2.2.2 スーパーハイビジョン対応

図10 xy色度図

2点目のスーパーハイビジョン放送についてだが,テレビ放送のスーパーハイビジョン(4K・8K)撮影により色域表現が拡がることにより,今まで以上に色の再現性(演色性)が求められるため,それに対応するようRa:90以上,R9:80以上の高演色LEDを採用した。

図10にUHDTVとHDTVの色域をCIExy色度図に重ねた図を,図11に一般的な高演色LEDと本施設で採用した超高演色LEDのRaおよび特殊演色評価数R9〜R12を比較したグラフを示す。

既設照明の高演色形メタルハライドランプとの色差を抑えるため,ユニフォームや人工芝,アンツーカーを用いて色の見え方の検証を行った(図12)。

また,独自の電源回路設計により,ハイスピードカメラ撮影におけるスーパースロー再生で気になる明暗のちらつき(フリッカ)を抑えたフリッカレス点灯としており,競技者,観戦者,そしてテレビを通して観る視聴者に適した光環境の提供を可能としている。

図11 演色性比較

図12 見え方評価

2.2.3 個別調光可能

3点目は個別調光が可能なDMX制御方式である。DMX制御方式により個別にきめ細かな調光率の設定が可能となっており,特にプロ野球点灯パターンにおいては,工事完了後フィールドおよび環境席のさまざまな地点からの見え方を確認し,細かく調整を行った。

ドーム天井照明として採用した「LEDioc FLOOD FULL-COLOR」(以下,FULL-COLOR)は,色混ざりの良さと器具発光面の見え方が優れている。

カラー演出では,カラーシャドウや照射面に色分解がないことが重要であるが,一般的なフルカラー投光器の場合はRGBのSMD型LEDを並べているため,特に器具に近い照射根元部分において色分解が発生する場合がある。本器具ではRGB素子を搭載したCOB型LEDパッケージを使用しているため,有彩色光が混色された状態で照射されており,色分解が発生しない構成となっている。そのため,器具発光面と照射する光の色が同一になり,チームカラーで染め上げるシーンなどで,他の光色が目に入ることはないため,統一感のあるカラー演出が可能となる。

図13に一般的なフルカラー投光器とFULL-COLORの発光面および照射面の比較を示す。理論値上約1677万色を表現可能なFULL-COLORをDMX制御方式により個別制御が可能なため,本施設ではFULL-COLORを102台使用し多彩な演出を実現している。

図13 発光面および照射面の比較

2.3 継続的に活用できる照明制御システムの導入

従来の大型スタジアムでの演出照明機材は,施設の常設設備とは切り離されていることが多く,常設設備として導入するにはコスト面や管理面で施設への負担が大きい。また,運用面においてもイベントごとに専門技術者の立会が必要となるなど,継続的に大きな負担が強いられる。そこで本施設での照明制御システムでは,ハード,ソフト面ともに簡素化を図った,継続的に運用可能なシステムを導入した。

具体的には,プロ野球試合での進行を司る大型ビジョン送出装置と照明制御盤を連動させることで,オペレーターは照明制御システム導入前と同様の操作方法で,演出照明を活用することが可能となった。また,大型ビジョン送出装置から,照明単独の操作も可能であり,プロ野球試合のオペレーターは使い慣れたシステムの操作で照明演出を切り替えることができる。

専門性の高い演出照明の操作が不要となったことで,高いコストを掛けずに,光と映像,さらに音響とを融合させた施設全体での演出を可能にした。全体のシステムイメージを図14に示す。

図14 システムイメージ

大型ビジョンを使用しない施設利用時では,照明制御盤や専用のノートPCから演出照明の設定,操作が可能である。専用のノートPCをフィールドに持ち込めば,照明演出を体感しながら演出パターンの選択も可能である。

照明演出プログラムは,三次元空間のDMXシミュレーターを使用し専用ソフト「Color Controller」にて作成している。あらかじめ作成したプログラムデータを本施設のDMXコントローラに読み込むだけで,利用者は制御盤の操作画面からタッチ操作で再生することが可能である(図15)。また,照明演出パターンだけでなく,プロ野球点灯や展示会などの施設利用ごとに点灯パターンを登録しており,機能照明と演出照明との切り替えや設定変更が要らず,同様の操作で運用が可能となっている。

このように,オペレーションの簡易化を図ったことにより,運用開始後も演出照明を活用いただく機会が増加し続けている。

図15 操作盤画面例

図16 予備システム切替え

本施設の照明制御システムはいくつかの安全・安心対策機能を有しているが,その中の一つに,万が一システムに異常が発生した場合でもプレーの妨げにならないよう,バックアップシステムを採用している。

主操作盤に故障が発生した場合には,盤内にある切替スイッチを副操作盤に切り替えることで,点灯状態を保ったまま予備システムへの切り替えも可能である(図16)。予備システムでは,運用に最低限必要な点灯パターンを保存しており,スイッチパネルからボタン操作でパターンの切り替えが可能である。


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