施設報告

船橋競馬場ナイター照明設備設置工事 - 競馬場納入施設例 -

国内営業本部 東日本技術設計センター
国内営業本部 千葉営業所

キーワード

船橋競馬場,ナイター,省エネ,環境保護,高効率形投光器,停電対策

1.はじめに

船橋競馬場は,千葉県船橋市に位置し1950年8月に開場された競馬場であり,開場当初は競馬用コースの内側にオートレース用のダートコースを併設し,日本初のオートレースが開催されたという歴史ある競馬場である。

本競馬場は,左回りダートコース1周1,400m,コース幅25mを擁し,フルゲート14頭に対応している。また,コーナー入口から出口にかけて半径が徐々に小さくなる“スパイラルカーブ”を関東で唯一採用しており,最終コーナーでは馬が外に膨らみやすく,最後の直線で馬群がばらけ,枠順による有利,不利がないという特性を有している(図1,図2,図3,表1)。現存する地方競馬場では7番目のナイター競馬となり,「ハートビートナイター」という愛称で開催される。この愛称は,馬や騎手の「鼓動」が聞こえるほど迫力のあるレースを見てほしい,観客の「ハートを打つ」熱いレースを見てほしい,ナイターの雰囲気で恋人たちやカップルに「ドキドキ」してほしいなど,多彩な意味を持ち,一般公募で決定された。(平成27年3月竣工)

図1 競馬場昼景(第3コーナーより馬場を望む)

図2 競馬場夜景(第1コーナーよりスタンド方向を望む)

図3 船橋競馬場全体平面図

表1 周辺施設説明
施設名称 施設説明
装鞍所 これからレースに出走する競走馬がパドックに入る前に,馬体検査や蹄鉄の検査,装鞍状態や馬の健康状態などをチェックする場所。
検体所 出走した競走馬の薬物等の使用有無を検査するための検体(尿・血液)を採取する場所。
待避所 本馬場入場後,スタートゲート後方に集合する時間まで待機する場所。
花道 競走馬がパドックから本馬場に入場するための通路

2.照明計画および照明手法

2.1 照明計画

本施設の照明設計を行うにあたり,下記の事項に留意し設計を行った。

  1. レースが支障なく安全にできること。
  2. ファンが競馬の観戦を楽しめるようにし,かつ審判等の業務が正確に行えるような見え方を考慮すること。
  3. レース中の停電事故に対応できる設備とすること。
  4. 周囲環境を保護するために場外への漏れ光やグレアを抑制すること。

2.2 照明手法

照明手法については,馬場のみを照明する走路照明方式と施設全体を照明する全般照明方式がある。走路照明方式は,馬場のみを照明するため,周りが暗い分,馬場が見やすくなる。また,全般照明方式に比べ照明柱を減らすことができるため経済性,施工性に有効である。一方,全般照明方式は,全体的に明るくなり安全面では望ましいが,照明柱が多くなる分,光源が観客の目に入り競走馬が見えにくくなる可能性がある。そのため,本施設では走路照明方式を採用した。本照明方式の特徴は下記のとおりである。

  1. 観客の視線を馬場に向ける演出効果がある照明方式。
  2. 観客やレース関係者へのグレアの軽減と視認性の向上を図ることができる照明配置。
    ゴール前直線部:スタンド屋上へ配置
    向正面直線部 :馬場内側へ配置
    コーナー部  :馬場両側千鳥配置
  3. 騎手がグレアを感じることなく,安全に騎乗できるよう追跡照明を採用。

2.3 設計照度

馬場照明として,ゴール前直線は水平面で維持平均照度が750ℓx以上,向正面440ℓx以上,コーナーは440ℓx以上を確保している。また,ゴール前直線は,地盤面から1.5mの高さの鉛直面(スタンドから馬場を見た方面)で維持照度1000ℓx以上,向正面は860ℓx以上を確保している。

本施設の照明設備は馬場照明のほか,装鞍所や検体所などの周辺施設に対しても整備した。主な設計照度を表2に示す。

表2 設計照度一覧
区分 設計照度(ℓx)
水平面照度
(平均値)
馬場照明 ゴール前直線 750以上
向正面直線 440以上
コーナー部 440以上
スタート地点 440以上
周辺施設照明 パドック 500以上
装鞍所 350以上
検体所 100以上
花道 75以上
鉛直面照度
(平均値)
スタンド前直線 1000以上
向正面 860以上

3.照明設備

3.1 馬場照明

競馬場周辺には渡り鳥の生息地となっている谷津干潟があり,生態系への影響など周辺への光漏れ対策も必要であることから,馬場照明には遮光内蔵ルーバー付高効率形投光器(アクロスター™ H5312SZ,H5312DZ)を使用している。

光源は,ライブ中継用モニターやスタンドからの馬番等の色を確認できることが求められるため,より自然に見える色温度4200K,平均演色評価数Ra65の1.5kW高効率形メタルハライドランプ(MT1500B/BH-M)を使用している。

図4 スタンド前の照明設置状況(地上高19.5m柱)

光源(照明柱)の高さについては,グレアと漏れ光を考慮し,施工性や経済性にも配慮した高さとして地上高14.5mとしている。スタンド前の照明柱3基については,審判員の視認性を考慮し,スタンド側へさがった位置へ建柱している。そのため,地上高14.5mでは馬場に対する入射角が大きくなりグレアが懸念されるため,地上高を19.5mとしている(図4)。建柱位置は,スタンド棟6階にある審判室から視認確認を実施し,競馬開催や調教に支障が出ないよう配慮した。

すべての照明柱には,保安点検を考慮して,点検台と昇降タラップを設けている(図5)。また,照明柱に設置している分電盤は,落馬の際などの衝突事故防止のため,取付け高さを分電盤下端で2.5m以上としている(図6)。

図5 点検台およびタラップ設置状況

図6 分電盤の設置状況

図7 分電盤内の配線接続状況

本施設の点灯パターンは,レース用照明と調教用照明があり,調教用照明は,レース用照明の一部を点灯させて使用している。このため,分電盤内に端子台を設け,灯具ごとの配線を端子接続し,調教用照明の点灯箇所を,調教のやり方に合わせて変更できるよう利便性を図っている(図7)。

照明制御は,主制御装置をよみうりランド事務所棟中央監視室に設置し,照明操作盤をスタンド棟6階審判室に設置している。これにより,遠隔操作のほか馬場内を見ながらの操作もできるよう利便性を図っている。調教用照明は定時刻に点灯し,日の出に合わせて消灯させるようタイマー設定で使用しているが,調教の状況によって手動操作も行えるよう,調教用照明手元操作盤を馬場出入口付近にある調教師会事務所前の照明柱に設置している。このため,調教の時間にあわせて手元操作することで電力費の削減が可能となる。

停電が起こった際の安全対策として,既存の夜間調教用の照明を利用し,商用電源から発電機による照明設備に切り替え,レース開催中常時点灯の照明を設置している。これは,商用電源が停電した際の観客のパニック防止や競走馬が安全に止まることができることを目的としている。馬場照明に使用しているメタルハライドランプは,復電した場合の瞬時再点灯ができないため,調教用として使用していた既設照明器具(1kW水銀灯)を発電機からの給電による保安灯として使用している。

3.2 周辺施設照明

図8 パドックの照明状況

周辺施設についてはパドックや装鞍所などがあり,馬場照明で使用しているHID投光器と一部LED照明器具を設置している。

パドック照明の照明器具と光源は,ライブ中継や馬の仕上り等を確認するため,馬場照明と同様に内蔵ルーバー付高効率形投光器(アクロスター™ H5312DZ)と1.5kW高効率メタルハライドランプ(MT1500B/BH-M)を使用している(図8)。また,装鞍所の照明器具と光源についても馬場照明やパドックと同様とした。

図9 ゴール前のすずらん照明設置状況

検体所については,既設の照明回路から分岐して設置することから容量に制限があるため,省電力かつ長寿命である高出力形LED投光器(LEDioc CEILING HB™タイプF広角形EHCL19753N/SA1/2.4)を使用した。

ゴール照明には,スタンドに設置した馬場照明と同程度の鉛直面照度が得られる照明を設置している。これは馬が重なり合った場合に内側から着順の写真判定をする際,メインスタンドに設置した片側からの照明たけでは撮影した写真が暗くなり判定に影響を及ぼす可能性があるためである。使用光源は,写真判定に適するよう,瞬時点灯が可能な500Wハロゲン電球(JD220V500W/M)を使用した(図9)。また,設置後の試験点灯では,スローカメラによる撮影を実施し照射角度を確定させた。

本施設の照明設備一覧を表3に示す。

表3 照明設備一覧
区域 使用機器 数量(台) 高さ(m) 備考
馬場照明 1.5kW投光器 392 14.5 照明柱
46 19.5 照明柱
66 24.5 スタンド棟
20 18.0 管理棟
パドック 1.5kW投光器 6 14.5 照明柱
8 15.5 スタンド
装鞍所 1.5kW投光器 12 14.5  
190W LED投光器 2 4.2  
LED蛍光灯40Wタイプ1灯用 35 3.4  
検体所 190W LED投光器 6 4.4  
花道 1kW投光器 4 18.0 管理棟
待避所 60WLED投光器 18 4.1  
保安用照明 700W投光器 6 14.5 照明柱
ゴール前すずらん灯 投光器500Wハロゲン電球 20 5~6.8 鋼管柱
  • 注) 表中の使用機器は次の通り。
  • 1.5 kW投光器:内蔵ルーバー付高効率形投光器(H5312SZ, H5312DZ)と1.5 kWメタルハライドランプ(MT1500B/BH-M)の組合せ。
  • 1kW投光器:光害対策形投光器(HOF1301X)と1kWメタルハライドランプ(MT1000B/BH-M)の組合せ。
  • 700W投光器:丸形投光器(H566DX)と700Wメタルハライドランプ(MF700B/BH)の組合せ。
  • 190WLED投光器:LEDioc CEILING HB™タイプF広角形EHCL19753N/SA1/2.4
  • 60WLED投光器:LEDioc FLOOD NEO™超広角形ECF0681N/SA1/2/2.4/DG
  • LED蛍光灯40Wタイプ1灯用笠付形:LEDioc LEDベースライトELRW40151APFH9と直管形LEDランプLDL40S-N/29/38の組合せ。
  • LED蛍光灯40Wタイプ1灯用片反射形:LEDioc LEDベースライトELRW40161APFH9と直管形LEDランプLDL40S-N/29/38の組合せ。
  • 500Wハロゲン電球:JD220V500W/M

4.おわりに

本施設ではHID器具を使用し,馬場のみを点灯させることで,コンパクトで省エネに配慮した施設照明を実現することができた。また,周辺施設の一部ではLED照明器具を採用していただいた。近年,大型スポーツ施設向けLED投光器も開発され,全てLED投光器を使用したスポーツ施設も完成しており,競馬場施設でもオールLEDの施設が誕生することであろう。

今後,LED照明を使用した施設が増え,当社がその計画・実施に貢献できることを願う。

最後に,船橋競馬場のナイター設備の完成にあたり,株式会社よみうりランド様及び千葉県競馬組合様のご関係者並びにご指導,ご協力を頂きました全ての皆様に心よりお礼申し上げる。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第32号掲載記事に基づいて作成しました。
(2015年5月22日入稿)

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