掲載レポート

光を活用した耐候性・環境試験の最新動向

「コンバーテック」2022年12月号掲載

1. はじめに

耐候性・環境試験は、屋外暴露での評価に時間がかかる、また屋外暴露試験自体が自然相手となるため再現性が取りにくいといった課題を解決するために、約100年前に試験装置が開発された。本稿では、耐候性・環境試験を行う試験機、岩崎電気の耐候性・環境試験機の特長と併せて動向について記載し、試験サンプルやデータを紹介する。

2. 耐候性・環境試験市場の動向

耐候性・環境試験は自動車・航空機などのオートモーティブ分野、建築物・家屋などの建材分野など屋外で使われる製品や、モバイル機器、衣類など屋外でも使用される製品、また屋内での使用であっても窓ガラス越しに太陽光を受ける可能性のある製品およびその材料などで利用される試験である。また、同じ材料であっても屋内の使用前提だったものが、屋外の使用が新たに想定される場合にも評価が必要となる。新材料の採用時や、樹脂の新たな配合などの改善時には耐候性・環境試験が欠かせないものとなっている。そうした背景のため大きく市場が変化するものではないが、必要に応じた試験が求められる。

3. 各種装置の方式と役割

耐候性・環境試験といっても多種多様な試験がある。その中で耐候性試験の分類を表1に示す。屋外暴露試験と促進耐候性試験に分けられ、促進耐候性試験は使用される光源によって分類している。

表1 耐候性試験の分類
大分類 試験方法、使用光源
屋外暴露試験 直接暴露試験
アンダーグラス暴露試験
遮蔽暴露試験
ブラックボックス暴露試験
太陽追尾集光暴露試験
促進耐候性試験 オープンフレームカーボンアーク(サンシャインウェザー)
キセノンランプ式
紫外線蛍光ランプ式
メタルハライドランプ式

4. 当社の技術概要

耐候性・環境試験は他の耐久性評価にはない、太陽光に近似した光で、紫外線による劣化の再現を行うことがキーポイントであり、それを実現するためにランプの開発、不要な波長をカットするフィルター開発を中心として、配光、温室度制御技術を組み合わせている。当社では、メタルハライドランプ式とキセノンランプ式の促進耐候性試験機を扱っている。

5. メタルハライドランプ式試験機

5.1 メタルハライドランプ式概要

当社では、メタルハライドランプ式の促進耐候性試験機をアイ スーパーUVテスターの名称で販売している。現在のラインアップである試験機2種の装置外観を、図1にそれぞれ示す。メタルハライドランプは水銀をベースに鉄(ハロゲン化鉄)などを加えることで、水銀の輝線以外にも広範囲の紫外線波長が照射可能となっている。紫外線照射に加えて、温度制御、試料表面への結露、シャワー噴霧を組み合わせることで促進劣化をさせる装置となっている。照射方式としては、紫外線を上から照射する試料固定式の試験機である。

図1 アイ スーパーUVテスター外観。SUV-W161(左)とSUV-W262

本装置の1番の特長としては、メタルハライドランプ採用による強い紫外線照度である。アイ スーパーUVテスターは、太陽光の20~30倍の紫外線照度による高い促進性を持ちながら、フィルターにより地表面の太陽光に存在しない295nm以下をカットし、さらに赤外線が少ない紫外線に特化したスペクトルで、試料に余分な熱を与えない構造としている。この方式によりキセノンランプ式やオープンフレームカーボンアーク(サンシャインウェザー)式と比較しても高い促進性を得ることができる。表2にアイ スーパーUVテスターの仕様を示す。

表2 アイ スーパーUVテスター仕様
項目 仕様
光源 メタルハライドランプ
放射照度 150±8mW/cm²(300~400nm)
サイクル 照射、結露、休止
ブラックパネル温度 照射時50~85℃、休止時35~75℃(室温20℃時)
湿度 照射時40~70%、休止時50~90%(BP63℃時)
シャワー 照射中、結露前後、休止前後にシャワー可能

5.2 メタルハライドランプ式の動向

図2 アイ スーパーUVテスターのスペクトル測定例

2021年11月に「JIS A 1501樹脂製建具のメタルハライドランプによる促進耐候性試験方法」が制定された。これまで試験方法として公的規格がなかったメタルハライドランプ式もようやく標準化の一歩を踏み出したことになる。樹脂製建具はいわゆる「樹脂サッシ」と呼ばれているもので、塩ビ(アクリル積層なし)と、アクリル積層した塩ビの2つのタイプがある。そのため、試験法も両方のタイプに対応できるようA法、B法の2条件が記載されている。JIS規格制定に合わせて、アイ スーパーUVテスターでも、紫外線のみだけでなく、紫外線+可視光の光を照射できるオプションを新たにラインアップした。JIS A 1501のB法(紫外線+可視光仕様、アクリル系樹脂積層ありの試料に適用)に対応している。図2にアイ スーパーUVテスターのスペクトル測定例を示す。

6. キセノンランプ式

6.1 キセノンランプ式の概要

図3 キセノンランプ式試験機XER-W83外観

図3にキセノンランプ式試験機XER-W83の外観を示す。当社では「アイ スーパーキセノンテスター」の名称で販売を行っている。メタルハライドランプ式と異なり、回転ドラムを用いて試料がキセノンランプの周りを回転しながら照射する試料回転式となっている。

また、キセノンランプ式仕様を表3に示す。オプションの試料枠に変更することで放射照度を使い分けることができる。

表3 アイ スーパーキセノンテスター仕様
項目 仕様
光源 キセノンランプ
放射照度 標準照度試料枠20~70mW/cm²(300~400nm)
中照度試料枠40~100mW/cm²(300~400nm)
強照度試料枠60~180mW/cm²(300~400nm)
試験サイクル 照射/照射+水噴霧(シャワー)など
温度 ブラックパネル温度:40~110℃±2℃(照射時)
湿度 20~75%±5%

6.2 キセノンランプ式の動向

図4 キセノンランプ式XER-W83-Aスペクトル測定例

キセノンランプ式は、自動車分野を中心に、より太陽光に近似した分光分布の規定が増えている。プラスチックではISO 4892-2で規定されている分光分布に対して、SAE International(米国の車両、航空宇宙などに関する標準化団体)は、より太陽光に近い規定となっている。一例ではSAE J 2527(外装材規格)のデイライト試験では、立ち上がり波長のさらなる近似と、各波長域の照度の範囲が要求事項となっている。

さらに、ASTM International(以前の米国試験材料協会で世界最大の標準化団体)が策定した規格D 7869 “Standard Practice for Xenon Arc Exposure Test with Enhanced Light and Water Exposure for Transportation Coatings” がある。この規格はフロリダ南部などの亜熱帯気候をシミュレートした自動車、航空機、トラック、鉄道車両などの耐候性評価試験である。図4にXER-W83-A(ASTM D7869対応機)でのスペクトル測定例を示す。ランプ、フィルターの使用時間による劣化が少ない仕様となっている。

7. 当社の環境試験装置

7.1 EYE 4D MULTI Chamber(複合環境試験装置)の概要

当社では、耐候性だけでなく、広く屋外の環境を再現できる試験機を扱っており、それらを環境試験装置と呼んでいる。促進耐候性試験機と異なり、光、温度に特化したものもラインアップしている。その中でテストピースとしての試験だけではなく、実際の製品をまるごと試験できる装置「EYE 4D MULTI Chamber®」を紹介する

温度範囲は-40℃から150℃と幅広く、ランプは2面(天井面と側面)設置可能である。試験槽と光源部を別筐体としており、光源を選択できる仕様となっている。選択可能な光源は、紫外線メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、太陽光を近似した日射用メタルハライドランプなどである。照射試験サービスでは、UVテスターで使用している紫外線メタルハライドランプを用いた照射試験の利用が主となっている。紫外線メタルハライドランプを設置した場合、一例として100mW/cm²(300~400nm域)で1400×1100mmエリアの照射が可能である。タイヤ、車両用シート、自動車サンルーフなどは、そのまま試験が行える。

7.2 環境試験機の動向

図5 DIN/MIL-STD耐候性規格試験対応4Dマルチチャンバー外観

2021年には、DIN 75220/MIL-STD-810G(H)準拠の光源ユニットを持つタイプの装置「DIN/MIL-STD耐候性規格試験対応4Dマルチチャンバー」もラインアップに加えた。図5に外観を示す。DIN 75220は、ドイツの自動車部品の耐候性規格であり、MIL-STD-810G(H)は 米国国防総省の調達基準である。表4に示すDIN 75220およびMIL-STD-810G(H)の分光分布規定を満たす光源ユニットをオプションで選択可能である。

表4 DIN 75220およびMIL-STD-810G(H)の分光分布規定
波長域(nm) 照度割合(%) ソーダライム4mm透過率 ソーダライム4mm
越しの照度割合(%)
放射照度(W/m²)
280~320 0.5±0.2 0.07 < 0.04 5.6
320~360 2.4±0.6 0.61 1.8±0.5 26.9
360~400 3.2±1.2,-0.8 0.88 3.4±1.2,-0.8 35.8
400~520 17.9±1.8 0.89 19.2±1.9 200.5
520~640 16.6±1.7 0.89 17.8±1.8 185.9
640~800 17.3±1.7,-4.5 0.83 17.3±1.7,-4.5 193.8
800~3000 42.1±8.4 0.8 40.5±8.1 471.5
合計 1120

8. 促進耐候性試験機、環境試験装置などを使用した照射試験サービスの案内

これまで説明してきた促進耐候性試験機と環境試験機、UV-C照射試験が可能な装置について、各種試験の受託サービスを展開している。
当社の照射試験サービス利用の特長を以下にまとめた。

  • メタルハライドランプ式、キセノンランプ式など試験機タイプおよび試験条件の選択可能
  • 環境試験装置の内容積や光源の選択が可能(試料の寸法自由度UP)
  • UV-C照射試験も対応

8.1 環境試験装置の照射試験サービスラインアップ

環境試験装置の照射試験サービスとしては表5に示す3タイプをラインアップしている。試料の大きさ、試験条件によって使用装置を選定している。

表5 環境試験装置ラインアップ
試験装置 小型機 中型機 大型機
槽内寸法(mm) W1100×D1000×H1000 W1400×D1400×H1750 W1700×D1600×H2300
温度範囲 -45℃~+120℃ -50℃~+150℃ -40℃~+150℃
湿度範囲 25~95% 30~95% 30~95%
試験機外観

8.2 UV-C(254nm)照射試験サービス

図6 UV-C照射試験の様子(左右クリア部:スマホケース、中央の白部:Felicaカード)

コロナ禍でUV-C除菌を謳った製品が多く出回るようになった。それらの製品で除菌される物品(スマートフォンおよびそのケースやパスケース、筆記具、タブレットなど)やその材料についても、UV-C耐久性を評価する必要性が増している。そのためUV-C(254nm)照射試験サービスを行っている。図6にUV-C照射の様子を示す。低圧水銀ランプ(主波長:254nm)の照射試験を行うことが可能であり、今後はニーズによってUV-LEDでの照射なども検討する予定である。

9. 試験データ、試験サンプル

9.1 試験データ

試験データについて紹介する。図7に屋外暴露とアイ スーパーUVテスターの比較を示す。試料は、メラミン青塗装品である。この試験結果では、色差で屋外暴露の約25倍、光沢保持率では約33倍との促進倍率となった。

色差は未照射の試料の色と試験後の試料の色の差を色空間の直線距離として数値化したものである。また光沢保持率は、特定角度の入射光と反射光の比から求められる鏡面光沢度が未照射試料の値を100としたときの試験後試料の値の比率である。

図7 屋外暴露とアイ スーパーUVテスター(SUV-W261)の色差・光沢保持率の経時変化(メラミン青塗装)

次に図8に屋外暴露とアイ スーパーキセノンテスターの比較を示す。試料は、ABSクリーム色である。この試験結果では、色差で屋外暴露の約4.5倍、光沢保持率では約20倍の促進倍率となった。

図8 屋外暴露とキセノンランプ式試験機(XER-W83)の色差・光沢保持率の経時変化(ABSクリーム)

続いて図9に、促進耐候性試験ではデータが最も豊富といわれるサンシャインウェザーと、キセノンランプ式試験機・メタルハライドランプ式試験機を比較したグラフを示す。試料はポリウレタン白塗装品である。この試験結果では、色差でメタルハライドランプ式試験機はサンシャインウェザーの約10倍で、キセノンランプ式試験機では約1/2倍で、光沢保持率では、メタルハライドランプ式試験機はサンシャインウェザーの約12倍でキセノンランプ式試験機では約1/2倍の促進倍率となった。

図9 サンシャインウェザー、キセノンランプ式試験機、メタルハライドランプ式試験機の色差・光沢保持率の経時変化(ポリウレタン白塗装)

これらのデータから分かる通り、試験方法、試料によって促進倍率が異なる。メタルハライドランプ式試験機では促進倍率が高い特長がある。キセノンランプ式試験機については、促進倍率はメタルハライドランプ式試験機よりも低いものの、試験方法が標準化されており、ISO、JISなどの試験規格で多数採用されているのが特長である。

9.2 試験サンプル

図10 照射試験サービスのワーク例(自動車のルーフガラス)

試験サンプルの例として、環境試験装置の照射試験の様子を図10、11にそれぞれ示す。試験は表5に記載の大型機で実施している。促進耐候性試験機ではなかなかできない製品まるごと試験が可能となっている。湿度制御ありで水噴霧がない試験条件となるが、シートの変色が屋外品を再現できた例となる。

図11 照射試験サービスのワーク例(建設機械のシート)

10. おわりに

当社は、耐候性・環境試験装置について、

  • 装置製造販売
  • 照射試験サービス

の2本立てで事業を進めている。耐候性・環境試験を利用される方で、例えば、試験頻度が多い場合や、試験機をカスタマイズした試験が必要な場合は装置の導入を、また新材料、新素材切り替えのタイミングでしか耐候性・環境試験を利用しない、設置スペースがない、ランニングコストや機器管理の労力をかけたくないなどの場合は、照射試験サービスを検討いただくのが良いと考えている。

今後もニーズに合わせた製品展開、照射試験サービスの拡充に努めていきたい。

※EYE 4D MULTI Chamberは岩崎電気の登録商標

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