技術資料

黒かび(Aspergillus niger)を光照射の指標微生物として使用する際の条件の検討

技術研究所 光応用研究室

キーワード

黒かび,指標微生物,光照射,紫外線,滅菌,殺菌,不活化

1.はじめに

滅菌の指標微生物としてBacillus atrophaeusなどの芽胞を形成する微生物が使用されるが,近年,医薬・食品分野等で利用され始めているパルスドキセノンランプによる滅菌などの光滅菌技術では黒かび(Aspergillus niger)が指標微生物として利用される。その主な理由は,黒かびが紫外線耐性の強い微生物種として知られるためと考えられるが,使用する黒かびの菌株によっては紫外線耐性が異なる場合が考えられる。また,指標菌を使用する際にはクランプ形成(菌の塊形成)を無くす必要があるが1),胞子を調製する回収液や回収方法,または初発の胞子濃度など指標を作成する際の条件によっても光感受性が異なってくると考えられる。本報では,黒かびを光照射の指標微生物として使用する際の条件について検討を行ったので報告する。

2.実験方法

2.1 胞子液の調製方法

試験に供した黒かびは,日本薬局方の無菌試験法2)でSCD培地の性能試験に記載されるAspergillus niger (NBRC9455),JISのファインセラミックスの抗かび性試験方法3)でかびの菌株として記載されるAspergillus niger (NBRC105649=NBRC6341)の2種の菌株を使用した。胞子の調製には,JIS抗かび性試験方法から0.05%スルホ琥珀酸ジオクチルナトリウム(Dioctyl sodium sulfosuccinate)添加生理食塩水,ならびに胞子分散剤として用いられている0.01%Tween80(Polyoxyethylene Sorbitan Monooleate)溶液を調製後に滅菌して回収液や希釈液として使用した。胞子液は,適量の回収液を7日間培養して生育させた黒かびの培地に注ぎ込み,白金耳のループを利用して培養面を軽く擦って胞子を離脱させ,数枚の滅菌ガーゼを用いてろ過した。ろ過後に胞子の凝集を防ぐため超音波処理10分間行った。調製した胞子液は,回収液を用いて10倍希釈法により調製して所定の条件で培養後に胞子濃度を算出した。

2.2 試験インジケータの作製方法

液体評価用の試験インジケータは,所定の初発胞子数になるように胞子液を希釈液を用いて希釈して,ø55mmのシャーレ内に10mℓ入れて試験に使用した。表面評価用には,スライドグラスなどの坦体に胞子をスポットして乾燥させたものを作成して使用した。検討した担体は,スライドグラス,メンブレンフィルタ(孔径0.45μm,ø47mm),アルミ箔(25-50mm□),吸収パッド(厚み約1mm,ø47mm),ガラス繊維ろ紙(GB100-R,ø47mm)の5種類,担体にスポットした胞子の容量は20μℓ,直径10mm程度の円形の大きさになるように広げ,一昼夜クリーンベンチ内で風乾した。表面評価用の試験インジケータを図1に示す。この試験インジケータでは,0.05%スルホ琥珀酸ジオクチルナトリウム添加生理食塩水を回収液として使用した胞子液を用いた。

図1 試験インジケータ

2.3 紫外線感受性試験の方法

図2 紫外線感受性評価装置

試験に使用した紫外線感受性評価装置(岩崎電気(株)製)を図2に示す。紫外線源として8W低圧水銀ランプ(UVランプ)2灯を配置,0.1秒単位でシャッターを開閉して照射時間を制御できる装置となっている。液体評価の試験インジケータの場合は,胞子液の入った試験インジケータをシャッター下方のスターラ上に置き,撹拌しながら設定した所定の時間照射した。表面評価用の試験インジケータの場合は,スターラの試験サンプルの間にスペーサーを入れて液体試験サンプルの液上面と照射距離が同じになるように高さを調節して所定の時間照射をした。

2.4 紫外線照度および紫外線照射量の計測方法

紫外線ランプから照射される紫外線の照度の計測には,ヨウ素・ヨウ素酸による化学線量計4),5)を使用した。液体評価の試験インジケータの場合は,化学線量で求めた液面の紫外線照度(mW/cm²),胞子液の紫外線吸光度(cm⁻¹)と深さ(cm)から平均紫外線照度(mW/cm²)を求め,照射時間(t)を掛けて紫外線照射量(mJ/cm²)を算出した。表面評価の試験インジケータの場合は,化学線量で求めた液面での紫外線照度に,照射時間を掛けて紫外線照射量とした。

2.5 試験インジケータからの胞子の洗い出しと培養方法

液体評価用の試験インジケータの場合は,インジケータとして使用した胞子液を,そのまま,あるいは10倍希釈法により希釈してPDA培地に所定量を塗抹して培養に供した。表面評価用の試験インジケータの場合は,胞子がスポットされた担体を10mℓ容量スピッツ管に入れ,そこに10mℓの滅菌水を注ぎ,激しく撹拌した後,10分間超音波処理を施して胞子を滅菌水中に洗い出した。洗い出した胞子液は液体評価用と同様に適当に希釈して培養した。黒カビの培養は,全てPDA培地を用いた平板塗沫法(26℃,3~7日間恒温培養)で行い,培地に出現した集落を計数して評価した。

2.6 顕微鏡観察の方法

試験インジケータ上の胞子のクランプ形成状況を確認するため実体顕微鏡(キーエンス製)を用いて観察を行った。試験インジケータとして使用した10⁶胞子のサンプルでクランプ形成の有無を評価したが,参考として10⁸個胞子のサンプルも作製して状態を観察した。

参考文献

  1. 新谷英晴:日本防菌防黴学会誌,Vol.37,No.1,pp.21~33(2009).
  2. 第十五改正日本薬局方,一般試験法 4.06 無菌試験法,p.86(2006).
  3. JIS R 1705,ファインセラミックス-光照射下での光触媒抗かび加工品の抗かび性試験方法,日本工業規格(2008).
  4. R. O. Rahn, et al.:Quantum Yield of the Iodide-Iodate Chemical Actinometer: Dependence on Wavelength and Concentrations, Photochemistry and Photobiology, 78(2), pp.146-152 (2003).
  5. 小暮勝之,石飛裕和,吉野潔,岩崎達行:第35回日本防菌防黴学会年次大会講演要旨集,p.48(2008).
  6. 小暮勝之,柴田陽光,吉野潔,岩崎達行:第36回日本防菌防黴学会年次大会講演要旨集,p.161(2009).

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