技術資料

光環境評価システム「QUAPIX™」(その2) - 活用事例 -

技術研究所 照明研究室

キーワード

光環境評価,QUAPIX™,視覚心理画像

3.事例

当社では,実空間の評価,レンダリングソフトにより得られた仮想空間の評価などを行ってきた。以下に,QUAPIXによる評価事例を紹介する。

3.1 美容室(メークスペース)における評価事例

図2に都内某所の美容室における評価事例を示す。美容室では一般に,顧客の顔面を多方向から一様に照射し,眼窩,鼻の下,ほうれい線などに影ができない照明計画が必要とされる。また,顧客,美容師双方にとってグレアを感じさせない照明器具配置,選定を行うことも重要である。

当該美容室においては,メーク専用スペースが特に暗く,顧客の顔色が沈んで見えるため,改修の必要があった。当社はスポットライトを用いて,顧客前方および側方の壁面を一様に照射し,その間接光で顔面に多方向から一様な光が入射するよう提案を行い,同時にQUAPIXにて,その評価を行った。

左は現状,右は提案後の写真。顔の見え方を評価するために撮影した。

顔面の明るさ画像(左,現状。右,提案後)。

顔面の視認性画像(左,現状。右,提案後)。

図2 美容室(メークスペース)における評価事例

図2の評価結果を見ると,顔面の明るさについて改善が見られる。顔面の視認性画像を比較すると,眼窩のくぼみ,小鼻の脇,鼻の下の影などについて,提案後の方が視認性が低く,影が見えにくくなっていることがわかる。

3.2 百貨店における明るさ評価事例

図3に都内某所の百貨店における評価事例を示す。当該施設においては,こども服コーナーとおもちゃコーナーが隣接しており,おもちゃコーナーが暗いため,その原因について調査を依頼された。評価結果を見ると,こども服コーナーでは,内照式のPR看板や商品棚に間接照明が施されている,全体的に反射率の高い材料で構成されているなど,明るさを高める工夫がなされている。これに対し,おもちゃコーナーでは,ベース照明があるのみで,構成要素の反射率も低いことがわかる。

左が写真。右が明るさ画像(尺度値5-9を表示)。

図3 百貨店における明るさ評価事例

3.3 レンダリングソフトによる明るさ予測事例

図4にレンダリングソフトによる予測事例を示す。当該事例では,照明条件を一定に保ったまま,壁面の反射率を変化させた2条件において,モニター(画像中央)の明るさの違いを評価した。2条件それぞれのレンダリング結果より,輝度分布画像を生成し,それをもとに明るさ画像を生成した。明るさ画像を見ると,壁面反射率が低い条件において,高反射率条件よりもモニターの明るさが強く感じられることがわかる。

仮想空間(居室)のレンダリング結果。
左は反射率が高い場合,右は反射率が低い場合。

居室の明るさ画像。左は高反射率,右は低反射率。

図4 レンダリングソフトによる明るさ予測事例

3.4 カー用品店における目立ち評価事例

図5に都内某所のカー用品店の事例を示す。当該施設では,施工時にスポットライトの角度調整が適切に行われていなかった。そこで,弊社はスポットライトの角度調整を行い,商品の光沢や,際立ち度合いの改善を試み,同時にQUAPIXにて,その評価を行った。図5の目立ち画像を見ると,平棚に展示されたタイヤホイールなどの目立ちが,大幅に改善されていることがわかる。

左が角度調整前,右が角度調整後の写真。角度調整は平棚の商品(写真左)が目立つように行われた。

左が角度調整前,右が角度調整後の目立ち画像。

目立ち画像の一部を拡大表示したもの。

図5 カー用品店における目立ち評価事例

3.5 アパレルショップにおける目立ち評価事例

図6に都内某所のアパレルショップにおける,トルソーの評価事例を示す。当該施設においては,トルソー(図6各中央)があまり目立っていなかったため,スポットライトを高出力タイプに変更した。変更後の状況について,QUAPIXを用いて目立ち評価を行い,施主に提出した。図6の評価結果を見ると,高ワットのスポットライトの使用により,トルソーの目立ちが確保できていることがわかる。本件に関しては,ベース照明を少し控えめにし,全体の明るさを低下させれば,より効果的に目立ちを演出でき,かつ省エネになると考えられる。

左が写真。右が目立ち画像。

左が写真。右が目立ち画像。

図6 アパレルショップにおける目立ち評価事例

3.6 トンネルにおける輝度測光事例

図7にトンネルの輝度測光の事例を示す。本件では,規制を行っていないトンネル内を走行中に,車中からQUAPIXにて撮影し,輝度の簡易測光を試みた。あくまで簡易測光ではあるが,現状の平均輝度の確認方法としては便利であると考えられる。

左が現場写真。右が輝度分布図(単位は[cd/m²])。

図7 トンネルにおける輝度測光事例

3.7 公園の階段における視認性評価事例

図8に都内某所の公園における,階段照明の事例を示す。階段においては,階段の踏み面と蹴上げが区別できることが必要である。この事例では,若齢者の視認性画像と高齢者の視認性画像の両方を作成し,検討を行った。高齢者の視認性画像を見ると,若齢者のそれと比較し,全体的に視認性が低く出力されている。問題となる踏み面と蹴上げの輪郭については,若齢者については,「よく見える」~「見える」程度だが,高齢者では「見える」~「かろうじて見える」程度となる。従って,高齢者にとっては,視認性が不足していることがわかる。

左が現場写真。右が輝度分布図(単位は[cd/m²])。

左が若齢者,右が高齢者の視認性画像。

図8 公園の階段における視認性評価事例

3.8 道路照明実験における視認性評価事例

図9に某実験道路での交差点実験の事例を示す。左列は従来器具による,連続配置における交差点の照明パターン,右列は交差点専用照明器具による,コーナー配置における照明パターンの測定結果を示す。いずれの照明パターンにおいても,横断歩道上に横断歩行者を配置している。

交差点照明では,横断歩行者がよく見えること,交差点内の状況が良くわかること,などが重要である。

視認性画像(高齢者)で比較すると,歩行者の輪郭,横断歩道白線のいずれも交差点専用照明器具による照明パターンのほうが視認性が高い値となった。

左が従来配置,右がコーナー配置を示す。右折時のドライバーの視点にて撮影。横断歩道あり(中央右)。

高齢者の視認性画像(左,従来。右,コーナー配置)。

図9 道路照明実験における視認性評価事例

4.おわりに

本報では,光環境評価システムQUAPIXによる,評価事例を紹介した。本システムを用いれば,クオリアに基づく現状分析,改修提案,レンダリングソフトとの組み合わせ使用による,クオリアに基づく設計,これらのいずれもが実現可能となる。また,空間に要求されるクオリアを満足させると同時に,省エネ要求をも満足させるような設計提案を行うことも可能である。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第21号掲載記事に基づいて作成しました。
(2009年10月26日入稿)


テクニカルレポートに掲載されている内容は、原稿執筆時点の情報です。ご覧の時点では内容変更や取扱い中止などが行われている可能性があるため、あらかじめご了承ください。