技術資料

ウェーブレット解析を用いた目立ち画像生成システム

研究開発本部 技術研究所 照明研究室
東京工業大学 大学院総合理工学研究科 人間環境システム専攻 准教授 中村 芳樹

キーワード

目立ち画像,離散ウェーブレット,輝度分布画像,輝度対比,照明設計

3.実験(つづき)

3.3 実験装置

図1 実験装置

図1に実験装置を示す。実験装置は,簡易な顎台を備えている。被験者眼球と実験刺激呈示位置との距離(視距離)は300mmであった。スクリーンサイズは,600mm四方の正方形とし,このサイズは観測位置から見て,視野角90deg四方となるサイズである。

3.4 実験条件

被験者は座位にて,前記所定の位置に固定された顎台に顎を固定し、透過スクリーンに投影された実験刺激を観察した。実験装置内は暗室環境とし,実験装置外からの光は暗幕にて,可能な限り遮断された(図1)。

170種類の実験刺激が,プロジェクター(ELP-73,EPSON,RGB液晶シャッタ投影方式,コントラスト比 500:1,1500 ANSI lumen)により呈示された。実験刺激は,様々なサイズおよび輝度のバリエーションを有する円形ターゲットと,様々な輝度のバリエーションを有する90deg四方の正方形背景領域との組み合わせにより,呈示された(図2の例参照)。円形ターゲットは,全て背景領域の中央部に呈示された。5種類の輝度比(ターゲット輝度/背景輝度=0.10,0.30,3.0,10,30)および,10種類のターゲットサイズ(0.10,0.50,1.0,2.0,5.0,10,15,20,30,60deg)が予め設定された(表1参照)。全ての実験刺激は,Adobe社の画像編集ソフトphotoshopにて作成された。

輝度比(ターゲット輝度/背景輝度)が1.0以上となる実験刺激を正対比刺激,1.0以下となる実験刺激を逆対比刺激と呼ぶ。また,正/逆対比刺激それぞれにより生じる目立ちを正/逆対比目立ちと呼ぶ(以下同じ)。

図2 呈示刺激の例

表1 刺激呈示パターン

輝度比(ターゲット/背景)
30 10 3.0 0.30 0.10
ターゲット輝度[cd/m²] 800 * * *

200
* * *
50 * * * * *
10
* * * *
1.0


* *
  • ※ターゲットサイズは0.10,0.50,2.0,5.0,10,15,20,30,60degの10種類。
  • ※表中の網掛け部はプロジェクターレンズにNDフィルターを装着して実現した。

3.5 評価実験

目立ちは,他の対象との比較によって評価しやすいという性質があり,予備実験において,被験者は単一の実験刺激のみによっては,目立ちの評価が困難であると感じた。このため,以下の2段階の手順で評価が行なわれた。

まず実験1において,マグニチュード推定法により,予め設定した基準刺激と実験刺激との比較により,評価が行なわれた。次に実験2において,実験1で用いた実験刺激の一部を,表2に示すような13段階の評価尺度により,単独で評価した。以下に詳細を示す。

表2 13段階評価尺度
目立ち評価語句 評価値
非常によく目立つ 13
よく目立つ 11
目立つ 9
やや目立つ 7
かろうじて目立つ 5
どちらでもない 3
目立たない 1

3.6 実験1(マグニチュード推定法)

マグニチュード推定法により,前記170種類の実験刺激について,評価が行なわれた。被験者は,基準刺激(ターゲットサイズ20deg,ターゲット輝度50cd/m²,背景輝度17cd/m²)から感じる目立ちを100ポイントとみなし,実験刺激の目立ちを,正の実数の範囲で応答した。

実験刺激は,その平均輝度により,4つのグループ(高輝度,やや高輝度,やや低輝度,低輝度)に分けられ,各グループ内において,ランダムな順序に並べ替えられ,この順序により呈示された。基準刺激は,それぞれのグループの先頭に呈示され,被験者は,基準刺激の目立ちを100ポイントとして記憶した。基準刺激の呈示後,実験者は,実験刺激を一枚ずつ呈示した。このとき,各実験刺激の呈示の間に,順応用刺激を3秒間呈示した。この順応用刺激は,その直後に表示される実験刺激と同一の平均輝度を有する,無模様均一輝度の刺激である。

平均輝度を基準にしてグループ分けを行ない,グループ毎に呈示したのは,被験者の瞳孔径を,出来うる限り一定に保ち,評価への影響を少なくしようとする趣旨である。また,順応用刺激は,ひとつ前に呈示された実験刺激の影響が,後の刺激評価になるべく影響を及ぼさないようにする目的で採用された。

各グループの途中で,被験者が基準刺激をもう一度確認したい旨,実験者に申し出た場合,実験者は,そのつど速やかに基準刺激の呈示を行なった。

3.7 実験2(13段階評価尺度)

前記の170種類の実験刺激のうち,適当な27枚の実験刺激を選択し,実験2の実験刺激とした。評価には,表2に示す13段階目立ち評価スケールが用いられた。このスケールは,実験装置の内側(被験者席の左壁)に貼付されており,被験者は,実験中にスケールの確認を行なうことができた。実験2では,実験1で設定したような基準刺激は設定されなかった。被験者は,実験刺激一枚のみを観察し,評価尺度のいずれかを選ぶことで,その目立ちを応答した。

実験1と同様に,実験者は,予めランダムに並べ替えられた実験刺激を,一枚ずつ呈示した。各呈示刺激の間には,実験1と同様,順応用刺激が3秒間呈示された。

4.実験結果

図3 13段階評価尺度への近似

図3は,実験2において選定された27種の実験刺激についての,マグニチュード推定法による評価と,13段階評価スケールによる評価の関係を示している。2変数ともに20名の被験者の評価の平均値がプロットされている(グラフには,同一輝度比を有する実験刺激についてそれぞれの平均評価値をさらに平均し,計14点をプロットした)。両者の関係は,線形近似式により,精度よく近似することができた(R²=0.97)。近似式を以下に示す。

13段階尺度評価値
=0.063×マグニチュード評価値+0.37 ・・・・・(1)

上記の近似式を用いて,実験1における全ての評価結果を13段階尺度評価値に代替し,以下の分析に用いる。図4は代替された13段階評価値(20名の被験者の平均値を式(1)により代替した値,以下同じ)と輝度比との関係を示している。図5は代替された13段階評価値と,ターゲットサイズとの関係を示している。図4,5より,以下のことが考察される。

  1. すべてのターゲットサイズ条件において,輝度比が強くなればなるほど,目立ちが大きくなる。この傾向は,正/逆対比いずれの条件においても成立する。
  2. すべての輝度比条件において,ターゲットサイズ30deg付近で,目立ちの大きさがピークとなる。ターゲットサイズが180degの仮想条件では,被験者は刺激を目立たないと答えると推定される。これは180degのターゲットを,平面で構成しようとした場合,その大きさは無限大に達するため,被験者はそのターゲットのみしか視認できず,均一な輝度刺激としてしか認知できなくなるためである。このため,30degよりもターゲットサイズが大きくなっていくと,目立ちは徐々に減少し,180deg以下のある大きさにおいて評価値1(目立たない)に達すると推定される。

図4 実験結果(輝度比と評価値)

図5 実験結果(サイズと評価値)


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