技術資料

霧環境下における照明シミュレーションソフトの開発(その2)

技術開発室 技術部 技術開発グループ
国内営業事業部 東日本営業部 札幌営業所 技術課
中央大学 理工学部 牧野 光則

キーワード

安全,安心,霧環境,視線誘導灯,照明,シミュレーション

1.はじめに

交通安全を目的に,霧環境下での自発光式視線誘導灯の見え方,及び霧環境下での障害物の見え方が机上で検討できる照明シミュレーションソフト(以下,単に「ソフト」と略す)の開発に2005年4月から取り組んできた。

光の散乱モデルとして,霧の粒子の大きさと光の波長を考慮して,幾何光学散乱を採用した。また,牧野氏作成のレイ・トレーシング法を組み込んだCGプログラム“RaTELS”をベースにソフト開発を進めた。

ソフトの検証を行うために,交通安全環境研究所の低視程棟を使用し,霧の有/無,太陽光(蛍光灯)の有/無の環境下での実験を行い,更に,障害物については,照明灯有/無の環境下での実験を追加し,データを取得した。

今回は前報1)の続報として,開発したソフトと実験データの検証を中心に報告する。

2.開発ソフトの概要

2.1 ソフトの構成

多くのシミュレーション手法では,散乱特性とモンテカルロ法を使って,シミュレーションを行っている。この方法だと1回のシミュレーションに数十時間を費やしてしまう。今回は,モンテカルロ法の代わりに,確率分布を使う手法を用い,同時に時間短縮を図った。

また,計算した結果を可視化(分かり易く)するために,CGの代表的レンダリング手法であるレイ・トレーシング法を組み込んだソフト“RaTELS”をベースに,開発を行った。開発言語として,画像処理に適したC言語を用いた。

データファイルは,CRTに表示させるためのスクリーン設定部,配光やエイミング点を入力する光源データ設定部,道路や誘導灯を定義するための物体データ設定部,及び霧や太陽の条件を入れる為のその他の設定部から成り立っている。

図1にシミュレーション計算のフローチャートを示す。

図1 計算のフローチャート

2.2 実行例

計算を行う場合は事前に,環境データ(2.1節で述べた)を作成し,ファイル名を付けて保存し,更に,誘導灯や照明灯の光度,障害物の反射率等はマクロ変数で定義しておく必要がある。ソフトを実行すると,入出力のファイルとして,環境データの入力ファイル名と計算結果を格納する出力ファイル名5つを順番に聞いてくる。

  • 実験環境データファイル名(スクリーン設定部,光源データ設定部,物体データ設定部データ格納ファイル)
  • 画像出力ファイル名(レイ・トレーシング法による画像ファイル)
  • 輝度出力ファイル名(ピクセルごとの輝度値:バイナリー)
  • 誘導灯計算結果出力ファイル名(誘導灯の指定面の輝度値:テキスト 図4参照)
  • 路面計算結果出力ファイル名(路面の輝度値:テキスト)
  • 障害物計算結果出力ファイル名(障害物の指定面の輝度値:テキスト)

図2に実行画面例を示す。

図2 実行画面(入出力ファイル指定)

続けて,計算の種類を示す番号(1~6)を選び,視程値と霧の厚さ(高さ方向)を入力する。種類には,1.視線誘導灯のみ,2.視線誘導灯+太陽光,3.障害物+照明灯,4.障害物+太陽光,5.障害物+照明灯+太陽光,6.床面水平面照度,があり,6の床面水平面照度はMie散乱式との比較を行うために,特別に組み込んだものである。

図3に実行画面例を示す。

図3 実行画面(環境設定)

計算が終了すると,前述の出力ファイルに結果が格納され,計算結果(図4)や画像(2.3節の図6,図8)が得られる。

図4 誘導灯計算結果

2.3 シミュレーション結果

このソフトを使って,実験棟内部と同じ条件でシミュレーションし,可視化したものを下図に示す。条件は,霧の視程36mと26m,太陽光あり(床面水平面照度1300ℓx)である。図5は視程36mの実験現場の写真,図6はそのシミュレーション画像である。図7は視程26mの実験現場の写真,図8はそのシミュレーション画像である。

実験現場では,誘導灯を1灯ずつ点灯して,測定を行った為,写真では片方が明るく光っている画像となっている。開発ソフトでは2灯同時に点灯させた状態の画像である。誘導灯の面輝度はほぼ同じであるが,写真では誘導灯の周辺に「にじみ」が見られるのに対し,解析画像ではそれがはっきりとは表現されていない。その原因については,可視化する時点での数値設定の問題なのか,開発ソフト側の計算能力の問題なのか,不明であり,今後の検討課題とする。

図5 視程36mの現場写真

図6 視程36mのシミュレーション画像

図7 視程26mの現場写真

図8 視程26mのシミュレーション画像

参考文献

  1. 上野,他:霧環境下における照明シミュレーションソフトの開発(その1),IWASAKI技報No.14,pp.24‐27(2006)

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