技術資料

画像処理による油膜検知に関する基礎的研究(その1)

技術開発室 技術部 技術開発グループ
日本大学 生産工学部 電気電子工学科 池本 直隆

キーワード

画像処理システム,油膜,検知,干渉縞,CIE色度図

1.はじめに

画像処理システムは人間の視覚能力を機械に持たせるものとして,現在FA(FA:Factory Automation)やセキュリティなど多くの産業分野で開発が進んでいる。特にセキュリティ分野では,監視カメラ・監視モニタとそれぞれの周辺機器からなる映像監視装置および画像処理システムが,子供を対象とした犯罪の増加,共同住宅および駐車場,繁華街の犯罪抑制のため,設置ニーズが拡大してきている。

しかしながら,検知対象が明確であるFA分野に対し,セキュリティ分野では検知対象が人間,車,障害物,道路状況などの環境情報であり,検知領域も広いため,FA分野で見られるような,安定した照明環境下で検知することが困難である。

本研究は,環境情報の1つとして水面上に存在する油膜を,比較的簡易な照明と画像処理によって検出するシステムの開発を目的としている。

研究の基礎段階として,水面上に拡散した油膜が虹色の干渉縞を形成することに着目し,水面上の油膜を対象とした画像処理方法および照明手法を考案した。さらに基礎実験によりその妥当性の検証を行なったので,その結果について報告する。

2.画像処理システムの基本構成

画像処理システムの基本構成を図1に示す1)。画像処理システムの基本構成は,対象に照明や光学処理を施し,画像変換を行なう“画像形成”の過程と,得られた画像から特徴を解析し評価・判定を行なう“画像解析”の過程から成る。

画像処理システムにおける照明の役割は,対象から獲得すべき情報を最もよく表現する画像特徴を精度よく,安定に表示したり生成することにある。したがって画像処理システムを構成する場合には,検知対象の光学特性を把握し,画像変換した場合にその特徴を最もよく表現するために適切に照明を行なわなければならない。また,昼間の屋外などでは太陽光などの外乱光の影響なども考慮に入れる必要がある。

図1 画像処理システムの基本構成

3.油膜の光学特性

図2 水面上の油膜の光学特性(油膜の干渉)

本研究では,水面上に拡散した油膜が虹色の干渉縞を形成することに着目し,これをカラーカメラ等で撮影し,得られた画像から虹色の干渉縞を画像処理により抽出することによる油膜検知方法を提案する。そこで,はじめに検知対象となる油膜の光学特性について明らかにする。

水面上の油膜による虹色の干渉縞形成の原理図を図2に示す。

水の屈折率は1.33であり,油の屈折率は油の種類によって異なるものの,およそ1.4から1.5である。この油が水面で拡散し薄い油膜となった場合,図に示すように,水面上の油膜に入射した光は油膜面で正反射する反射光Rと,屈折し油膜内に入り水面と油膜との境界面で反射する反射光R’とに分かれる。このとき,入射する光の波長をλとすると,反射光RとR’の光路差⊿は,

この光路差⊿が入射する光の波長λの整数倍のとき,反射光RとR’の位相が等しくなり,波長λの光が強めあうことになる。また光路差⊿は油膜の屈折率と膜厚によって変化する。したがって水面上の油膜に多くの波長成分を持つ入射光が入射した場合,油膜の膜厚が場所や時間によって変化することで,入射光に対して正反射方向で水面を観測すると,水面上に虹色の干渉縞が観測されることになる。

このことから,水面上の油膜により形成された虹色の干渉縞を撮影するためには,分光分布が広い光源で照明を行なう必要がある。また虹色の干渉縞が入射光に対して正反射方向で観測されることを考えると,水面上の油膜に均一に映りこみが生じるような面光源が必要になる。これは,油膜による虹色の干渉縞を同条件で撮影を行なうためである。

参考文献

  1. (社)精密工学会 画像応用技術専門委員会:画像処理応用システム,東京電機大学出版局(2000).

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