技術資料

殺菌へのUV応用の理論と応用実例

光応用事業部 光応用開発部 ソフトエンジニアリング課

キーワード

UV,殺菌,滅菌,応用,食品,衛生,医療,表面殺菌,流水殺菌,空気殺菌,パルス光

3.応用実例(つづき)

3.3 医療分野

3.3.1 パルス光照射

医療分野では,UVは簡単な殺菌方法として,スリッパの殺菌や医療器具保管庫などに利用されているが,先に述べた表面殺菌装置も薬液充填室搬入前の包装材の殺菌などに多く用いられている。また,近年,医薬品の製造現場など高レベルの殺菌が要求される分野で,キセノンランプのパルス(閃光)を利用した殺菌装置も使用されはじめている。この装置は,キセノンガスを封入した光源をパルス点灯させ,その光で殺菌する装置である(以下「パルスドキセノン殺菌装置」と呼ぶ)。本装置の特長として,

  1. 高レベルの殺菌能力(滅菌も可能)
  2. ワークに熱を与えない。
  3. 殺菌に有効な紫外線を放射する。
  4. 瞬時点灯,瞬時安定でありシャッター機構が不要。
  5. ランプは水銀などの金属が入っていないので環境にやさしい。

などがあげられる。

パルス光を用いた装置は,1980年代に容器やフィルムの表面殺菌への利用が検討されていたが,その当時の装置ではパワーが不足し,高出力タイプの低圧水銀ランプの登場などにより実用化が進まなかったものと思われる11)。1996年になって,米国のピュアパルス社が「光パルス滅菌装置」を開発し,それが米国食品・医薬品管理庁(FDA)<パート179>の中で認可されたことが紹介され,日本でもパルスドキセノン殺菌装置が認知されることとなった。その後,その特徴を生かした使用方法が食品・医療分野で検討され12)13)14),日本国内でもその性能を確認できる装置が登場した(図7)。使用されるランプは,蛍光灯と同様に電極と石英管などのガラス管内にキセノンガスを封入したものである。その分光特性は低圧水銀ランプの輝線スペクトルとは異なり紫外域から可視域,赤外域に渡る幅広い分布を示す(図8)。装置は,キセノンランプを内蔵した照射装置と電源装置からなり,照射装置は光を有効に対象物に照射できるように光を反射させる反射板と光源を冷却させる水冷・空冷機構などが設けられている。電源装置は,エネルギーをコンデンサに蓄電し,それを瞬間的に高電圧で放出させるような機構になっている。

図7 パルスドキセノン殺菌装置

図8 パルスドキセノンランプの分光分布

装置の入力からパルスドキセノンのエネルギーを表現すると次のとおりである。

E = 1/2CV²

ここで

E
入力エネルギー (J <ジュール>)
C
コンデンサ容量 (F <ファラッド>)
V
電圧 (V <ボルト>)

但し,上記のエネルギーは,「ランプに蓄電」されたエネルギーのことで「殺菌対象物が受けたエネルギー」ではないことに留意されたい。パルスドキセノン殺菌装置は,従来の低圧水銀ランプタイプより瞬時に1000倍以上の放射照度が得られるので短時間で高レベルの殺菌効果が得られ,さらに260nm付近のUVが透過しなくても殺菌効果のある300nm以下の波長の光が放射されているので包装材を通して中身の殺菌にも有効である。表1に代表的な指標菌である枯草菌芽胞(Bac.subtilis NBRC16183 spores)および黒麹カビ(Asp.niger JCM2261)をアルミ箔上にスポットして作成したバイオインジケータ,ならびに20容量PEボトル内液(生理食塩水)の殺菌結果15)を示す。

表1の結果より,次のことが分かる。

  1. 非常に高い殺菌効果がある。(特に充電エネルギーの大きい方が効果的)
  2. 黒麹カビに対して,照射距離が短いと殺菌効果が非常に高い。
  3. 低圧水銀ランプの場合と比較して,枯草菌と黒麹カビとの光に対する感受性の差が少ない。
  4. PEボトル内部の液体の滅菌も可能である。

など,パルスドキセノン殺菌装置の特長を裏付ける結果が得られている。

実際に装置を導入する際には,実験装置を用いて,必要入力エネルギー,パルス回数,反射板形状などの仕様を決めていかなければならない。また,導入に先立ち殺菌効果や対象物の変質など確認する必要があるのは表面殺菌装置の場合と同様である。

表1 6桁(6D)殺菌に要するパルス数
(a)500J-2灯用装置を用いた結果
アルミ箔上で菌液をスポットして乾燥したサンプル。
照射距離 枯草菌芽胞 黒麹カビ胞子
50mm 4 2
100mm 6 15
(b)2000J-1灯用装置を用いた結果(黒麹カビ胞子)
PEボトル内液の容量20ml,生理食塩水中に黒麹カビ胞子を注入。
入力エネルギー アルミ箔上スポット PEボトル内液
1000J 3 3
1500J 1 2
2000J 1 1

4.おわりに

UVを用いた殺菌技術は古くからのものであるが,近年のランプの効率化,高出力化により一段と実用性が高まり,食品工場や製薬工場のラインでは殺菌工程として不可欠な装置となってきている。また高圧水銀ランプ,無電極ランプ,キセノンランプなど新しい光源の登場により,その用途は確実に広がっている。また,パルスドキセノン装置は,「UVでは照射した表面しか殺菌できない。」といった固定観念から,内容物まで殺菌(滅菌)できる技術として,今後多方面に利用分野が広がっていくものと期待される。

参考文献

  1. 木下忍:パルスドキセノン滅菌装置,クリーンテクノロジー,Vol.12,No.7,pp.36-39(2002).
  2. 木下忍:パルスドキセノン殺菌装置,フードケミカル,Vol.19,No.6,pp.32-35(2003).
  3. 川俣,古川:医療用品製造における滅菌の現状と将来,防菌防黴,Vol.28,No.2,pp.113-115(2000).
  4. 竹下和子ほか:各種微生物に対する閃光パルスの殺菌効果,防菌防黴,Vol.30,pp.277-284(2002).
  5. 小暮,吉野,木下:パルスドキセノン殺菌装置,防菌防黴,Vol.31,pp.385-391(2003).
  • 注)本稿は,照明学会誌 第88巻第4号p.197~201(2004年)に掲載された記事を加筆修正したものである。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第11号掲載記事に基づいて作成しました。
(2004年10月13日入稿)


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