技術資料

ソフトエレクトロン(EB)を利用した種子殺菌技術

光応用事業部 光応用開発部 EB開発課

キーワード

ソフトエレクトロン,殺菌,種子,電子線(EB)

3.ソフトエレクトロン殺菌の特徴(つづき)

3.2 ソフトエレクトロンの殺菌能力

前述したように,種子の表面および表層部だけの殺菌が可能なのは,ソフトエレクトロンの浸透能力が,ガンマ線や高エネルギーEBよりは小さく,紫外線よりも大きいためである。図2にソフトエレクトロンの浸透能力を示した。ソフトエレクトロンは粒子線であるから,対象物中に入り込むと急速にエネルギーを失い,そのエネルギーが対象物内で殺菌作用となって効果を示す。縦軸は表面部分でソフトエレクトロンが対象物に与えるエネルギー(吸収線量)で,横軸は浸透する深さを[g/m²]という単位で表している。これは対象物の密度が1であれば,横軸の数字はそのまま[μm]と読み替えても良い。この図から分かるように,ソフトエレクトロンの作用する深さは,エネルギー(加速電圧)にもよるが,高々数100μmである。種子の種類にもよるが,種子殺菌に必要とされるエネルギーは50~200kV程度である3)4)

図2 ソフトエレクトロンの浸透深さ

4.ソフトエレクトロン殺菌の取り組み

これまでに,ソフトエレクトロンを利用した殺菌について,社内外でさまざまな試験的な取り組みが行われてきた。光応用事業部は,ソフトエレクトロン装置を実生産ラインの一部として納入した実績がある。これは従来の薬剤による容器殺菌の代替手段として利用されるものである。

光応用開発部は,(社)日本施設園芸協会の事業の一環として,農水省の支援のもとに,平成13年度より野菜種子のソフトエレクトロン処理の開発研究委託事業に参加している。穀物や一部豆類に対するソフトエレクトロン処理の殺菌に関しては先駆的な研究があり5),これを基礎として,同手法を野菜種子にも適用し,研究するものである。この事業には岩崎電気を含め3企業が参加しているが,岩崎電気は野菜種子の殺菌を目的としたソフトエレクトロン処理装置の開発を担当している。他の2企業は殺菌を施したい各種子に対するソフトエレクトロンによる殺菌効果,影響の確認,最適なソフトエレクトロン処理の条件などの追求などが担当になっている。

図3 ソフトエレクトロン処理装置

装置の外観は図3に示す。従来型EBは平面に対して均一にEB照射することを得意とするが,この装置では対象物が種子のような立体的なものに対して均一に照射できるのが,大きな特徴である。そのため,装置は従来型とは全く異なり,円筒状の照射空間を通過する種子などに,全方向から電子線を照射できるような機構を備えている(特許出願中)。

一口に野菜種子といっても,各種類によって,大きさ,重さ,形状が異なり,さらにソフトエレクトロンの処理条件(加速電圧,吸収線量)の条件が異なる。したがって,各種子それぞれに適した処理条件や,搬送方法の確立がポイントである。

5.むすび

従来とは全く異なる照射方式を持つEB装置を開発し,野菜種子のソフトエレクトロン処理装置として使用した。開発事業によって行われてきたこれまでの研究で,ソフトエレクトロン処理の効果が確認されつつある。今後,研究が進み,さまざまな野菜種子に対して,どのような処理が最適であるかが明確になってくると期待できる。

今回ソフトエレクトロン処理用として開発された装置は,アイリングビームという名称で2003年4月に商品化された。アイリングビームは殺菌のみならず別の用途にも利用が可能であり,一般的な電子線硬化,ガス分解処理などへの展開が考えられる。

参考文献

  1. 光応用営業部:技術資料“電子線滅菌”(2002).
  2. 木下忍:“電子線殺菌加工”,機能材料,1998年6月号,Vol. 18,No. 6,pp. 54-61(1998).
  3. 林徹,木下忍:“殺菌分野へのソフトエレクトロンの応用”,低エネルギー電子線照射の応用技術,シーエムシー,pp. 159-178(2000).
  4. 林徹:“電子線を利用した食品の殺菌”,J.Antibact.Antifung.Agents,Vol.25,No.11,pp.641-649(1997).
  5. 林徹:“ソフトエレクトロン殺菌技術”,放射線と産業,No. 76,pp. 41-44(1997).

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第7号掲載記事に基づいて作成しました。
(2002年12月2日入稿)


テクニカルレポートに掲載されている内容は、原稿執筆時点の情報です。ご覧の時点では内容変更や取扱い中止などが行われている可能性があるため、あらかじめご了承ください。