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技術資料

紫外線無水銀ランプシステム

技術本部 新技術開発部 材料技術開発課 小田 祐司
技術本部 新技術開発部 応用技術開発課 東藤 毅

キーワード

紫外線硬化,水銀フリー,無電極ランプ,マイクロ波放電

1.はじめに

紫外線(UV)のもつ高いエネルギーを利用した各種のプロセスは,硬化,接着や殺菌など様々な分野で利用されている。一般的に,UVを放射する光源には,水銀(Hg)ランプやHgを含有した鉄(Fe)系メタルハライドランプが用いられるが,環境的な側面から水銀を使用しない光源に対する要望が強まっている。このような状況の中で,紫外線の中でも印刷やコーティングなどの硬化に使用されるUV-A領域(波長315~400nm)においては,固体光源であるUV-LEDの効率や出力に関する性能の向上が目覚しく,有望な代替光源としてこれらを搭載した照射装置の開発が活発に行われている。

しかしながら,これらの装置は価格が高い,高価な専用インクが必要になるといったコスト面の問題や,従来の放電ランプとは異なり単一波長であることから十分な硬化が得られないケースがあるなど課題も多い。一方で,既存ランプの無水銀化に関する試みは,高いUV出力が求められる印刷・硬化分野においてはほとんど行われておらず,もし実現できればUV-A領域に連続的な発光スペクトルを持つという放電ランプの強みを生かし,従来装置との置き換えが可能な光源装置として差別化を図ることが期待できる。

以上のような背景の下,放電の形態として電極材料との反応がないという点においてHg代替物質の選択肢が広い利点を有する無電極放電に着目し,印刷・硬化用途を対象とした紫外線無水銀ランプシステムの実現に向けた研究開発を行ってきた。本稿では,その成果及び実用化にあたっての技術的課題について総括する。

2.紫外線ランプシステムの基本構成及び動作原理

本研究で検討した点灯システムの基本的な構成を図1に,システムを構成する各装置(ユニット)と無電極ランプの外観写真を図2に示す。

無電極放電の形態としては,周波数2.45GHzのマイクロ波を利用した空洞共振型の放電であり,有電極のシステムに比べて長寿命であり,点灯後の安定時間が短いなどの特長を持つUVシステムとして広く利用されているものである1)。マイクロ波の発振源には工業用マグネトロン(日立パワーソリューションズ:型式2M251)を用いている。電源ユニットに内蔵されたインバータにより約5kVの高電圧を印加し,マグネトロンを所定のアノード電流で駆動させると,マグネトロン下部のアンテナよりマイクロ波が放射される。

図1 点灯システム基本構成及び測定系

図1 点灯システム基本構成及び測定系

図2 各ユニット,無電極ランプの外観写真

図2 各ユニット,無電極ランプの外観写真

空洞共振器は,内部に配置された無電極ランプの位置に定在波が形成されるような寸法形状に設計されており,ランプ発光管内に封入された発光物質がマイクロ波のエネルギーを効率良く吸収することによりランプが始動し,点灯する。共振器にはガラスを基材とした誘電体多層膜によるコールドミラーが内蔵されており,ランプから放射されたUV光はミラーを介して焦点に集光される。また,マグネトロン及びランプは別置の送風機により送風冷却される。

ランプの光学特性については,ランプ中央,焦点位置となる位置関係にて紫外線照度計(EIT製UV POWER PUCK)をラインスピード6m/sで搬送し,UV-A領域における積算光量をUV-A出力として評価した。また,発光スペクトルはマルチチャネル分光器(ウシオ電機製USR-45DA)にて取得した。

3.無水銀化に際しての課題と検討事項

3.1 UV発光特性の改善

ここでは,ランプの無水銀化に際しての大きな課題であるUV発光特性の大幅な低下に対して行った方法とその効果について概説する(図3)。

図3 UV発光特性改善のための方法と効果
マイクロ波電力1.5kW時の
UV-A発光特性
発光管径/
肉厚 [mm]
添加物質
(金属元素)
積算光量
[mJ/cm²]
相対値
有水銀ランプ ø9.0 / 1.0 Hg-Fe 738 1
無水銀ランプ ø9.0 / 1.0 Fe 162 0.22
(A)Hg代替物質の最適化 ø9.0 / 1.0 Zn-Fe 315 0.43
(B)発光物質の最適化 ø9.0 / 1.0 Zn-Fe-Co-Ni 426 0.58
(C)高壁面負荷化 ø6.5 / 2.0 Zn-Fe-Co-Ni 697 0.94

図3 UV発光特性改善のための方法と効果

従来のHgを含有したFe系メタルハライドランプから単純にHgを除いた場合,UV-A出力(積算光量)は約20%程度に大幅に減少してしまうことが判明した。この原因としては,以下のことが考えられる。

  1. 水銀のもつ365nmの発光による効果が得られなくなったこと。
  2. 動作内圧の低下に伴うプラズマインピーダンスの減少により,共振状態とのインピーダンス的な不整合が生じ,ランプに吸収されるマイクロ波電力が減少したこと。
  3. (2)に付随して,アーク温度が低下し,発光物質である鉄が十分に熱励起されないこと。

そこで,動作内圧低下への対策には,Hg代替物質として,同族元素であり蒸気圧が比較的高い亜鉛(Zn)を,金属の形態で添加することとした。その結果,約2倍の改善効果を得ることができた。しかし,ZnはUVよりも可視光領域により強い発光をもつ元素であるため,一定封入量を超えると動作内圧を高める利点よりも可視域発光によるエネルギー損失の方が大きくなってくることから,封入量には上限値が存在することも判明した。このような発光の違いによる制限と,後述するアーク形成への影響がHgとは異なるという点において,ZnはHgのもつ作用を完全には補完できないことから,更なる特性改善のために他の方法が必要となった。

次に,UV-A領域においてより強い発光をもつ物質に関しての調査を行った。その結果,従来使用されるFeに加えて,類似の物性をもったFe族元素であるコバルト(Co),ニッケル(Ni)を添加することが出力改善に有効であることを突き止めた。これらの元素は,電極材料に対して反応性が高い物質であるため,無電極放電の利点を生かした選択となる。Zn封入条件下でこれらの配合比を最適化したところ,更に1.3倍の改善が見られた。

図4 無水銀(Zn-Fe-Co-Ni)ランプの発光スペクトル

図4 無水銀(Zn-Fe-Co-Ni)ランプの発光スペクトル

発光物質の仕様に関して以上のような最適化を行ったが,尚,従来ランプに対して60%程度と更なる改善が必要な状況であったため,ランプの壁面負荷の増加という方法をとることとした。具体的には従来内径9.0mm(肉厚1.0mm)としていた石英発光管を内径6.5mm(肉厚については変形対策として2.0mmとした)にまで細くし,その結果,従来ランプとほぼ同等の特性を得ることができた。図4にその発光スペクトルを示す。

参考文献

  1. 「UV・EB硬化材料」,ラドテック研究会 編,シーエムシー(1992).

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