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技術資料

UVフィールドエミッションランプ

技術本部 研究開発部 光技術基礎研究課 丸田 晃三

キーワード

光源,電子源,フィールドエミッションランプ,FEL,蛍光体,紫外

1.はじめに

近年,紫外線は殺菌・樹脂硬化・医療など様々な分野で活用されている。現在,これらの分野で使用されている主な光源は水銀灯である。しかし,水銀灯は人体に有害な水銀を含有するため,RoHS指令をはじめとした国際的な規制の動きが強まっている。これを受け,環境に配慮した水銀を使用しない紫外発光デバイスの開発が急務とされ,そのような次世代発光デバイスとして,UV-LEDの開発が活発に行われている。しかし,高品質な結晶構造の作製が困難であるなどの問題から,発光強度・効率共に課題がある。

一方で,電子線励起により蛍光体を発光させるフィールドエミッションランプ(Filed Emission Lamp, FEL)が期待されている。

今回,深紫外域に発光ピークを持つFELの実用化に向け,アルミン酸亜鉛粉末(ZnAl₂O₄)を用いたデバイスを試作した結果,チャンバー実験において27.8mW/cm²の出力が得られた。本報ではその概要を報告する。

2.動作原理

図1 三極型UV-FEL概略図

図1 三極型UV-FEL概略図

まず,FELの動作原理について述べる。FELは真空管内に配備された電界電子放出型電子源を有したカソード電極と,カソード電極に対して正の電位を与えたゲート電極との間の電界によって電子源から電子を引き出し,さらに正の高電位を与えたアノード電極に塗布された蛍光体に電子を衝突させることにより発光する(図1)。平面光源であり,蛍光体に応じた任意の発光波長を得ることが出来る。

3.要素技術

3.1 電子源

FELはブラウン管ディスプレイ(Cathode Ray Tube, CRT)と同じ発光原理を用いているが,FELとCRTでは電子放出の種類が異なる。 電子放出とは真空中の固体表面近くの電子に光や熱など,何らかの方法で外部からエネルギーを与え,電子を固体外部に取り出す現象である。 この時のエネルギー源の種類によって,熱電子放出,光電子放出,二次電子放出,電界電子放出などに分類できる。CRTは主に熱電子放出で動作し,FELは電界電子放出で動作する。電界電子放出とは熱や光を与えなくても,固体表面に10⁹V/m程度の高電界を加えるだけで大きな電子放出が室温においても起こる現象である。電界電子放出型電子源は熱電子放出型電子源と違い,全く加熱しなくてよいため,低消費電力,長寿命などの特長がある。近年,カーボンナノチューブ(Carbon nanotube, CNT),炭化珪素,窒化ホウ素,ダイアモンドなどが電界電子放出型電子源として動作することが報告されている。1),2)

図2 電流密度-電界強度特性

図2 電流密度-電界強度特性

FEL用電子源として求められる特性は,電子放出が始まる閾値電圧が低いこと,電子放出が安定して持続すること,比較的低真空でも動作することなどが挙げられる。今回の試作ではナノダイアモンド電子源(ND電子源)を用いた。実験に用いたND電子源と市販のCNT電子源の電流密度-電界強度特性を図2に示す。ND電子源は市販のCNT電子源に比べ,低電界強度で高電流密度が得られており,優れた電子放出特性を持つ事がわかる。

図3 1mA/cm2の定電流制御時における電界強度の経時変化

図3 1mA/cm²の定電流制御時における電界強度の経時変化

次にND電子源の寿命特性を調べるため,1mA/cm²の定電流制御時における電界強度の経時変化を測定した。 測定は二極構造で行い,アノード電極は無酸素銅板とした。なお,実験中の真空度は5.0×10⁻⁵Pa以下を維持した。 結果を図3に示す。

開始から約700時間までは安定した挙動を示したが,1000時間を経過したあたりから次第に不安定になりはじめたため,約1500時間経過したところで,実験を終了した。現在市販されている殺菌灯の寿命は約8000時間であるため,電子源としてもそれ以上の寿命が求められる。

3.2 蛍光体

3.2.1 FEL用蛍光体

FEL用蛍光体として求められる特性は,電子線照射に対する耐性が高いこと,温度消光が少ないこと,発光効率が高いこと,などが挙げられる。 可視光用蛍光体ならば市販のCRT用蛍光体であるZnS:Ag,Au,Cu,Alなどが流用できる。一方で,本報のテーマである深紫外域の発光が得られる蛍光体は六方晶窒化ホウ素(h-BN),アルミン酸亜鉛(ZnAl₂O₄),ガドリニウム添加窒化アルミニウム結晶薄膜(AlGdN)など,僅かな報告例があるのみで,放射強度も弱く実用化には至っていないのが現状である。3),4),5) 深紫外蛍光体の探索と改善がFELの実用化に向けた最重要課題と言える。

今回の試作では試薬として安価に市販されているZnAl₂O₄粉末を用いた。これはZnAl₂O₄の発光スペクトルがJIS Z8811記載の殺菌効果曲線にほぼ一致する為である。ZnAl₂O₄の発光スペクトルを図4に示す。

図4 ZnA2O4の発光スペクトルと殺菌効果曲線

図4 ZnAl₂O₄の発光スペクトルと殺菌効果曲線

3.2.2 蛍光体塗布に関する検討

電子が蛍光体に侵入できる深さは入射時のエネルギー(励起電圧)に依存する事が知られている。励起電圧を上げる事で,電子をより深くまで侵入させ,発光効率を上げることが出来る。ただし,励起電圧はX線輻射や異常放電等を考慮すると,実用上は約10kV以下に制限される。そのため,光源効率を向上させるためには励起電圧に応じて蛍光体を適切に塗布する必要がある。

3.2.3 電子の侵入深さ
図5 ZnAl2O4における励起電圧に対する電子の侵入深さ

図5 ZnAl₂O₄における励起電圧に対する電子の侵入深さ

電子の侵入深さは様々な式により表されている。例としてFeldmanの式から算出したZnAl₂O₄における励起電圧に対する電子の侵入深さを図5に示す。例えば,励起電圧10kVのとき,ZnAl₂O₄に対する電子の侵入深さは約6μmである。SEM観察の結果,実験に用いた市販ZnAl₂O₄粉末の平均粒径は約2μmであったため,励起電圧10kVの時の理想的な蛍光体層の厚みは粒子3個分と考えられる。

3.2.4 蛍光体塗布方法

粉体蛍光体の塗布には各種粉体塗装技術を利用できる。しかし,高真空下での電子線照射に耐え,発光特性に悪影響を与えず,ランプ寿命を確保できるものでなくてはならない。特に発光効率の観点から,接着剤のような非発光物質は極力少ないほうが好ましい。そこで,今回の試作では生産性に優れ,パターニングと大面積化が容易であるスクリーン印刷法を用いた。

3.2.5 スクリーン印刷法

スクリーン印刷法は蛍光体を増粘剤と混練することで印刷に必要な粘度を持ったペースト状(蛍光体サスペンジョン)とし,ステンレスメッシュなどを介して押印塗布するものである。増粘剤は塗布後に大気雰囲気中で高温焼成することで除去されるが,この時に増粘剤が残存すると,発光特性に悪影響を与える事が知られている。例えば,蛍光体膜の深層部に残存したものは電子線照射により顕在化し黒化物となって蓄積する現象が報告されている。6)他にもアウトガスの発生原因となり電子源寿命を縮める。これらの理由から,増粘剤はスクリーン印刷に必要な粘度を備えた上で,可能な限り残存し難いものが好ましい。今回の試作では増粘剤として熱分解性に優れるエチルセルロースを用いた。溶媒には,一般的にエチルセルロースと共に使われるテルピネオール及びブチルカルビトールアセテートを用いた。

参考文献

  1. T.Yoshimoto, N.Yokogawa, T.Iwata: Jpn. J. Appl. Phys., No.145, L-482-L484 (2006).
  2. 吉本,横川,岩田:電子情報通信学会論文誌C, Vol.J91-C, No.1, pp.144-147 (2008).
  3. K.Watanabe, T.Taniguchi, T.Niiyama, K.Miya, M.Taniguchi: NATURE PHOTONICS, Vol.3, pp.591-594 (2009).
  4. H.Kominami, et.al.: Proc. Of IVNC 2009, pp.67-68 (2009).
  5. 岩橋,岸,來山,喜多,千木,西本,田中,小林,石原,泉,曲尾,野口:第58回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集, pp.14-226 (2011).
  6. NEDO: H19-20エネルギー使用合理化技術戦略的開発報告書, p.11 (平19-20).

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