技術資料

酸化物半導体を用いたUVフォトダイオードの特性

技術本部 研究開発部 光技術基礎研究課

キーワード

紫外線センサ,酸化物半導体,フォトダイオード,ショットキー接合

5.フォトダイオードの動作

図3 電気的等価回路

フォトダイオードを電気回路素子と見ると,その内部構造は等価的に図3のようになっていると見なせる。

図4 電流電圧特性

STOフォトダイオードの電流電圧特性を図4に示す。電流電圧特性はダイオード様の特性を示しているが,整流効果は弱い。受光面に紫外光を入射することによって電流値が光電流の分だけシフトしており,フォトダイオードとして機能していることが確認できる。また,-10mV印加時の電流値から内部並列抵抗は21MΩであると推定される。

  • 暗所時  光線入射時
  • 入射光線
    波長:310nm
    放射束:0.28μW
    光線径:ø1.0mm(受光面内)

図5 Pt/Nb:STO界面のバンド構造

受光面であるPt/Nb:STO界面のバンド構造は,図5のような状態になっていると考えられる。このような界面にNb:STOのバンドギャップエネルギーより大きなエネルギーを持った光子が入射すると,価電子帯にある電子が導電帯に励起される。バンドギャップに勾配があるところで励起された電子は,そこにある電界で加速され接合部から離れていく。これがSTOフォトダイオードの出力電流として測定される。したがって,STOフォトダイオードは原理的にはNb:STOのバンドギャップエネルギー(3.2eV)以上のエネルギーを持つ光子にのみ感度を持つ。3.2eVのエネルギーを持つ光子の波長はおよそ390nmであるので,STOフォトダイオードは390nm以下の光にのみ感度を持つと予想される。

実際に測定したSTOフォトダイオードの分光応答度を図6に示す。光源はメタルハライドランプの光をグレーティングで分光したものを使用し,アパーチャを通してフォトダイオードの受光面内に光線がすべて収まるようにした。また,分光応答度の基準としては値づけされた浜松ホトニクス製フォトダイオードS1337-1010BQを使用した。STOフォトダイオードは波長390nmから320nmの領域で感度が大きく変化し,波長320nm以下の領域では可視光に対する感度のおよそ100倍の感度を有している。予想通り,波長390nm以下の光に対して大きな感度を持ち,STOフォトダイオードが可視光に感度のないフォトダイオードであることが確認された。しかし,STOフォトダイオードにより可視光と紫外光の混合光から紫外光の強度のみを分離して計測する場合は,可視光と紫外光に対する感度の比が100であることと,波長390nmから320nmの領域での感度の変化に注意を要する。

図6 分光応答度

  • 分光器:島津製作所製 蛍光分光光度計:RF-502
  • 分光器スリット幅:7.0μm
  • 光線径:ø1.0mm受光面内
  • 5nmピッチで測定

STOフォトダイオードに照射する光量を変化させた場合の出力電流の変化を図7に示す。光源は岩崎電気製オゾンレス水銀ランプを用い,ランプより5cmの位置にフォトダイオードを設置し,受光面全体とその周縁部に光を照射した。光量の調節はフォトダイオードの直前に置いたメッシュフィルタを使用し,照度の測定にはORC製照度計UV-M03を使用した。STOフォトダイオードの出力電流は照度計で測定した254nm照度に比例していることが確かめられた。オゾンレス水銀ランプの光のほとんどは254nmの輝線に集中しており,可視光は紫外領域での発光に比較して10%以下の強度しかないため,STOフォトダイオードの出力はオゾンレス水銀ランプの254nm輝線の強度の良い指標になると考えられる。

図7 センサ出力電流特性

  • 光源:岩崎電気 QGL200U-21 オゾンレス水銀ランプ
  • 基準照度計:ORC UV-M03
  • 光強度の調節はメッシュフィルタによる

STOフォトダイオードの温度特性を図8に示す。光源には岩崎電気製オゾンレス水銀ランプを使用し,温度調節はオーブンによる周囲雰囲気の過熱により行った。25℃から100℃まで周囲雰囲気を変化させた場合,-0.03%/℃の割合で出力が変化した。STOフォトダイオードを室温付近で使用する場合は,温度係数は十分小さいと考えられる。

図8 温度特性

  • 光源:岩崎電気 QGL200U-21 オゾンレス水銀ランプ

STOフォトダイオードの耐久性を図9に示す。光源には岩崎電気製オゾンレス水銀ランプを使用し,大気中で受光面全体とその周縁部に連続的に27mW/cm²(254nm)の光を照射し続けた。感度の測定には岩崎電気製オゾンレス水銀ランプを使用し,ランプより5cmの位置にフォトダイオードを設置し受光面全体とその周縁部に光を照射し,照射開始から1分後の値を測定値とした。STOフォトダイオードは,オゾンレス水銀ランプの光を継続的に照射し累積線量が150000J/cm²にまで達してもほとんど感度に変化はなく,紫外線の連続曝露に対して耐性があることを確認した。

図9 耐久性試験結果

  • STOフォトダイオード#1
    STOフォトダイオード#2
  • 254nm照度:13mW/cm²(ORC UV-MO3A UV-SN25測定値)
  • 測定用ランプ:QGL200U-21
  • 連続曝露光照度:オゾンレス水銀ランプ 27mW/cm²

6.まとめ

容易に入手できる酸化物半導体であるSTOにPt薄膜を形成し,ショットキー型のフォトダイオードを作製した。作製したSTOフォトダイオードは紫外光にのみ感度を有しており,その出力電流は入射光の強度に比例する。また,温度による感度の変化が小さく,容易に劣化しないことを確かめた。したがって,STOフォトダイオードは長期間にわたって連続的に紫外線をモニターする装置の受光素子として応用できると考えられる。

参考文献

  1. 谷腰欣司:光センサとその使い方,第2版,日刊工業新聞社(2000年).
  2. 桜庭一郎,岡本淳:電子デバイスの基礎,第1版,森北出版株式会社(2003年).

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第27号掲載記事に基づいて作成しました。
(2012年11月28日入稿)


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