施設報告

明治神宮野球場照明設備 - プロ野球屋外ナイター球場照明設備納入施設例 -

照明事業部 営業技術部 東日本技術設計センター
照明事業部 営業技術部 工事管理課
照明事業部 民需特販営業部 東京第二営業課

キーワード

神宮球場,プロ野球,LED,省エネ,高効率,直視グレア,無線調光

1.はじめに

明治神宮野球場(神宮球場)は1926年に創建され,アマチュア野球においては大学野球の主要球場として長年使用されている。また,プロ野球では東京ヤクルトスワローズが専用球場(本拠地球場)としても使用している。

ナイター照明は1962年に設置されており,1985,1986年に改修されたナイター照明は,メタルハライドランプと高圧ナトリウムランプの混光の照明が使われていた。今回照明設備の老朽化に伴い,消費電力の削減による省エネを主として照明設備の全面リニューアルを実施した。

本稿では,2020年3月に竣工した同照明設備の概要について紹介する。(図1,図2)。

図1 球場昼間全景

図2 球場夜間全景

2.照明計画

2.2 照明設計

図3 LED投光器取付状況

本施設の配光は,狭角・中角・広角配光の3種類を使い分け,プロ野球が開催できる照度および既設照度以上の設計照度を確保するように器具選定を行った。本施設では,照明塔に対する建築負荷を軽減し,選手が照明を見て受けるまぶしさ(直視グレア)を抑えるために,器具は配光角が狭く,軽量かつサイズがコンパクトな「LEDioc FLOOD ZEST 500クラス」を選定した。

また,それらの光を散らすために「クロスエイミング」を行うことで,まぶしく感じる光の塊ができにくいように配慮した。その中で照明設計は3次元シミュレーション等を活用して設計を行った(図3)。

屋外照明設備および付帯設備の照明機器設置台数を表1に示す。

表1 屋外照明設備および付帯設備一覧
仕様 数量 (台)
グラウンド照明 LED500クラス投光器(狭角配光)
(LEDioc FLOOD ZEST)
270
LED500クラス投光器(中角配光)
(LEDioc FLOOD ZEST)
360
LED500クラス投光器(広角配光)
(LEDioc FLOOD ZEST)
90
同上用LED定電流電源装置 720
保安照明 LED90クラス投光器(狭角配光)
(LEDioc FLOOD NEO)
54
鉄塔内保安灯 LEDioc RECT 60
制御機器 Wi-CONNECTY 親機 1
Wi-CONNECTY 子機 18
調光操作用タブレット 1

3.照明設備

3.1 グラウンド照明

図4 照明鉄塔全景

既設照明設備のメタルハライドランプ1000W投光器504台と高圧ナトリウムランプ660W投光器216台を,500クラスの高演色形LED投光器(LEDioc FLOOD ZEST)720台に改修し,総消費電力を約44%削減した。

器具台数を減らす一方で,プロ野球が開催できる照度を確保した。また,初期照度補正機能により,設置初期から寿命末期まで設計照度を保ちつつ,初期の電気使用量の削減を可能にした。

図5 LED投光器

器具は,TV放映に快適な照明環境の確保のためにハイビジョン撮影に対応した平均演色評価数Ra80で,色温度も5000K(昼白色)のものを採用しており,フィールドを既設より鮮やかに映し出すことができた。さらに,電源はスーパースロー再生で用いられるハイスピード撮影時の明暗を繰り返す「ちらつき」を独自の電源回路設計により防止し,フリッカレス点灯を実現した(図4〜図7)。

図6 電源装置設置状況(キュービクル内)

図7 新設(左)と既設(右)の色温度比較

照明器具の角度調整は,照明器具の前面ガラスの中心に取付けたカメラとスマートフォン(以下,スマホ)を連動させることにより,カメラの映像をスマホに映し出し,グラウンド内の照準ポイントをスマホの画面で確認して照明器具の角度調整を行った。この手法により,従来の器具の上部にスコープをつけていたものに比べてより正確な角度調整を行うことができた(図8,図9)。

図8 角度調整用治具取付状況

図9 照準ポイント

3.2 保安照明

図10 保安照明取付状況

グラウンド照明が停電した際に点灯する保安照明は,既設照明設備は500Wハロゲン投光器であったが,新たに小形のLED投光器LEDioc FLOOD NEO(狭角配光)を設置し,非常時に既設より観客席を広範囲で照らせるようにした(図10)。

3.3 照明制御システム

図11 無線システム取付状況(親機)

本施設は,数年後に施設全体の改修が決まっているため既設照明制御盤の改修は行わなかった。ただし,状況に応じた明るさの調整が行えるように,省施工で調光ができるようになる無線調光システムを採用した。今回採用した無線調光システムにより,タブレット端末からパターン調光や子機ごとの個別調光を行うことができる。

また,ドングルを用いた遠隔監視システムも採用していただき,工場から遠隔接続を行うことで,点灯パターンの変更やトラブルなどがあったときに,現地に行かなくとも故障状況などの確認が可能になっている(図11〜図13)。

図12 無線システム取付状況(子機)

図13 調光操作タブレット端末

4.おわりに

今回の改修で,プロ野球の球場として屋外照明塔6基方式でのLED化を行ったのは国内2例目であり,その両方とも弊社が納めさせていただいている。両施設とも,納入後も選手および関係者様から視環境を入念に確認していただき,他メーカーにはないノウハウを得たことは,今後の野球のナイター施設のLED化をする際の大きな財産となると考えられる。

また,本施設ではグレア対策のためにZEST500クラスを採用していただいた。灯数削減はLED化している他施設に比べて確かに劇的に減ってはいないかもしれないが,グレア対策としては大きな成果を得た。本施設は野球という競技に対してどのような配光,光束の光源が適しているかという一つの指標になったと考えられる。競技が違えば適切な配光と明るさも変わってくる。それぞれにおいて適切な光源とは何か,LED化に伴ってそれを再び検証していくことが今後の課題であるだろう。

最後に,神宮球場の照明設備の完成にあたり,ご指導,ご協力をいただいたすべての皆さまに心よりお礼申し上げる。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第41号掲載記事に基づいて作成しました。
(2020年5月15日入稿)

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