創造人×話

「心地よさ」を使い手の方と共有できる江戸切子をつくることに喜びを感じています。

三澤 世奈さん江戸切子職人

日本が誇る伝統工芸品の一つである江戸切子は、ガラスの表面に切り込みを入れて表す文様や色とりどりの鮮やかな色が特徴のカットガラスです。丹念なカットから生み出される、その美しい輝きが見る人を魅了し、江戸時代後期から酒器を中心にグラスや器として日常的に親しまれ、進化を続けてきました。今回は、そんな江戸切子に魅せられ、しなやかな感性で日々新たな作品をつくり続ける江戸切子職人の三澤世奈さんをご紹介します。

伝統的な文様、菊花文をモダンなバランスで配したKIKKAシリーズ

三澤さんは、若くして江戸切子職人としてご活躍され、ご自身のブランド「SENA MISAWA」の制作・プロデュースもされていらっしゃると伺いました。やはり幼少時代からモノづくりに興味をお持ちだったのでしょうか。

幼い頃から、モノをつくることが好きで、幼稚園では雛祭りのお人形を自分で作ったものを両親が喜んで飾ってくれたのが嬉しかったことを覚えています。高校生の頃は友だちの携帯を当時全盛期だったデコ電にしたり、ネイルチップをつくって喜んでもらったり。その頃から、将来は自分の好きな手仕事で喜んでもらえる仕事がしたいと思うようになり、最初はネイリストを目指していました。

ネイリストを目指していらした三澤さんが、江戸切子職人の道に進まれたきっかけをお教えください。

ブランド立ち上げのきっかけとなった切子アート作品「Capture」

大学は商学部に進み、ネイルサロンを経営することを念頭に置いてマーケティングを学んでいたのですが、ある商品と出合ったことがきっかけで、江戸切子職人の道を志すこととなりました。それは、繊細な文様の江戸切子の器で作られた美容クリームでした。その商品の美しさと、伝統工芸でありながら、他の分野の商品にもなれるという切子の汎用性に可能性を感じ、感銘を受けました。そして、その監修・制作を手がけたのが、堀口切子の堀口徹氏だということを知り、すぐに弟子入りを志願したのですが、その時は人を雇うタイミングではないとのことで断念し、大学卒業後はネイル関連の会社に就職しました。

ネイリストとして働き始めてはいたものの、やはり諦めきれずに堀口切子のホームページを日々チェックしていたところ、ある日、小さな文字で「工房スタッフ募集」と書かれているのを発見して再び連絡させていただき、最初に弟子入りを志願してから約3年後に、堀口切子に入社することができました。

伝統工芸の職人になるための修行は厳しいというイメージがありますが、三澤さんの場合はいかがでしたか?

堀口切子に入るきっかけとなった美容クリーム

私は、親方である堀口徹氏の作品やインタビューを見て、江戸切子に対する考え方や姿勢に感銘を受け、江戸切子職人になりたいというよりも、堀口切子で働きたいという思いが強かったため、最初は伝統工芸そのものに対する意識はそれほど高くはなかったのかもしれません。工房の掃除などの雑用をしながら、難易度の低い工程のカット作業などもさせていただき、もちろん失敗を繰り返しながらではありますが、私にとっては楽しいことばかりで、あっという間に3か月の試用期間が過ぎました。その後は、親方からガラスを加工する技術はもちろん、江戸切子の歴史的背景や伝統に対する考え方についても、一つひとつ丁寧に教えていただき、とても感謝しています。

2019年にスタートした堀口切子の新ブランド「SENA MISAWA」について、お聞かせください。

「SENA MISAWA」というブランドは、「江戸切子新作展」に出品した作品を親方が評価してくださったことから始まりました。その作品は、伝統的な色や柄にとらわれずに、不透明な色や、すりガラスのようなマットな質感を取り入れたものだったのですが、この作風を商品に落とし込んでみてはどうか、と言っていただいたことがブランドの立ち上げに繋がったのです。

「SENA MISAWA」では、切子をより身近なものとして感じてもらいたいという思いで、“日常空間に、「心地のよい」トーンの切子”をコンセプトとしています。江戸時代から受け継がれてきた多彩な文様をベースに、現代に受け入れられるかたちを求め、自分自身が「心地よい」と思う、新たな切子の魅力を感じてもらえる商品づくりに取り組んでいます。

日常空間に「心地のよい」トーンをコンセプトとする「SENA MISAWA」の江戸切子

三澤さんにとって、江戸切子の魅力とは何でしょうか。

江戸切子の定義は・ガラスである・手作業でつくられている・主に回転道具を使用する・指定された区域(江東区を中心とした関東一円)で生産されている、の4つです。デザインや色の指定はなく、自由度の高いところも魅力の一つであり、だからこそ伝統に敬意を払いつつ、新しいモノづくりに挑戦することができるのだと考えています。作品を考えている時のワクワク感、出来上がった時の達成感、そしてお客さまに手に取っていただいた時の嬉しさと、それら全てがとても楽しく、江戸切子の魅力は尽きることがありません。