創造人×話

変形する前と後、その両方のかたちを楽しんでいただける可変金物の世界を追求しています。

坪島 悠貴さん可変金物作家

今回は、可変金物作家の坪島悠貴さんをご紹介します。彫金技法、3D CADによる設計、3Dプリントなどの技術を組み合わせて、金属のセミがカエルに変形したり、鳥が魚に変形したりと見事な変形機構をもつ金属工芸品を制作する坪島さんは、その卓越した技術でにわかには信じられないほど素晴らしい独特の造形美をつくり上げ、見る人を楽しませてくれる新進気鋭のアーティストです。

「可変狛禽」2018年原型制作 素材:銀、燐青銅、真鍮、ガラス
〈写真提供:Gallery花影抄〉

坪島さんは、大学では工芸工業デザインを学ばれていたと伺っておりますが、小さな頃からモノづくりがお好きでいらしたのでしょうか。

私は子どもの頃から絵を描くのが好きで、プラモデル作りも大好きでしたし、高校に入ってからはフィギュアを作り、将来はフィギュアの原型師になりたいと思っていました。大学は武蔵野美術大学の工芸工業デザイン科に進み、工芸と工業を一つにして総合的に学ぶことができる学科だったため、最初の2年間でいろいろな領域の基礎実習を体験し、デザインの基礎を学ぶことができたことは良かったと思っています。

車のデザインにも興味があったのですが、やはり、金属を打ち出したり、鋳造したりする金属工芸は造形の自由度が高いと魅力を感じて金工を専攻し、大学院では金属造形作品を制作していました。

金属造形作品の中でも「可変金物」と名付けられたトランスフォームする作品を制作されるようになった経緯についてお教えください。

大学院を終えてからしばらくの間、アルバイトをしながら作品づくりを続けていたのですが、ある時、お世話になっている東京・根津にある花影抄というギャラリーから“根付展”への作品展示をお誘いいただいたことが「可変金物」をつくるようになる最初のきっかけです。当初、作品はすべて手作業、設計図も手書きで制作していたのですが、思った通りの変形機構を実現するためには限界を感じ、3D CADによる設計を取り入れ、3Dプリンターを使った制作にも挑戦しました。それでもまだまだ手探りで、その後色々なご縁が重なり3Dプリントを依頼していた3Dプリンターサービス会社に就職し、3D CADやCGでデータをつくる部署で3年ほど働かせていただきました。

その間も自分自身の制作も続けることができ、2019年に独立し今に至るのですが、そういった経験や人との出会いを経て、現在のような3D CADで設計、3Dプリントして鋳造という一連の「可変金物」の製法が確立されました。

根付をつくることが、現在の「可変金物」をつくるきっかけとなったとはどういうことでしょうか?

かつての武士や町人たちが、巾着や煙草入れ、印鑑などを帯に吊るす時につけた滑り止めのための留め具であった根付は、アクセサリー的な要素もあって進化を遂げ、美術工芸品と言えるほどのものも多くあります。そんな根付をつくるにあたっては、壊れやすい部分を可動式にして全て収納できるようにしたら良いのではないかと思い至り、閉じた状態で根付にしたものをつくりました。その時につくった「羽化」という作品の反応が良かったこともあり、そこから変形をテーマにした独自の作品づくりを本格的にスタートさせることができたのです。

「可変角蛙・彩色」​2020年原型制作 素材:銀925、18金、硝子、セラミック電着塗装
〈写真提供:Gallery花影抄〉

狛犬から鳳凰へ、セミからカエルへ。など生物をモチーフに変形する金工作品をつくっていらっしゃるのはなぜでしょう?

もともと生き物が好きな一方でアニメやゲーム、映画に登場するようなメカも好きでしたので、学生時代からその両方を詰め込んだ金属生命体のような作品をつくってきました。金属という素材がそういったモチーフとの相性が良かったというのもあります。可変金物はそれらが原型であるため、自然と今のようなフォーマットになりました。

「可変金物」の制作にあたっては、初めのうちはかたちから連想して、たとえば金魚の腹の側面が鳥の羽に似ているという発見から構想を膨らませて、一つの作品をつくったりしていました。この数年はその他にも、干支の十二支を意識して、鳳凰から狛犬に変形する「可変狛禽」という、酉年から戌年にかけた裏テーマを込めた作品を制作するなど、予めコンセプトを決めてからの作品づくりにも取り組んでいます。また、根付についても、より使いやすい形状とするために饅頭根付型を変形元とし、共通のかたちからそれぞれの干支に有機的に変形する新しい根付づくりに挑戦しています。

「可変饅頭鼠」2020年制作 素材:銀925、燐青銅、18金
〈写真提供:Gallery花影抄〉

緻密な作品をつくる工程はとても大変そうですが、一つの作品を仕上げるのにはどのくらいの時間がかかるのでしょうか?

作品にもよりますが、アイデアを具現化し、完成するまでは3~4か月かかることも少なくありません。工程としては、まず頭の中にあるアイデアをデッサンしたものをベースに3D CADソフトを使って設計して、そのデータをパーツごとに3Dプリントします。次にそれらの出力品を原型として型を取って鋳造し金属にします。そうしてできたパーツを組み合わせることで作品を完成させていくのです。

作品に使う金属の素材は銀925が一番多く、18金や燐青銅などを使用する場合もあります。