創造人×話

こうでなければという感覚に囚われず、素材や技術の魅力に寄り添い心に響くモノを世の中に届けていきたいと思っています。

辰野 しずかさんクリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー

「Stool (Cloudy/Mist)」霧や雨など、空や大気の自然をテーマにデザインしたステンレス製のスツール
〈Client: MATERIAL DESIGN EXHIBITION (Material ConneXion Tokyo)/Production:TSUKIBOSHI ART CO., LTD. 2019/Photographer:Kenji Kagawa〉

辰野さんは企業とのコラボレーションも多く手掛けていらっしゃると伺っていますので、少し事例をご紹介ください。

おかげさまで多彩な業種の企業からのご依頼があり、日本全国の企業とコラボレートした作品を数多く発表させていただいています。たとえば、2019年に発表した、霧や雨など、空や大気の自然をテーマにデザインしたステンレス製のスツールは、ステンレス・意匠鋼板・エレベータパネルなどの製造・販売を行っている月星アート工業株式会社が持つステンレス加工技術から生まれました。鏡面加工やエッチング、バイブレーションやヘアラインなどの研磨加工技術を生かして、奥行きのあるグラデーションの質感をつくり、無機質な印象を持つステンレスを柔らかな表情を持つ素材へと変化させました。 この作品は、マテリアルコネクション東京が主催する企画展「MATERIAL DESIGN EXHIBITION 2019」において、月星アート工業とともに「ステンレス加飾技術」を素材にした新しいステンレスの意匠表現として展示発表しました。発表後はいろいろな所から問合せがあるとお聞きし、とても嬉しく思っています。

小さな頃からはっきりと進むべき道を見据え、プロダクトデザイナーとして着実に実績を重ねてきた辰野さんにとって、仕事の楽しさ、また大切にしていることは何ですか。

「KORAI」水の器 - 水を入れ、窓辺に置くと、風に揺れる波紋が地面に映り込み、自然の揺らぎや移ろいを感じられる贅沢な時間を演出する、手吹きガラスの水の器
〈Client:HULS Inc./Production:Takeyoshi Mitsui 2018/Photographer:Masaki Ogawa〉

いろいろありますが、さまざまな人に出会えることが楽しさの一つだと思います。地方に行くことも多い私は、さまざまな年齢層や職業の方々にお会いする機会に恵まれているので学ぶこともたくさんあり、発見があることが楽しいです。伝統工芸や地場産業の仕事をする上で大切にしていることは、先入観を持たず、一般の人の視点も意識して客観的に見るという考え方で、作り手が持っている素材や技術の魅力を引き出し、新たな可能性を一緒に見出していくことにやりがいを感じています。

現在手掛けていらっしゃる仕事について、そして今後の展望についてお聞かせください。

「Ryu Kyu Iro」 沖縄の自然をやさしく風でくるんだ、琉球ガラスのアクセサリー
〈Client:YUIMARLU OKINAWA(Japan) 2017/Photographer:LALAFilms〉

プロダクトデザイナーとしてスタートし、現在はものづくりのプロジェクト全体を見ることが多くなり、ブランディングの依頼からグラフィック、空間づくりまで携わる複数の仕事を同時進行で進めています。最近は、六本木ミッドタウン内のライフスタイルショップ「Style Meets People」で発売を予定している、日本のマテリアルを紹介するアートワークを制作している他、毎年秋に都内のさまざまなエリアで開催されるデザイン&アートのイベント「DESIGNART TOKYO」で発表するための作品づくりにも取り組んでいます。

今後の展望については、プロダクトデザインという枠を超えた何かをやりたいと思っていて、モノがたくさん売れるだけが価値ではないという考えのもとで多角的な視野を持って、与えられた課題を解決するアプローチを模索していきたいと考えています。例えば工芸品のプレゼンテーションをする際も、必ずしもモノをつくるだけではなく、他の方法があるかもしれませんし、もっと自由な発想で動けたら良いのではないかと思ったりしています。いずれにしても「良いモノづくりが広く認知され、より発展して欲しい」という願いは、この仕事を始めた時から変わっていませんし、これからも作り手と使う人を繋ぐ役割を果たしていきたいと考えています。

最後に、辰野さんがお好きな照明やあかりについて、教えていただけますでしょうか。

箔アクセサリー「HAQUA」 誰にでも簡単に貼ることのできる新感覚ジュエリー
〈Client:Washin Chemical Industry Co., Ltd. 2015/Photographer:Fumio Ando〉

私は間接光の柔らかな光が好きなのですが、日本は気軽に間接光をつくれる器具が少ないように感じます。少し暗めのヨーロッパの家庭のような照明の方が落ち着くと思っていて、日本も昔は「陰翳礼讃」に代表されるような日本人ならではの暗がりに対する美意識があったはずなのですが、今は全体に明るさが求められているようですね。居住空間も賃貸の場合は、より自由度が狭められますし、理想的な照明環境をつくるためには工夫が必要では? という気がします。

辰野 しずか(たつの しずか)

1983年生まれ。
英国のキングストン大学プロダクト&家具科を首席で卒業。デザイン事務所を経て、2011年に独立。2017年より株式会社Shizuka Tatsuno Studioを設立。家具、生活用品、ファッション小物のプロダクトデザインを中心に、企画からディレクション、付随するグラフィックデザインなどさまざまな業務を手掛ける。これまでに国内外で多数出展。良いモノづくりがもっと認知され、続いてほしいという想いから、現在は地場産業の仕事に力を入れ「長所を生かしていく、伝えていく、つなげていく」をテーマに製作している。
2016年 ELLE DÉCOR日本版「Young Japanese Design Talents」賞など受賞多数。