創造人×話

こうでなければという感覚に囚われず、素材や技術の魅力に寄り添い心に響くモノを世の中に届けていきたいと思っています。

辰野 しずかさんクリエイティブディレクター/プロダクトデザイナー

今回は、株式会社Shizuka Tatsuno Studio代表取締役の辰野しずかさんをご紹介します。家具、生活用品、ファッション小物のプロダクトデザインを中心に企画からディレクション、グラフィックデザインなどさまざまな業務を手掛ける辰野さんは、地場産業の仕事にも積極的に取り組み、日本全国を飛び回りながら、工芸とのコラボレーションの作品を多く発表されるなど、多岐にわたるフィールドで活躍されている注目のクリエイティブディレクター/プロダクトデザイナーです。

「hiiro」 一昼夜おくだけで水がまろやかに美味しくなる備前焼のウォーターカラフェ
〈Client:DAIKURA、Japan 2015/Photographer:Fumio Ando〉

辰野さんは、これまで数々の魅力的なプロダクトを世に送り出し、日本の伝統工芸とのコラボレーションした仕事も多く手掛けるなど、幅広くご活躍されていらっしゃいますが、小さな頃から何かをつくることがお好きだったのでしょうか?

私は幼稚園の時から絵を描くことが好きな子供で、小学生の頃から将来は美術系の仕事に就きたいと決めていました。もちろん、具体的にどんなデザイナーになりたいのかは分かっていませんでしたが、クリエイティブな世界の仕事をしようと思っていたことを覚えています。

大学はイギリスの大学へ留学されたと伺いました。日本の美術大学ではなく海外の大学に進まれたのはなぜですか?

私は兵庫県で生まれて0歳の時に東京に移り、表参道で育ちました。学生時代は、イームズなどに代表されるインテリア系家具ブームがあり、近所には「スパイラル」や「TIME & STYLE」などたくさんのインテリアショップがあるという恵まれた環境だったため、家具やインテリアのデザインを身近に感じることで、自然にプロダクトデザインに興味を持つようになりました。大学進学にあたり、インテリアに付随するプロダクトを学びたいと思ったのですが、国内の大学で「プロダクト科」というと、家電デザインを主にしているところが多かったため、ファニチャーとプロダクトが学べる海外の大学への留学を決めました。留学先は北欧も考え、いろいろとリサーチをしたのですが、英語だけの授業は難しいとのことで、結果的にイギリスのキングストン大学を選び、プロダクト&家具科に進みました。

mg&gk - porcelain for financier & tea 有田焼の器のブランド「mg&gk (もぐとごく)」
〈Client:Keizan 2019/Photographer:Masaaki Inoue〉

1年目はポートフォリオ審査でパスをできたため、専門的な勉強が始まる2年目から入学し3年間で大学を卒業できたのですが、そこで学んだことは多く、教えてくださった先生の「デザインはこうあるべきだ、という固定概念にとらわれないでいい」というスタンスを学べたことで、デザインに対しての視野が広がったことは大きいと思っています。また、留学をする前に、きちんと日本の文化について学んでから行こうと思い、伝統工芸についての本を読んだり、職人さんの工房を訪ねたり、茶道を始めたりといろいろ勉強をしていたため、海外でさまざまな国の方々と触れ合い新しい価値観に出会ったときに、日本の文化との比較をすることができたことも良かったのではないかと考えています。留学先のイギリスと日本、その両方の文化をリスペクトしたからこそ発見できたことがたくさんありました。

大学を卒業されてからご自身の会社をスタートするまでの過程についてお聞かせください。

卒業後はイギリスで仕事をするという選択肢もあったのですが、家庭の事情で帰国することになり、デザイン事務所に勤めてエディトリアルデザインやグラフィックデザインについて学びながら仕事をしたうえで、2011年にフリーランスで活動を開始し、2017年に今の会社を設立しました。学生時代に日本の文化について学び、伝統工芸の世界では後継者不足などで職人が減っているという状況を知っていましたので、世界に誇れる日本の文化やモノづくりにデザインで貢献したいという思いのもと、これまで伝統工芸や地場産業の仕事を多く手掛けてきました。

「grad.」
「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」で薩摩切子職人の鮫島悦生氏と制作した新作グラス 2019

「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」※1では、4年目を迎えた2019年の「TAKUMI CRAFT CONNECTION - KYOTO」※2に参加されたとお聞きしました。詳細をお教えいただけますか。

今回は、これまでに発掘した150人の匠の中から6人を選抜し、5人のクリエイターとのコラボレーション作品を制作するという企画で、私もクリエイターの一人に選んでいただき、薩摩切子職人の鮫島悦生氏とのコラボレーションによる新作グラス「grad.」を発表しました。何層にも色ガラスを重ねる技術と、厚みのあるガラスを深くカットする意匠を特徴とする薩摩切子の魅力を引き出すデザインを目指しました。新しい技法に挑戦したので、制作過程はとても大変でしたが、シンプルなかたちの中に見えるガラスのカット面の色の美しさを感じていただける、今までにない薩摩切子をつくることができたと思います。あえて酒器にこだわらず、さまざまな用途にお使いいただける「grad.」は2020年夏に商品化を予定しています。

  • ※1 LEXUSが主催となり、日本各地の工芸家や職人など若き「匠」を発掘しサポートするプロジェクト
  • ※2 LEXUS NEW TAKUMI PROJECTを通じてサポートしてきた匠の技を集結したクラフトの祭典