創造人×話

見た目だけではなく、きちんと思考が伝わることを大切にしてデザインを続けています。

千星 健夫さんデザイナー

千星さんはご自身でデザイン・製造・販売するプロダクトも手掛けられ、シロクマがティーバッグで釣りをする可愛らしいティーバッグホルダーなど、魅力的な作品が日本はもちろん、海外でも人高い評価を受けていらっしゃいますね。

おかげさまで「TEA BAG HOLDER“SHIROKUMA”」は、2014年に発売以来、好評をいただき、現在は世界30ヶ国以上の方々にお買い求めいただいています。ティーバッグの紐の先を釣り竿の先に引っかけるとシロクマが釣りをしているように見えて、退屈な待ち時間が楽しくなるのでは? というプロダクトです。ティーバッグをカップからすくい上げる時に、ふと一本釣りをしているような感覚になったことがきっかけとなって商品化しました。陶磁器の製造は日本有数の焼き物の産地として長い歴史のある長崎県・波佐見でひとつひとつ丁寧につくられており、その工程が複雑であるため大量生産は難しいのですが、シロクマの目の位置に至るまで細部にも気をつかって制作しています。他の動物でもつくって欲しいというご要望もあるのですが、氷の上でワカサギを釣っている設定のため、シロクマが一番ぴったりだという思いから他には展開していません。

自社のプロダクトですので、たくさん売れた方が良いというマーケティング的な考え方に振り回されるのではなく、思考が伝わることを優先し、共感していただけたら嬉しいと思っています。

他にも、数々の魅力的なプロダクトをつくっていらっしゃいますので、少しご紹介いただけますでしょうか?

WORDS SANDWICH
ワーズ サンドイッチ

「WORDS SANDWICH」は、ハンドプリントの活版印刷機でつくられたアルファベットのカードを選んで、好きな言葉をつくり、最後にパン型のカードにはさんで言葉のサンドイッチをつくるメッセージカードです。アルファベットはそれぞれ食材の頭文字になっていて、ふかふかした感触のパンは、レーザーカットでパンの形に焼き切ることで断面にうっすらと焦げ目が付き、よりパンのような仕上がりとなるよう工夫しました。

Letterpress Poster & Frame
レタープレスポスター & フレーム

「Letterpress Poster & Frame」は、自分に男の子が生まれて、インテリアに合う鯉のぼりを探していたのですが、なかなか見つからず、それなら自分でつくろうという個人的な思いからスタートしたプロダクトです。宙に浮いているように見せたくて、細く裏板のないフレームにしようと試行錯誤の上、小さなビスだけでフレームの四辺を留める構造を開発しました。スタンドはお寺などで見かける衝立の脚をモチーフにデザインし、全体にすっきりとしたミニマルな仕上がりを実現しています。また、「MOMENT SCALE」は、物を乗せると時間が進むような不思議な感覚を呼び起こすスケール型の白磁時計です。はかりのフォルムは物を置く手前からハリが進むような意識がはたらくことに着目して、時間の感覚そのものをみつめなおすプロダクトとしました。

どこかに温もりが感じられる素敵な作品を多く生み出していらっしゃいますが、さまざまなアイデアはどんな風に生まれるのでしょう?

ともすれば逃してしまいがちな感情を大切にして、ちょっとした気づきを普段から意識しており、アイデアストックはたくさん持っていますが、その中で実際にかたちにできるものもあれば、もちろん実現不可能なものもあります。アイデアを商品化することは大変だと思われがちですが、これと決めたアイデアは、まず図面を描いて、ひたすら工場などに電話をし、小ロットでも引き受けてくれるところを探すことから始めれば、意外に実現できるものです。インターネットのおかげで、個人で何かをつくり販売することが簡単になった時代だからこそ、クリエイティブなことを考え続けているデザイナーの方々をはじめ、多くの人がもっとモノづくりを発信していけたら楽しいのでは、と思っています。

MOMENT SCALE
モーメントスケール
PARCO Hibarigaoka
ひばりが丘パルコのリニューアルビジュアルにおけるアートディレクション、デザイン

これからの抱負についてお教えください。

今のままのスタンスを続けていくことが大切だと考えています。現在も、基本的にはデザイナーとして企業からのご依頼で仕事をしておりますが、自社でプロダクトをつくって商品として流通しているという立ち位置は、マーケティングについてある程度見えているという点で少なからず役に立っていますし、それらを踏まえた上でご提案させていただくようにしています。僕は、使う人の気持ちや感情を考えたデザインを重視しながら、ギリギリまで悩んでたくさんの案を提案することが多く、さまざまな方向性を探りながらクライアントさんと一緒に決めていくタイプのデザイナーだと思います。

デザインは工夫の連続だと考えていて、500年以上前に手書きの本をどうにか量産できないかという工夫で活版印刷が誕生したように、美術的な美しさを考えながら工夫を重ねることで世の中が変わっていくのではないかと感じています。これからも、使う人がどんな気持ちになるかに思いを馳せながら、工夫の積み重ねを大事にして、目の前にある仕事に真摯に取り組んでいきたいと思っています。

千星 健夫(ちぼし たけお)

1976年兵庫県生まれ。
GRAPHIC/WEB/PRODUCTとジャンルをはみだしたデザインを手がける。
写真撮影や活版印刷も自らおこなう。
デザイン事務所勤務を経て、2014年「NECKTIE design office」を設立。
Young Designer Award 2018(Interior Lifestyle)受賞。
朗文堂タイポグラフィ・スクール「新宿私塾」講師