創造人×話

見た目だけではなく、きちんと思考が伝わることを大切にしてデザインを続けています。

千星 健夫さんデザイナー

今回は、NECKTIE design office代表の千星健夫さんをご紹介します。グラフィック、WEB、プロダクト、そして活版印刷など幅広いジャンルで活躍されていらっしゃる千星さんは、2018年に東京で開催されたInterior Lifestyleで「Young Designer Awards」を受賞され、副賞として2019年2月にドイツで開催された世界最大規模の消費財専門見本市「Ambiente(アンビエンテ)2019」に招待出展されるなど、国内外で注目を浴びていらっしゃるデザイナーのお一人です。

まず初めに、千星さんがデザイナーとしてスタートされるまでのお話からお聞かせください。

僕は美術大学ではなく、普通の4年制大学出身で、卒業後は社会人向けの専門学校に就職しました。そこは社会労務士やインテリアコーディネーターなど様々な資格を取るための勉強をする学校だったので、事務や営業の仕事をしていた僕は生徒さんにそれぞれのコースを説明するにあたって、自分自身で各コースについての知識を学ぶ必要がありました。その中にグラフィックやWEB、デザインなどの授業があり、当時は美大を出ていない自分とはかけ離れた世界だと思っていましたが、実際にどういう仕事なのかを理解するうちにロジックな世界だと分かり、自分でもできるのではないかと気づきました。それからは独学で学び、分からないことがあれば先生がいましたのでとても助かりました。

その後、会社を辞めてフリーでWEB制作などをしていましたが、やはり美術についての専門的な教育を受けたことがなかった僕は、もっと学ぶべきことがあると感じたこともあり、デザイン事務所に就職しました。

TEA BAG HOLDER “SHIROKUMA”
ティーバッグホルダー・シロクマ

大阪のデザイン事務所に勤務されていたと伺いましたが、何年位いらしたのですか。

8年程在籍していました。最初の1~2年は出す案がなかなか通らず、今なら経験と力不足だったと分かるのですが、その時はとても大変な思いをしたことを覚えています。でも、そこで教えていただき、学ばせていただいたたくさんのことが、今の自分に繋がっていると思いますし、非常に感謝しています。大阪と東京を行ったり来たりしている内に、やはり東京にも事務所が必要だということになり、僕が東京の事務所に来て4年位勤めた後に独立し、今に至ります。

独立されるにあたって、不安はありませんでしたか。

H ZETTRIO
ピアノトリオ「H ZETTRIO」のミュージックジャケット
アートディレクション、デザイン

デザイナーとしてのスタートが27~28歳と遅かったので、自分でチャレンジしてみたいという気持ちも強く、また、会社では若手のスタッフを教え育てていくポジションになっていたこともあり、もっと自分自身でデザイナーとしての力を上げていきたいと思っていたので、不安というよりもワクワク感の方が大きかったように思います。独立する直前に、フリーランスで仕事をされていらっしゃる、ある著名なエンジニアの方と一緒に仕事をさせていただく機会があったのですが、その方は、例えて言うと“走り方が違う”と感じたことがあります。マラソン選手のようにフォーム、スピード、息づかいなど、とにかく全てが違うのです。僕がこのままの立ち位置で沿道を走ろうとしても、絶対にそのスピードにはならないと気付いたことも、独立するきっかけの一つになったと思っています。

活版印刷をご自身でされるなどタイポグラフィにも造詣が深く、それは作品づくりにも生かされているような印象を受けますが、デザイナーとして大切にしていらっしゃることは何ですか。

MUGEN MUSOU
イワタ木工のけん玉ブランド「MUGEN MUSOU」のブランドリニューアル
アートディレクション、デザイン

文字の使い方の重要さは以前から痛感しており、会社に勤めていた時から行きたかった朗文堂という出版社が主宰するタイポグラフィ・スクール「新宿私塾」で学び、現在は講師も務めています。実際に活版印刷機を購入して商品をつくる時に使っていますし、とても面白いのですが、自分でつくっているモノづくりに関しては、特に何かに特化するというわけではなく、アウトプットの媒体は何でもいいと思っています。考え方を流通させたいという気持ちが強く、アイデアの中にあるコアな部分、それを上手く伝えるにはどうしたら良いか? というアプローチで素材から考えていく作業を大切にしています。見た目だけで勝負するというより、そこに考え方が透けて見えるようなモノをつくりたいと考えています。