創造人×話

切り絵には人の心を癒してくれる不思議な力があると信じています。

蒼山 日菜さんレース切り絵作家

数々の受賞とともに、レース切り絵作家として世界的に評価されている蒼山さんにもそんなに辛い時期があったのですね。ご自身が切り絵に癒された蒼山さんがプロとして活動されるまでのストーリーを少しお聞かせください。

ヴォルテールの書
ウィンターフェアリー

ディヴォンヌはスイス・ジュネーブに近く国境沿いの町ですが、そこから程近いアルプス山脈のふもとにあるフェルネ・ヴォルテールという町に転居してからは差別も一切なくなり、全てが好転していきました。2005年には市の文化庁からの依頼で初めての個展を開催することになり、市に縁の深い18世紀のフランスの哲学者・文学者ヴォルテールに敬意を表した作品をつくりました。ヴォルテールの文章を1枚の切り絵にしたこの作品は、私にとって初めて売れた作品となり、とても思い出深く、後に代表作と呼ばれる作品にもなりました。

作品を購入してくださった方はWTO(世界貿易機関)に勤めている女性で、彼女は当時とても精神的に辛い時を送っていたのですが、私の作品を観て涙を流しながら、「あなたは非常に困難な時を乗り越えたのね」と言ってくれました。そして「この作品を観ると励まされているような気持ちになるので、この絵を買って毎日朝起きたらすぐに目に入る場所に飾っておきたい」と言うのを聞いた時に、私自身も感動し、この方に恥じないプロの切り絵作家になって、人のためになる作品をつくり続けていきたいと強く思いました。

ヴォルテールの書を切り抜いた作品は、ハサミだけを使ってつくっていることが信じられない緻密さとともに、観る人にエネルギーを与えてくれる力強さに満ちていますが、その製作過程も大変なのではないでしょうか。

Les papillons(レ パピヨン)1

確かにわずか1行半に5時間位かかったりする場合もありますので大変は大変なのですが、つくることが楽しいですし、何よりも無心になれることが切り絵の魅力の一つだと思います。

これまで切り絵を自分もやってみたいという方のために、全国のカルチャースクールや講座などで、およそ1万人の方々に切り絵を教えてきました。現在は10人の認定講師が各地で毎月講座を開いていて、私も単発で日本中を回り教えています。そこでも生徒さん達は皆さん、無心になれる時間が楽しいしリフレッシュできる、そして作品が完成した時の達成感が嬉しいと言ってくださいます。2019年8月には生徒さんと私の展覧会を東京都美術館にて開催予定で、皆さん、出展を目指して頑張って作品づくりに取り組んでいます。

蝶や妖精、花や鳥、馬車など幅広いテーマで様々な作品を発表されている蒼山さんが、それぞれの作品に込める想いをお聞かせいただけますか。

Papillon(パピヨン)

私がつくる全ての作品にはもちろんコンセプトがあります。たとえば蝶は、研究目的ばかりではなく、ただ綺麗だからという理由で標本にされる蝶に対する想いです。標本にしなくても私の紙の蝶で十分では? というメッセージであり、それは毛皮のためだけに殺されるフォックスなど多くの動物たちへの想いも込められています。また、妖精は私たちが失くしてしまったピュアな地球の美しさを取り戻したいという想いを、馬車はガソリンがない時代のクリーンな世界への想いを込めています。

ヴォルテールの書を切り絵にするのも、作品に惹かれているのではなく、彼の生き様に魅了され尊敬をしているからなのです。とは言え、私は作品それぞれのコンセプトは説明する必要はなく、作品をご覧になる方がその人の感性で受け止めてくださることが大切だと考えています。そして、私の切り絵を観て、一人でも多くの方が癒しを感じてくださることを願っています。

多忙な日々をお過ごしの蒼山さんですが、これからの創作活動について、また将来の夢についてなどをお教えいただけますか。

ラッパ吹きの妖精

現在は日本に住んでいますが、活動の場はどこでも構いませんし、2020年はアメリカとカナダの美術館を10ヶ所巡回する展示会を予定しています。ブラジルやロサンゼルス、カザフスタンの美術の教科書で私が紹介されていたり、イギリスの専門誌の表紙になっていたりと、自分でも意外なほど海外での知名度の方がむしろ高いのも嬉しく、これからも国内外の多くの美術館に作品が所蔵していただけるよう創作活動を続けていきたいと思っています。

奏でる妖精

作品は個人の方に売ってしまうと、たくさんの方に観ていただけなくなるので、基本的には売らずに手元に残していくことにしています。将来は日本のどこかに自分の作品を集めた小さな美術館をつくることが夢で、一軒家を改装して作品が展示できるスペースをつくるのも楽しいかな、と考えています。

蒼山 日菜(あおやま ひな)

横浜市出身。2000年より、ハサミのみで作りあげる切り絵を始める。オリジナリティと究極の技に迫り、細くレースのような切り絵を製作、世界的な評価を受け現在に至る。
オスカープロモーション所属。
2010年 NEWS WEEK 「世界が尊敬する100人の日本人」に選出される

受賞歴

  • 第6回トリエンナール・PAPER ART インターナショナル展覧会 グランプリ (初出品 アジア初 切り絵部門初 CHARMEY美術館 スイス)
  • 第9回 カンヌ国際展覧会 「アートと世界の文化展」(Le Grand Prix International Le Monde de la Culture et des Arts Cannes-Azur 2007) 金メダル
  • トリエンナーレ Parmares du grand Prix des Distinctions Francais et Etrangeres 2007 銀メダル (初出品)
  • le Salon des Artistes Contemporains 2007 Honfleur FRANCE 優秀賞 (初出品)
  • 第8回 カンヌ国際展覧会 「アートと世界の文化展」(Le Grand Prix International Le Monde de la Culture et des Arts Cannes-Azur 2006) 金メダル (初出品)

など多数受賞