技術資料

光による害虫の物理的防除方法について(その1)

技術開発室 技術研究所 環境技術グループ

キーワード

光,害虫,物理的防除,人工光源,昆虫,行動抑制

1.はじめに

農業分野では,従来より,害虫による被害から作物を守るための殺虫剤と,作物を病気から守るための殺菌剤,雑草から守るための除草剤の併用散布が行われている。この農薬問題は,健康問題や環境問題により,無農薬,減農薬と薬剤削減の方向に進んでいるが,代替技術の確立が大きな課題とされている。この代替技術の一つとして「光による害虫の物理的防除方法」が,最近問題となっている難防除害虫に対する害虫防除方法として見直されてきている。一方,産業分野においても,食品・薬品・製紙・半導体工場などでは昆虫の混入防止対策からその防除法は今後重要な課題と言える。以下に,昆虫に関する概論,光に対する昆虫の反応,光による害虫の防除法などを紹介する。

2.昆虫概論

昆虫にはハエやカなど病気の媒介をする衛生害虫,農業・貯蔵・食品害虫,家畜の害虫,繊維害虫,森林・乾材害虫など人間の生活に関連した害を与える害虫と,昆虫の生産物を利用したもの(蜜蝋,絹,蜂蜜など)や昆虫自体を利用したもの(タマムシ,花粉媒介など),昆虫の持つ機能を利用したもの(生物学・遺伝子の解明,生物工学など)など,人間の生活に有効な利用方法も数多くある。表1 1)は,昆虫と我々人間の生活との関わりを示したものである。

表1 昆虫と人間の生活の関わり合い(松本,1995を一部改変)
人間の生活活動要素 昆虫との関係
健康・衛生
刺咬・吸血と病気の媒介
衛生害虫-ハエ,カ,ノミ,シラミ,ブユ,スズメバチなど
昆虫生産物の医療材料への応用
蜜蝋-歯形材料
食料
農作物・貯穀類・食品の食害汚染
農業・貯穀・食品害虫-ウンカ,ヨコバイ,ニカメイガ,ヨトウムシ,コクゾウ,ノシメコクガなど
家畜の刺咬・吸血と病気の媒介
家畜害虫-ハエ,カ,ノミ,シラミ,アブ,ブユなど
昆虫または昆虫生産物の食用供給
有用昆虫-イナゴ,サザムシ,タガメ,ミツバチの蜂蜜
農作物の受粉
花粉媒介昆虫-ミツバチ,マメコバチ,マルハナバチなど
農作物の害虫防除
天敵利用-オンシツツヤコバチ,ククメリスカブリダニ,テントウムシなど
衣料
繊維作物,動物性繊維,毛皮,皮革の食害
繊維害虫,家畜害虫-ワタミゾウムシ,カツオブシムシ,タバコシバンムシ,スクリューワームなど
絹糸の供給
絹糸昆虫-カイコ,サクサンなど
住居
材木・樹木の穿孔・食害
森林・乾材害虫-カミキリムシ,キクイムシ類,マツカレハ,シロアリなど
嗜好・化粧
チャ,コーヒー,タバコなどの加害
工芸作物害虫-チャハマキ,コカクモンハマキなど
昆虫生産物の化粧品材料への応用
蜜蝋-口紅
交通・通信・エネルギー
配管類の充填障害,大発生による視界妨害,その他
アブ,ドロバチ,ハキリバチ,ユスリカなど
電柱・電話線ケーブルへの産卵・穿孔加害
セミ,小形甲虫類など
水力発電所導水路壁面への造巣による電力障害
トビケラ類
科学・芸術・教育 生物学・化学・生物工学諸分野への貢献,文学,美術の対象
工芸品材料
タマムシなど
教育材料
カイコ,カブトムシなど
法医学
遺体に集まる昆虫の種類から死亡時間の推定
骨格標本の仕上げ
カツオブシムシ類
スポーツ
釣りの餌
ブドウトラカミキリ幼虫,ユスリカ幼虫,トビケラ,その他水生昆虫
ゴルフ,サッカー,野球場など
芝草害虫-シバツトガ,コガネムシなど

2.1 昆虫の種類

表2 2)は1984年までに世界各地より報告された昆虫の種類を示したものだが,現在でも数多くの種が,毎年,新種として発表され続けている。その概数は,地球全体で約77万種となり,地球生物全体を165万種としたときの約47%,半数近くが昆虫であることを示している。動物全体を110万種とした場合,実に70%は昆虫ということになる。1988年まででは,地球全体で約94万種の昆虫が報告されている 3)。表内にイギリスの昆虫数を併記したのは,イギリスは博物学の伝統が古く,動植物の調査は全国隈なく行きわたり,世界でもっとも良く調査されているためである。日本の場合の種が完全に解明されているのはトンボとチョウしかないことも知られている。

表2 化石種を除く昆虫の種類数
分類群(目別) 地球全体 イギリス
1945
日本(1984まで)
1984まで 1988まで 既記録 追加予想
カマアシムシ目 Protura 250 450 17 52 10
トビムシ目 Collembola 4,000 3,500 261 368 150
コムシ目 Diplura 200 500 12 12 15
イシノミ目 Thysanura 400 300 11 23 10
カゲロウ目 Ephemeroptera 2,000 2,100 46 102 50
トンボ目 Odonata 5,000 5,000 42 187 3
カワゲラ目 Plecoptera 1,500 2,000 34 162 10
ガロアムシ目 Notoptera 20 24 - 6 5
バッタ目 Orthoptera 14,500 20,000 39 222 60
ナナフシ目 Phasmida 2,300 2,500 - 19 5
ハサミムシ目 Dermaptera 1,200 1,840 9 21 10
カマキリ目 Mantodea 1,800 1,900 - 9 3
ゴキブリ目 Blattodea 3,000 3,700 8 52 10
シロアリ目 Isoptera 2,000 2,770 - 16 2
シロアリモドキ目 Embioptera 150 300 - 3 1
チャタテムシ目 Psocoptera 1,700 3,000 70 83 100
ハジラミ目 Mallophaga 2,800 2,800 274 150 100
シラミ目 Anoplura 280 500 34 40 20
アザミウマ目 Thysanoptera 3,300 6,000 183 176 200
カメムシ目 Hemiptera 60,000 82,020 1,477 2,848 500
アミメカゲロウ目 Neuroptera 5,000 4,500 60 138 80
シリアゲムシ目 Mecoptera 400 470 4 38 10
トビケラ目 Trichoptera 6,000 7,000 188 356 50
チョウ目 Lepidoptera 130,000 137,000 2,233 5,173 2,000
ハエ目 Diptera 100,000 150,000 5,219 5,298 5,000
ノミ目 Siphonaptera 1,400 1,750 47 69 20
甲虫目 Coleoptera 300,000 370,000 3,711 9,131 2,000
ネジレバネ目 Strepsiptrera 300 500 18 31 22
ハチ目 Hymenoptera 120,000 130,000 6,228 4,152 9,000
合計 約770,000 約942,000 20,244 28,937 約20,000

2.2 昆虫の食性

昆虫の食性は種類によりその食物もさまざまで,微生物から動植物の血液や分泌物,排泄物,分解物まで広範囲である。これらの食性は,肉食性,腐食性,雑食性,植食性の4つに大別されるが,過半数の種は植食性で,種毎に特定の植物の特定の部分(薬,花,果実,茎,根,材部など)を食べて成長している。また,同じ種でも幼虫は根部,成虫は葉や果実を食害するなど,成育ステージによって食性が変わることも多い。表3 4)には昆虫の食性の分類を示す。最近,とくに問題となっている難防除害虫においては,ハスモンヨトウはサトイモ,キャベツ,ナス,ダイズ,シロイチモジヨトウはネギ,ホウレンソウ,キヌサヤ,カーネーション,シュッコンカスミソウなど広食性を示し,コナガはアブラナ科の野菜や切り花のストックなど,さらにオオタバコガでは表4 5)に示す如く広食性を示すため,被害も多く緊急なる防除対策が課題とされている。

表3 昆虫の食性の分類(松本,1995;Dethier,1947を一部改変)
1.肉食性, 動物食性
 1)寄生性 アオムシサムライコマユバチ,ルビーアカヤドリコバチなど各種寄生蜂,寄生バエ
 2)捕食性 カマキリ,アシナガバチ,ドロバチ,サシガメ類
 3)吸血性 カ,ノミ,シラミ,アブ,ナンキンムシ
2.腐食性, 腐敗・分解物食性
 1)食糞性 センチコガネ,ダイコクコガネ・ノサシバエ・ニクバエ・イエバエ類幼虫
 2)死肉・腐肉食性 シデムシ,ハエ,アリ類
 3)植物分解物食性 ショウジョウバエ,コオロギ
 4)土壌有機物食性 カブトムシ・コガネムシ類幼虫
 5)動物性繊維・皮革食性 カツオブシムシ類
3.雑食性
 1)雑食性 ゴキブリ類
4.植食性
 1)食藻性 ハマベバエ
 2)食菌性 アムプロシア甲虫,ショウジョウバエ
 3)種子植物食性  
 4)食葉性
 a.葉の表面から食べる
 b.潜葉性
 
ヨトウムシ・モンシロチョウ幼虫,ハムシ類
ナモグリバエ・ハモグリガ類幼虫
 5)汁液吸収性 アブラムシ,アザミウマ類
 6)食果性 シンクイムシ類,果実吸蛾類
 7)食花性 ウラナミシジミ幼虫,ハナムグリ類
 8)食茎性 ニカメイガ・アワノメイガ幼虫
 9)食根性 ウリハムシ・コガネムシ・セミ・タネバエ幼虫
 10)樹木穿孔性 コスカシバ・キクイムシ類・カミキリ類幼虫
表4 オオタバコガによる被害作物
オオタバコガによる被害作物 (清水,1997)
トマト,ピーマン,ナス,トウガラシ,タバコ,オクラ,メロン,スイカ,キュウリ,エンドウ,レタス,キャベツ,インゲン,アスパラガス,イチゴ,ニンジン,カボチャ,トウモロコシ,バレイショ,ラッカセイ,ハトムギ,キク,バラ,シクラメン,シュッコンカスミソウ,カーネーション,トルコギキョウ,ケイトウ,ホオズキ,ビワなど

参考文献

  1. 松本義明:応用昆虫学入門,川島書店,p.3(1995).
  2. 大野正男:昆虫の生物学(第2版),玉川大出版,p.29(1995).
  3. 日本動物大百科・昆虫I,平凡社,pp.46-47(1996).
  4. 松本義明:応用昆虫学入門,川島書店,p.38(1995).
  5. 清水喜一:グリーンレポート10/15 号,No.284,pp.6-9(1997).

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