技術資料

QCM法による誘導結合酸素プラズマ下の活性酸素種検出

研究開発本部 技術研究所 光応用基礎研究室
研究開発本部 技術研究所 材料研究室
独立行政法人産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 野田 和俊

キーワード

活性酸素種,検出,QCM法,水晶振動子,誘導結合プラズマ

3.実験結果および考察

3.1 発光分光分析による誘導結合酸素プラズマ中の励起種同定

図3 誘導結合酸素プラズマの発光分光分析

誘導結合酸素プラズマの分光分析結果を図3に示す。結果から,波長777nm付近に励起状態の原子状酸素ラジカルに帰属する鋭い発光ピークが確認された。その他,水素原子(Hα,Hβ),水酸化ラジカル(OH)なども認められたが,これらは真空チャンバー内やガス配管に吸着した残留水分に由来するものと推察される4)

以上の結果から,本プラズマ装置の場合,原子状酸素ラジカルが支配的な活性酸素種であると思われるが,分光分析で得られる情報は,あくまで発光励起種からの情報のみである。リモートプラズマ中には上記の発光励起種以外にも,基底状態原子状酸素などの非発光励起種が存在すると推定され,下流域に設置したQCMセンサでは,上記のような発光励起種の他,非発光の活性酸素種も同時に検出されるものと考えられる。

3.2 リモートプラズマ照射によるQCMの周波数変化量測定

リモートプラズマ照射による各QCMセンサの周波数変化を図4および図5にそれぞれ示す。銀電極QCMの場合,リモートプラズマ照射直後から急激な周波数減少を示し,100秒間の計測で約6500Hzの周波数変化を示した。これを質量変化に換算すると,およそ6500ng(6.5μg)の質量増加に相当する。この質量増加量が次式に示すような銀(Ag)と原子状酸素(O)のみとの化学反応による酸化銀(Ag₂O)の形成,

2Ag+O→2Ag₂O・・・・・(2)

によるものと仮定すると,QCMが検出した原子状酸素フラックス量(O*flux)は

O*flux=Δm・R/(M・S・T)・・・・・(3)

で示される。ここで,Δmは電極表面の質量変化量,Rはアボガドロ定数,Mは原子状酸素の質量数,Sは電極面積,Tは計測時間である。(3)式から,銀電極QCMセンサで検出された原子状酸素フラックス量は,およそ1.2×10¹⁶atom cm⁻²sec⁻¹と見積もられる。

図4 銀電極QCMによる活性酸素検出結果

図5 カーボン電極QCMによる活性酸素検出結果

一方,カーボン電極QCMにおいては,300秒間の計測で約110Hzの周波数増加,すなわち質量換算で110ng程度の質量減少を示す結果が得られた。銀電極QCMの場合と同様に,カーボン(C)が原子状酸素(O)のみと反応して,COなどの揮発性有機物として飛散除去する簡単なモデルを仮定すると,原子状酸素フラックスは約9.3×10¹³atom cm⁻²sec⁻¹と見積もられる(但し,ここで(3)式のMは,原子状酸素との反応によって脱離したカーボン(C)の質量数を用いた)。この値は銀電極を用いたものより2桁以上低い値となっているが,これは,原子状酸素に対する銀とカーボンの反応効率の相違に加え,前述の通り,銀電極は水晶素子の両面に形成されており,リモートプラズマ中の活性酸素一部は拡散して,裏面の銀電極とも反応したためと推察される。

各QCMセンサの写真を図6および図7に示す。何れの図中においても(a)は初期の表面状態,(b)は活性酸素計測後の表面状態である。銀電極QCMの場合,計測後,表面酸化(黒化)による明らかな光沢の消失が認められる。一方,カーボン電極QCMセンサの場合は計測後に,膜厚減少による下地金電極層の露出が認められる。

カーボン電極QCMにおいては,原子状酸素など活性酸素種との表面化学反応による揮発性有機物の形成,もしくは物理衝撃による膜のスパッタリング現象が起こっていると推測され,結果として,終始,活性酸素種と反応し得る新たなカーボン表面が露出し続けるため,カーボン膜全体が消失するまで活性酸素検出層として機能すると考えられる。

一方,銀電極QCMでは,活性酸素種との反応によって表面層が完全に酸化銀で被覆されると,もはや活性酸素種との反応,すなわちQCMの周波数変化は飽和し,検出が困難となる。このような理由から,カーボン電極QCMでは,銀電極QCMよりも長時間の活性酸素計測が可能である。

図6 銀電極QCMの表面状態

図7 カーボン電極QCMの表面状態

4.まとめ

QCM法を用いた活性酸素種のモニター法について検討を行ない,誘導結合酸素プラズマ下の活性酸素種が銀電極QCMおよびカーボン電極QCMによってそれぞれ検出可能であることが判明した。銀電極QCMは活性酸素種を非常に高感度で検出可能な質量加算型センサであり,一方,カーボン電極QCMは長時間の活性酸素測定に適した質量減算型センサである。

今後,銀,カーボンに代わる新たな検出材料の開発,電極材料と活性酸素種との反応素過程の解明,検出結果の実プロセスへのフィードバック制御などについて検討を行なう。

参考文献

  1. S. Nomura, et al.:Discharge Characteristics of Microwave and High-Frequency In-Liquid Plasma in water, Applied Physics Express, Vol.1(2008).
  2. V. Matijasevic, E. L. Garwin and R. H. Hammond:Atomic oxygen detection by a silver coated quartz deposition monitor, Rev. Sci. Instrum., Vol.61, No.6(1990).

(本報告は,2008年10月14日から18日に韓国ソウルで行なわれた国際会議(International Conference on Control and Automation Systems 2008)における産業技術総合研究所殿との共同発表の内容を一部改訂してまとめたものである。)

謝辞

本研究で用いられた誘導結合プラズマ源は,東洋大学工学部,岡本幸雄教授にご指導頂いたものであり,ここに感謝の意を表します。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第19号掲載記事に基づいて作成しました。
(2008年10月22日入稿)


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