技術資料

歩行者の視認に与える光幕の影響

研究開発本部 技術研究所 照明研究室
研究開発本部 新事業開発部
国立大学法人東京工業大学大学院 中村 芳樹

キーワード

歩行者照明,グレア,等価光幕輝度,視認性,省エネ

3.実験結果

筆者らは,まず,14種類の実験に対する被験者個々の評価結果(評価刺激の顔の輝度)に,特異な結果がなく平均値で取り扱えることを分布図と標準偏差(最小値:0.06,最大値:0.37)の結果から確認した。次に,調光操作の順序(消灯から明るさを増していく場合と十分明るい状態から明るさを減じていく場合)の相違による差異がないことを,ウエルチのt検定を用いて確認した。以上を基に,実験データの解析を,全被験者の平均値で行なうこととした。

実験結果の平均値は,被験者が目・鼻・口の位置が分かるとした視認レベルであり,以下,これを所要顔面輝度と呼ぶことにする。

背景輝度をパラメータに,測定した等価光幕輝度の平均値と所要顔面輝度との関係を図3に描いた。この図からは,等価光幕輝度の約150倍の変化に対して,所要顔面輝度が約10倍変化することがわかる。ゆえに,次のことが言える。

  1. 所要顔面輝度は,等価光幕輝度(グレア)の影響を受け,等価光幕輝度が増すと増加する。
  2. 実際の環境下で顔が識別できるか否かを予測するには,背景輝度と等価光幕輝度との影響を併せて検討する必要がある。

図3 所要顔面輝度と等価光幕輝度の関係

4.考察

4.1 所要顔面輝度と背景輝度および等価光幕輝度との関係

実験環境下の背景輝度は,比較的一様な輝度分布としてコントロールされている。しかし,実際の夜間の光環境は非常に複雑であり,ある夜間の輝度分布がどのような一様な背景輝度に対応するかが不明である。

顔の識別に要する輝度は,背景輝度(背景そのものの輝度と背景輝度による等価光幕輝度)とグレア光による等価光幕輝度が影響していると考えられる。一方,測定した等価光幕輝度には,“背景輝度による等価光幕輝度”と“グレア光による等価光幕輝度”が重畳されている。

本研究は,グレア光による等価光幕輝度が顔の識別にどの程度影響を及ぼすかの知見を得ることを目標としている。そこで,背景そのものの輝度と背景輝度による等価光幕輝度による影響と,グレア光の等価光幕輝度による影響とに分離することを試みた。

グレア光による等価光幕輝度は,グレア光のない場合の等価光幕輝度の計測値の差分から容易に求めることができる。背景そのものの輝度は,中村6)のN-filterの考えを基に画像処理により求めた。このN-Filterは,複雑な輝度分布を有する光環境下において視対象と背景との輝度対比を表わすために開発されたものである。言い換えれば,視対象に対するその周囲の複雑な輝度分布を,ある1つの背景輝度値(以下,等価な背景輝度と呼ぶ)として表わす方法である。
図4は,横軸に“等価な背景輝度+等価光幕輝度”,縦軸に所要顔面輝度をとり,実験結果を布置したものである。ここに,所要顔面輝度と“等価な背景輝度+等価光幕輝度”の間に,(1)式に示すような強い相関(R²=0.995)が導出され,図3に示した結果より強い相関関係を示した。

図4 所要顔面輝度と等価な背景輝度+等価光幕輝度の関係

Lf=0.275・(Lb'+Leq)+0.111・・・(1)式 ここに,Lf:所要顔面輝度(cd/m2),Lb':等価な背景輝度(cd/m2),Leq:等価光幕輝度(cd/m2)

以上より,筆者らは,N-Filterによって求めた等価な背景輝度に等価光幕輝度を重畳することによって,所要顔面輝度を推定することができると考える。

参考文献

  1. 中村:光環境における輝度の対比の定量的検討方法,照学誌,Vol.84, pp.522-528(2000).

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