創造人×話

色や素材の魅力を引出し効果的に活用することでデザインの可能性を広げていきたいと考えています。

秋山 かおりさんSTUDIO BYCOLOR代表/デザイナー

ご自身のブランド展開を含め、多岐にわたるジャンルでものづくりに取り組んでいらっしゃる秋山さんが、作品をつくる上で大切にされていることは何でしょうか。

色や素材の持つ力を効果的に活用するクリエイションで、家具や日用品のデザイン・ディレクションを行うということを「STUDIO BYCOLOR」はコンセプトとしており、それは独立してから今までずっと変わっていません。それぞれの企業で関わり方は様々ですが、まずは企業の持つ独自の技術や加工方法を学び工場を見学させていただき強みや伸ばしていきたい部分を伺います。自分なりに感じた素材の魅力と、その素材が生きる色を企業と共に探っていきます。

「MUM」星野工業株式会社/撮影:kanoco

たとえば栃木県鹿沼の星野工業株式会社と開発した木製テーブルウェアMUM(マム)は、北限の良質のヒノキを活かした製品です。新たに導入された精密加工機であるターニングマシンの導入により、一般的な旋盤加工とは異なる形状を量産化できるという切り口から、表面を多面体にすることで折り紙のように折られたような器を開発しました。曲面に比べて滑りにくい形状で、落としても割れない素材であることから、親子で楽しい食事の場が提案できればという思いを乗せて2017年に発表されました。
色は日本の食卓に並ぶ食材の色を生の場合や火を通した場合などそれぞれ変化した色も含めてマップにし、色・質感を追求しました。2018年の夏ごろから、クリエイティブと環境に配慮したオーストラリアのパートナー企業より販売を予定しています。

独自のブランド展開をしている木材の持つテクスチャを活かしたジュエリーシリーズ「DD:WW(デュー)/Day by Day:With Wood」は素材実験から生まれた製品群です。〈木は生きている素材〉であることを伝えるため、木を構成する主な組織から接着要素を除去し道管を露わにすることで木が呼吸している様子を感じていただけるコンテンポラリージュエリーです。最初は建築金具として開発・デザインしたもので、2014年ミラノサローネでの発表をきっかけにコンテンポラリージュエリーへの展開が生まれ、2017年、ドイツの国際的デザインアワードDESIGN PLUS賞を受賞いたしました。クライアントワークとは異なるアプローチで様々な可能性を探っています。

世界最大級の国際家具見本市ミラノサローネなど海外の展示会への出展も積極的にされていらっしゃるとお聞きしました。

「ミラノサローネ」へは、イトーキに勤務していた頃から毎年かれこれ10年以上訪れていたので、独立後に初めて自分の作品を出展した時はとても感慨深いものがありました。ドイツ・フランクフルトで開催される世界最大級の国際見本市アンビエンテでの招待出展を経て、2018年9月には香港で素材を切り口に日本のクリエイションを発信する展示会「MATERIAL IN TIME」を企画させていただいています。展示会のディレクションは初めてであるため手探りの部分が多いですが、ものづくり企業や若手デザイナーが海外へ発信するきっかけとなる場をデザインの視点でクオリティを保ちつつ、一方で無理の無い手法で出来る可能性を探っています。

以前警察官舎だった頃の名称「Police Married Quarters」の頭文字をとったPMQという大型デザイン複合施設での展示を予定しており、香港のクリエイターとの交流も楽しみにしています。今後コンスタントに続けていく展示にしたいと考えており、初年度のテーマは「紙」と考えています。日本に古くから続く和紙の魅力的な展開や、紙とテクノロジーとの融合、そして日々変化していく紙の風合いなど、時間軸をもたせた展示により一層深く認知し価値の共有ができる場となればと考えています。

「霧漆」株式会社カブク、株式会社studio仕組

企業との協働作品についても、少しお話いただけますでしょうか。

2015年には、株式会社studio仕組、株式会社カブクとのコラボ―レーションで「霧漆/KIRIURUSHI」という椀、花器をつくりました。3Dプリンタによる積層アクリルと、漆という先端技術と伝統工芸の新たな出会いを求め、双方の素材を活かすために、器の外側にはあえて漆塗りをしないで内側のみに塗るという手法を選択しました。深い艶を持つ漆という伝統的な表面加工が活きる空間は仄暗さの中にあると考えたからです。そして3Dプリンタによるアクリルの積層痕を透明感のある木材として表現することで、霧の中に漆がふっと浮かび上がるようなイメージを形にしました。

「tratto chair」シモンズ株式会社/撮影:Yusuke Tatsumi

この作品は2016年に中国杭州で始まったデザインアワードDesign Intelligence AwardにてTop100を受賞。また2017年秋から富山県美術館で開催された企画展「素材と対話するアートとデザイン」にも出展させていただきました。

また、2018年3月には高級ベッドの製造販売メーカー、シモンズ株式会社と開発を進めてきた新商品「tratto chair」が発売されました。人々に良質な睡眠を促すことを目的とし、睡眠前と起床後の短い時間で自分の体と向き合うことの大切さを認識できるチェアで、健康器具のような機能を持ちながら、インテリアに馴染むシンプルなデザインに仕上げました。ホームユースはもちろん、ホテルや新たな働き方を促す先進的なオフィスでもリフレッシュする際のチェアとしてお使いいただけます。

最後に今後の展望についてお聞かせください。

これからも、色と素材の持つ力を引き出すアプローチを大切にしながら、永く使っていただける日用品や家具をつくり、デザインの可能性を提案し続けていきたいと思います。 企業の技術力をよりわかりやすい形で伝達することもデザイナーの役割だと考えており、製品の魅力を効果的に訴求するクリエイティブワークに取り組んでいきたいです。また、引き続き国内外の展示会を通し、海外のクリエイター達や企業と、ものづくりをきっかけに交流が出来る場を作っていくことが出来たら良いなと考えています。

秋山 かおり(あきやま かおり)

東京を拠点に、色や素材の持つ力を効果的に活用するクリエイションを生み出すデザイン事務所「STUDIO BYCOLOR」を主宰。

千葉大学工学部デザイン工学科を卒業後、株式会社イトーキ勤務を経て、オランダのデザイン事務所STUDIO Samira Boonでの経験を通し、現在に至る。グッドデザイン賞、DESIGN PLUS賞(ドイツ)、Design Intelligence Award Top100(中国)、富山プロダクトデザイン賞入選、Young Designer Award 2015 他受賞。ミラノサローネ(イタリア)、アンビエンテ(ドイツ)など国内外の展示会出展。2018年より香港でのデザイン展 [MATERIAL IN TIME] のディレクションを行う。法政大学 デザイン工学部/日本工学院専門学校 プロダクトデザイン科 非常勤講師。