創造人×話

ロボットが日常の風景になる未来をつくっていきたいと考えています。

松井 龍哉さんフラワー・ロボティクス株式会社 代表取締役社長/ロボットデザイナー

フラワー・ロボティクスの企業ビジョンは「ロボットを日常の風景にすること」と伺いました。それはどういう意味を持つのでしょうか。

ロボットは人々の暮らしを豊かにするものであり、ロボットデザインの本質とは、人の生活の中に自然に共存させるトータルシステムを設計することだと考えています。車やパソコン、スマートフォンのように、ロボットが日常生活の中に普通に存在する日が来ることを目指して、これまで様々なロボットを開発してきました。コンピュータそのものはあったけれど限られた人たちだけが使っていた時代に、もっと皆が使えるものにしようとスティーブ・ジョブズがアップル社を起業した時にもデザインが重要な意味を持ったように、ロボットの分野で人々の暮らしにおける新たな価値観をデザインしていきたいと考えています。

今はまだロボットデザイナーという職業は珍しいかもしれませんが、次世紀には当たり前の職業になっていると予測していますし、22世紀に評価されればいいなと思いながら活動を続け、起業して17年が経ちました。私たちは、家庭の中に自然に入り込むシステムとしてロボットを捉え、そのコンセプトを具現化した家庭用ロボットPatin(パタン)をつくりました。まだ一般に販売はしていませんが、これから大学などいろいろな場所で使われ始めます。

自律移動型家庭用ロボット「Patin」

Patinはどのようなロボット製品なのでしょうか。

Patinは、センサーによって収集した情報を基に自分で考えて動く、自律移動機能を持った台車型ロボットプラットフォームです。照明や加湿器、空気清浄機などの機能を持つアプリケーション(サービスユニット)を本体に載せて使用することで、サービスユニットの数だけ使い方が広がることを大きな特長としています。たとえば空気清浄機を載せるとセンサーで室内の様子を見て必要な場所に移動し、集中的にきれいにしてくれますし、部屋が暗くて状況を判断出来ない場合は、自分で照明をつけることも出来ます。

家庭にある冷蔵庫や洗濯機と同じようにPatinがある日常が訪れることを目指しています。2017年に、スイスとの国境沿いのドイツ南端の町にある世界的なデザインミュージアム、Vitra Design Museumで「Hello, Robot」というロボット展が開かれ、現在もベルギーやオーストリアなどで巡回展が続いていますが、世界中から集まったプロダクトの内、日本からは鉄腕アトムやAIBOと並び、Patinが選ばれました。小さい頃からの憧れだったスター・ウォーズ「R2-D2」のオリジナルと並んで展示されていることがとても嬉しかったです。

新たなライフスタイルを実現するIoT連携の取り組みとして設立された「コネクティッドホーム アライアンス」のデザインディレクターに就任されたとお聞きしております。どのような活動をされていらっしゃるのでしょうか。

音と光を発生させて動くスピーカー型のロボット「Platina」

「コネクティッドホーム アライアンス」は、多種多様な業界の垣根を超えた企業連合です。日本では各企業が個別に製品を開発しているため、連鎖的な暮らしのIoTサービスが実現出来ていないことを踏まえ、共通のプラットフォームを作る取り組みを始めています。私はデザインディレクターという立場で参画させていただいており、デザインの視点から、アライアンスと社会をコネクトし、その意義やコネクティッドホームがもたらす心地よい未来を発信していく役割を担っています。

たとえば、「おはよう」とスマートフォンに話しかけただけで、照明が点き、カーテンが開き、お湯が沸いてコーヒーを作るなど朝のシチュエーションをつくることは、朝という価値をデザインすることですし、「地震だ!」という場合は、窓やドアが開き、ガスが止まって、テレビのニュースが流れ、モニターに家族との連絡が映し出されるという災害時対応のデザインを想定することも可能です。

将来的に街全体で考えていくと色々なことが出来ると予想され、ビッグデータの解析が必要になるとともに、どれだけ“ひとまとまりの価値”をつくるかがデザイナーの仕事だと考えています。暮らしのIoTはこれから必ず当たり前になり、その中に当然ロボットも入ってきます。IoT化が進めば時間の短縮により余暇が生まれ、働くことの意味や、今やっていることを考える時間が出来、新しい価値観の創造へとつながるのではないかと思います。

30代の時に史上最年少という若さで水戸芸術館全フロアを使っての展覧会を開催され、ニューヨーク近代美術館MoMAにも出展、また航空会社スターフライヤーのトータルデザインを手がけるなど、多方面でその才能を発揮していらっしゃる松井さんですが、今後の展望をお聞かせください。

私は2019年に50歳になるのですが、これまで色々なことに取り組み、スタッフやエンジニア達とのコミュニケーションの取り方も成熟してきましたので、これからの10年は、もっとデザインに専念し、クリエイティブそのものを深めていけたらいいなと思っています。デザイナーとして職人的なところを掘り下げていきたいです。

トータルデザインを手がけた「スターフライヤー」

松井 龍哉(まつい たつや)

フラワー・ロボティクス株式会社 代表取締役社長/ロボットデザイナー

1969年東京生まれ。91年日本大学藝術学部卒業後、丹下健三・都市・建築設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わる。
2001年フラワー・ロボティクス社を設立。ヒューマノイドロボット「Posy」「Palette」などを自社開発。現在、自律移動型家庭用ロボット「Patin」を開発中。
2017年よりヨーロッパ各地の美術館/博物館にて開催される巡回展”Hello, Robot”展に出展中。ニューヨーク近代美術館、ヴェネツィア・ビエンナーレ、ルーヴル美術館、パリ装飾芸術美術館等でロボットの展示も実施。
iFデザイン賞(ドイツ)red dotデザイン賞(ドイツ)など受賞多数。日本大学藝術学部客員教授、グッドデザイン賞審査委員(2007年から2014年)。