小さな光が、大きな未来に。

75th Anniversary - Since 1944 -

岩崎電気は2019年8月18日、創立75周年を迎えました。
75年前の情熱から生まれた小さな光が、
私たちを照らしてきたように、
未来を照らす新たな光を私たちは創造し続けます。

25年後の照明を語る

第3回

宮本亜門「人を幸せにするあかり」

ミュージカル、オペラなど国内外で幅広い作品を手掛ける演出家・宮本亜門さん。
新たな試みに次々と挑戦し続ける日本を代表する演出家が、
テクノロジーの進化と日本のあかり文化の未来に寄せる思いとは

最も照明にうるさい演出家です(笑)

僕の舞台作品での「あかり」は、ただ照らすのではなくて、「空気を作る」ということです。物語の状況や作品の世界観をあかりで表現する。出演者に当てる照明の色合いも、その人の感情、心をあらわす色。劇場の舞台に立つ役者の内面を探るのは、衣装でもセットでもない、「あかり」なんですね。そういう意味で目に見えないものをどうやって見えるように表現していくか、というところに僕は徹底的にこだわります。だから照明スタッフさんからも、亜門さんの仕事は細かくてたいへんだぁ〜と言われ続けて何十年(笑)。自他ともに認める、最も照明にうるさい演出家です(笑)。

照明にLEDが登場して、映像も含めていろんなテクノロジーが進化して、舞台表現はどんどん面白くなってきました。テクノロジーというと、未来的でかっこいいものという方向に傾きがちですが、僕はむしろテクノロジーの進化のおかげで、人間の内面を、実際には見たことのない世界を、より繊細に作ることができるようになったと思っています。

たとえば、能楽と3D映像を融合させた『幽玄』(2016年シンガポール、2018年ヴェルサイユ宮殿オペラハウスで上演)は、能の「石橋」と「羽衣」をベースにした作品ですが、生身の能楽師と、映像と照明のコラボレーションで、日本の幽玄を浮き立つような世界観で表現できたと思います。天女が月に戻って行くシーンも実際に目の前で起こっているかのように作ることができました。2019年7月に上演したばかりのフィギュアスケート×源氏物語のアイスショー『氷艶−月光かりの如く-』では、スケーター全員にセンサを付けて、彼らがリンクのどこに行ってもセンサでピンスポットがピターッとついてきて、その人物が浮き出すようにしたり、照明と映像でスケーターが滑るたびにキラキラをつけたり、リンクに大海原の波を表現したり。新たなテクノロジーを使って、これまでにないエンターテインメントをお見せできたと思っています。

あかりに対する日本人の美学

LEDの進歩で、繊細なギリギリまで暗いあかりや、いろいろな強弱や色をつけられるようになり、「暗さ」を自在に表現することもできるようになりましたね。もともと僕は「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」という考え方が好きなんです。ただ明るいだけがいいものではないという、日本人が本来持っている美学みたいなもの。障子の向こうに見える灯の揺らめきとか、そういう繊細なもの、そして大胆なものを、日本人はいろいろ使い分けて文化を築きあげてきたんです。それは日本人の宝だと僕は思っています。

ただ現代の日本人は、高度経済成長期を経てどんどんその宝物を自ら忘れていってしまっている。例えばコンビニエンスストアの煌煌とした蛍光灯に目が慣れてしまい、ほの暗さとか、漂うような光の美しさに目がいかなくなっているんです。僕はオペラの演出でヨーロッパ人の照明家と仕事をしますが、彼らは「闇」をよくわかっていて、間接照明がすごくうまい。直接目に当たってくる光ではなくて、物が立体的に浮き上がっていくようなあかりの作り方がうまいんです。

でも日本人こそ、そういう陰影を大切にする感覚を一番持っているはずなんですよ。だから、ここまでテクノロジーが進化してくると、そろそろみんな気づき始めているんじゃないかと思うんですね。あかりには本当にいろいろなあかりがあって、日本人が本来持っている美意識と繊細さでテクノロジーを使っていくと、日本人ならではのいろんな表現ができるんだということを。古典作品にも新しいあかりの技術が加わっていくとさらに魅力的に見えると僕は思っています。

自然が教えてくれる美しい光

日本は自然とともに生きてきた美しい島国で、人々はあらゆる自然とともにあるから、自然のひとつひとつに命がある、神が宿っているという感性が備わっているんだと思います。その感性を大切にしていれば、いろんなことを自然が教えてくれるし、人々は自然の中の美しいあかりのことも知っている。たとえば、僕はよくダイビングをするんですが、月あかりの中でダイビングしたときの水の中への光の入り方とか、秒単位で光が美しく変わって行く夕陽とか、蛍の引き寄せられるような淡い光とか。2015年に京都・上賀茂神社の式年遷宮で奉納劇『降臨』という野外劇をやらせていただいたのですが、そのとき一番美しいあかりが月だったんですね。満月のあかりが客席も出演者も照らしだし、神々しく不思議な雰囲気に包まれた瞬間は忘れられません。

あかりが人を幸せにする未来

さまざまな自然の美しさも、テクノロジーが進化したからこそ、あかりで再現することもできると思うんです。照明や映像に関わる人たちが、美しさって何だろうってお互いに感性豊かに刺激しあっていったら、無限大にいろいろな技術も開発されていくでしょう。もしかしたら、日本の医学と一緒に、そのあかりを見ると体が健康になるとか、寝る前にそのあかりを見るとほっと安らぐとか、もうそんなあかりさえできるんじゃないかと僕は思っています。「あかりって、こんなに人を幸せにするんだ、心を変えていけるんだ」。あかりという存在がそうなっていくことを、とても楽しみにしています。

Profile

宮本亜門(みやもと あもん)

1958年、東京・銀座生まれ。1987年、ミュージカル『アイ・ガット・マーマン』で演出家デビュー。2004年、ニューヨークのオン・ブロードウェイにて、東洋人初のブロードウェイ演出家としてミュージカル『太平洋序曲』を手掛け、トニー賞4部門でノミネートを果たす。ミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎など、ジャンルを超える演出家として、国内外で多彩な作品を発表し続けている。今後も2019年10月にオペラ『蝶々夫人』新制作ワールドプレミエ、11〜12月『イノサン musicale』、2020年1月にはフランス・ストラスブール歌劇場にてワーグナーのオペラ『パルシファル』など演出作品が多数控える。