創造人×話
野球場から始まる、「野球未来づくり」に挑戦しています。
斎藤 佑樹さん株式会社斎藤佑樹 代表取締役

今回は、元プロ野球選手であり、現在は自ら会社を立ち上げ、多方面で活躍されている斎藤佑樹さんをご紹介いたします。アスリートとしての経験と経営者としての新たな視点を併せ持つ斎藤さんの飾らない言葉から、次のステージへ挑む力強さと温かさを感じていただければと思います。
2006年夏の甲子園で、早稲田実業学校のエースとして全国制覇を果たし、「ハンカチ王子」の愛称で一躍脚光を浴びた斎藤さんは、小さな頃から野球少年でいらしたのでしょうか。
4歳上の兄が野球を始めていたこともあり、私は小学校1年生から地元の野球チームに入りました。父も社会人野球をやっていましたので、まさに野球一家という環境でした。4年生の頃からピッチャーを任され、それ以来ずっとピッチャーを続けていました。その頃、松坂大輔さんが甲子園で活躍する姿を見て憧れを抱き、自分も将来は甲子園に行きたいという目標ができたことを覚えています。
一方で、両親は文武両道を大切にしていて、「野球をやりたいのなら勉強もしなさい」と言われていたため、当初は地元の県立高校を受験しようと思っていました。しかし、早稲田実業学校の監督とご縁があり、進学を決意しました。
早稲田大学でも東京六大学野球リーグで優勝を達成されるなどのご活躍をされ、その後、北海道日本ハムファイターズでプロ野球選手として11年にわたり野球人生を歩んでこられた斎藤さんは、2021年に現役を引退されました。若い頃から常に注目を浴び続けていらした斎藤さんにとって、セカンドキャリアはどのような意味合いを持っているのでしょうか。
引退を決断した時は、肩や肘、腰に故障を抱えている状況でした。それでも11年間プロ野球選手としてプレーを続けることができたのは、本当に周りの方々に助けていただいたおかげだと感謝しています。思うようにプレーができない時期もありましたが、その経験も含めて、長い野球人生があったからこそ、さまざまなことを考え、自分と向き合う時間を持つことができました。
こうした経験を糧に、これからは野球界に恩返しをしたいという思いから、引退した年に会社を設立しました。これまで多くの人に支えられてきたからこそ、これからは誰かの傘の下に入って守られるのではなく、覚悟を決めて自分1人の力でセカンドキャリアの道を歩んでいこうという思いを込めて、会社名を「株式会社斎藤佑樹」としました。組織に属さない選択をすることで、いろいろな人と手を組み、つながっていくことができると思いましたし、アスリートのセカンドキャリアの選択肢が広がっていけばいいなとも考えました。もちろん、知名度があったからこそ今のキャリアがあることは承知していますが、更なる可能性を広げていきたいという思いで、さまざまなことにチャレンジしています。会社を設立してから5年が経ちましたが、おかげさまでたくさんの方々に助けられて今に至っています。
会社のビジョンとして「野球未来づくり」を掲げていらっしゃいますが、現在はどのような活動に取り組まれているのでしょうか。
会社を立ち上げて最初に考えたのは、まず具体的なアクションを起こし、一つひとつ形にしていくことでした。そこで取り組み始めたのが、野球場プロジェクトとアプリの開発です。野球解説や野球教室なども野球界への恩返しの一つの方法だと思いますが、私は少し違った形で野球界に貢献したいという思いから、この活動をスタートしました。
アプリの開発について教えてください。
私が参画しているスポーツテック企業「株式会社Knowhere」が開発した「SmartScout(スマートスカウト)」という野球アプリです。スマートフォン1台で打球や打撃を高精度に計測・分析できる、AIを活用した映像解析ツールです。高価な専用機材がなくても、撮影するだけでデータを数値化できる画期的なアプリで、メジャーリーグのチームにも導入されています。誰でも簡単に操作できるため、中学・高校・大学の野球部や社会人野球チーム、プロ野球などで幅広く活用いただけることも特長です。
野球場プロジェクトについてもお聞かせください。
私には、子どもたちのための野球場をつくりたいという夢がありました。その夢を叶えるためにスタートしたのが、北海道・長沼町の「はらっぱスタジアム」です。
アメリカには子ども専用サイズの野球場があり、フェンスオーバーのホームランを打つことができます。一方、日本では学校のグラウンドや河川敷で野球をすることが多く、フェンスがないためランニングホームランになってしまいます。ダイヤモンドをゆっくり一周してホームに戻ってくる喜びを、子どもたちにもぜひ体験してほしいという思いで、ゼロから野球場づくりを始めました。
ランニングホームランとフェンスオーバーのホームランでは打球の角度や感覚も異なるので、子どもの頃にその経験をすることは、将来の野球スタイルにもきっと影響を与えるはずです。私自身も、高校生になって初めてフェンスオーバーのホームランを打った時の嬉しさは、今でも鮮明に覚えています。
「はらっぱスタジアム」はすでに完成しているのでしょうか。
フィールド自体は完成し、2025年5月にプレオープンしましたが、花畑を作るなどの作業もあり、野球場づくりはまだまだ続いています。仲間や地元の皆さまに協力していただきながら、天然芝を植えたり、1500枚の木製フェンスを手作りしたり、芝桜を植えたりと、一つひとつのプロセスを楽しみながら、自分でも重機や電動ノコギリを使って作業を進めてきました。フェンスも緑にしたいと思い、アイビーやホップを植えていて、日本では珍しい蔦が絡まるフェンスになることを楽しみにしています。
気分は、大好きなケビン・コスナーの映画「フィールド・オブ・ドリームス」の世界そのものです。
今年(2026年)7月には、昨年に続いて子どもたちの野球の国際交流試合「はらっぱインターナショナルカップ」を開催し、ブラジル、オーストラリアに加え、今年はアメリカの子どもたちも参加してくれました。長沼町の隣町、栗山町には現役時代にお世話になった栗山監督が手がけた、手づくり野球場「栗の樹ファーム」があり、近くの北広島市には北海道日本ハムファイターズの本拠地・エスコンフィールドHOKKAIDOもあります。この一帯が野球をきっかけに人々が集い、交流が生まれる場所へと発展していくことを願っています。
斎藤さんは「斎藤 green」という会社も設立されていらっしゃると伺いました。どのような事業を展開されているのでしょうか。
野球場づくりに取り組む中で、緑のもつ魅力や、草木が生み出す豊かな可能性に改めて気づいたことが、会社設立のきっかけとなりました。ランドスケープを手がけるパートナーとともに、ランドスケープデザインやガーデンデザインをはじめ、スポーツ施設の企画・設計、オフィスのインテリアグリーンリース、緑を活用した建物の設計など、緑を軸としたさまざまな事業に取り組んでいます。
斎藤さんは、幅広いジャンルの企業とのコラボレーションも多く、多方面で常に新たな挑戦を続けていらっしゃいますね。
ありがたいことに、多くの企業の皆さまからお声がけをいただいています。異なる分野の方々と関わることで新たな学びや発見がありますし、とても充実した時間を過ごしています。今回の岩崎電気さんとのご縁についても、スポーツ施設における照明の重要性は現役時代から身をもって理解していますので、今後はスポーツライティングの分野で何か協力できたり、斎藤greenとしてランドスケープにおける照明でご協力いただいたりと、お互いのシナジーが生まれていく可能性を楽しみにしています。
斎藤さんは、幅広いジャンルの企業とのコラボレーションも多く、多方面で常に新たな挑戦を続けていらっしゃいますね。
多岐にわたるビジネス展開に加え、報道番組のキャスターや、夏の甲子園期間中の「熱闘甲子園」キャスター、海外取材、CM撮影など、多忙を極めていらっしゃる斎藤さんの、今後の展望や夢についてお聞かせください。
やりたいことは数多くありますが、その中でも一つ大きな夢として、「はらっぱスタジアム」をさらに成長させ、日本中、世界中から子どもたちが集まり、全国大会や世界大会を開催できるような場所にしていきたいと思っています。また、自分が携わる野球場を全国47都道府県につくることができたらという思いもあります。野球場という使い方だけでなく、人と人、人とまちをつなぐハブになるような場所づくりに関われたら嬉しいです。
これまで自治体の方々が担ってきた祭りやイベントが、高齢化によって無くなってしまう事例を身近で見てきて、とてももったいないと感じています。人を集めることの大変さを実感する中で、野球場を起点として、地域に新たなつながりや賑わいを生み出すことができたら素晴らしいと思っています。これまでの野球人生や、さまざまな人とのつながりから得た経験を大切にしながら、これからも新しいことへの挑戦を続け、自分なりの方法で野球界や社会に貢献していきたいと思っています。
斎藤 佑樹(さいとう ゆうき)
株式会社斎藤佑樹 代表取締役
1988年6月6日生まれ、群馬県太田市出身。早稲田実業学校高等部3年時の2006年夏の甲子園において、駒大苫小牧と延長15回の激闘を演じ、早実を悲願の全国制覇へ導く。
「ハンカチ王子」として社会現象となり、同年の流行語大賞にノミネート。早稲田大学進学後も東京六大学野球リーグで活躍し、4年時には主将として大学日本一を達成。
2010年ドラフトで4球団から1位指名を受け、北海道日本ハムファイターズに入団。2021年10月に現役引退後は「野球未来づくり」をビジョンに掲げ、株式会社斎藤佑樹を設立。次世代育成・社会貢献活動など幅広く活動中。