創造人×話

既存の価値観を超えて新しい造形を生み出すことに魅力を感じています。

松村 淳さん陶芸家

今回は、陶芸家の松村淳さんをご紹介いたします。松村さんは、磁土という素材のもつ魅力を大切にしながら、独自の造形表現を追求する陶芸家です。幾何学的な曲線をいかしたフォルムが非常に印象的で、静謐さと力強さを併せ持つ作品を数多く生み出しています。その独自の造形美と高い表現力は多くの人々を魅了し、各地での個展をはじめとした精力的な活動を通じて、現代陶芸の魅力を広く発信し続けていらっしゃいます。

近未来的な造形スタイルが非常に魅力的な陶芸家として活躍されていらっしゃる松村さんですが、やはり小さな頃からものづくりがお好きだったのでしょうか。

左から「OH-W」H180×W70×L105mm 磁器土 2025年、「Divergence 7.01」H105×W140×L250mm 磁器土 2025年

父が木工の家具職人をしていましたので、現在、私が使っている南埼玉郡宮代町にある工房も、もともとは父が木工所として使っていた場所でした。子どもの頃は、鉄道模型をつくったりする凝り性の父の影響もあり、プラモデルづくりに夢中になり、自然とものづくりに親しんでいました。小学生になると映画「ジュラシック・パーク」の世界観から恐竜に興味を持ち、将来は考古学者になりたいと思ったこともありました。一方で熱帯魚を飼っていたことから魚にも興味があり、生物について学びたいという思いが強くなり、大学は海洋生物学を学ぶためにアメリカに行きました。

子どもの頃から将来の道を考えて、それをしっかりと叶えていく決断力と行動力を備えていらしたことに感心してしまいます。アメリカの大学はどちらの州に行かれたのですか?

南部のアラバマ州です。ニューオーリンズから車で2時間ほどの場所にあるのですが周囲にはほとんど何もなく、広大なキャンパスの中で英語漬け、勉強漬けの日々を送っていました。在学中は、海洋生物学だけではなく、写真やドローイングなどアート系の授業でも単位が取れたので並行して学びながら、自分の方向性を模索することができたと感じています。

アメリカで海洋生物学を学ばれた松村さんが、陶芸の道に進まれたきっかけをお教えください。

「Phantasmic Qualia TB (Sa)²」H90×W160×L160mm 磁器土・顔料 2025年

アート系の授業を履修するうちに、ものづくりや日本の工芸への関心が改めて高まりました。大学を卒業して帰国後、カフェでバリスタを目指してバイトをしていた時に、陶芸の雑誌が目に留まり、前衛的な作品を制作する作家の存在を知りました。いろいろ調べてみると、その方たちの多くは多治見市陶磁器意匠研究所の出身であることがわかり、私もそこに行こうと決心しました。

陶芸の経験もなく、何も知らない状態でいきなり入所したのですが、まずはとにかく轆轤(ろくろ)で磁器を挽く技術の習得に集中し、その後すぐに白磁に取り組みました。磁土を原料とする白磁は陶土と比べて粒子が細かいこともあり、扱いが難しく上級者用と言われていますが、もともと難しいものに挑戦するのが好きな性格もあり、むしろその難しさにこそ、表現の可能性を感じていました。

かつてはゲーム会社への就職を考えたほどのゲーム好きでもあり、ハードモード(高難易度設定)を好む私の性分なのかもしれません。最初はシンプルな器などをつくっていましたが、次第に時間をかけて丁寧にものをつくりたいという気持ちが強くなり、焼成後にヤスリで削ってフォルムを追求したオブジェ作品などの制作を始めました。

多治見市で学ばれた後、金沢でも制作を続けられたのですね。

「Necrosis M.albus (Sa)²」H90×W150×L430mm 磁器土・顔料 2025年

多治見での2年間を終えた後、伝統工芸の継承発展と文化振興を図るための工芸の研修施設である金沢卯辰山工芸工房の試験を受けたところ、運よく合格したので金沢に行き、そこで3年間を過ごすことになりました。これまでの学ぶというプロセスから、さらにその先の独立を目指す作家たちが集まる環境で、手厚いサポートを受けながら、自分のスタイルを確立するための貴重な時間を過ごすことができたと考えています。

既存の陶芸という枠を超えたシャープで美しい流線が特徴的な松村さんの作品は、その近未来的な造形で多くの人々を魅了していますが、制作工程も大変なのではないでしょうか。

焼成前の磁器

磁土を轆轤や鋳込み、手捻りで形成して乾燥後に削り、素焼き後に丁寧にヤスリをかけたうえで本焼きをするという工程はとても時間がかかり、腱鞘炎になったこともあるくらいです。ただ、工程自体は大変ではあるのですが、私はこれまで経験してきたことや好きなことなど、ある意味で自分の内面や潜在意識を表現することに繋がる作業であるとも捉えていますので、ゾーンに入るような感じで制作中は没頭しています。

窯から取り出して作品を眺めたときに、自分がつくったものから、もう一段階変化し、想像を超えた存在感を感じることがあり、非常に嬉しい瞬間でもあります。

また、腱鞘炎になったことをきっかけに、3Dプリンターのモデリングソフトを使って、精密な樹脂原型を作成することを始め、現在はパーツごとに成形して組合せる手法も取り入れています。3Dモデリングは思っていたよりも職人的な技術が必要で、決して楽ではないのですが、さまざまな可能性を探ることに面白さを感じています。

作品にはどんな思いを込められていらっしゃるのかをお教えください。

「Shifting Qualia⁴ 1.26D」ø110×H400mm 磁器土 2025年

磁土という扱いの難しい素材を用いて、ギリギリのところまでヤスリをかけて成形し、焼いていきますので時にはヒビが入ったり割れたりすることもあります。時間をかけてつくってきた作品ですので、その時は落胆しますが、原因は何かを探り対策を検討することも重要なプロセスであると考えています。硬質な白磁でありながら、有機的なやわらかさを表現することにやりがいを感じ、試行錯誤を繰り返しながら、多様な作品づくりを続けてきました。私は茶碗や水差しなどの茶道具もつくっているのですが、茶道の道具には制約が多く、それらのルールを全てクリアすることが求められます。

強度や構造を考慮しつつ、より機能的でありながら自分らしさを表現できるかたちを追求するのも、ハードモード好きの私には合っているようです。パーツを組合せる手法では、たとえば5つのパーツを組合せた急須があります。鋳込みでパーツを形づくり、それらを合体させることで、従来の急須という形状から解き放たれた、新たな造形をつくり出しました。一見するとオブジェのように見えますが、茶漉しを一体化し、外側を二重構造にして手に持った際に熱が伝わりにくいようにするなど、実用的にも理にかなった作品となるよう工夫を施しています。

松村さんの作品と光との関係性についてお聞かせいただけますか。

私の作品にとって、光は重要な要素のひとつであると捉えています。曲線の連なりや面の抑揚に光が当たることで生まれる影とのコントラストによって、白磁特有の白さが際立つように心がけています。黒い作品の場合は、白磁のように明暗の差が出にくいため、釉薬を部分的に掛け質感に変化をつけるなど、光を受けた際に微妙な陰影や奥行が感じられるよう工夫しています。

また、個展などで作品を展示する際も、光の種類によって大きく変わるため、ライティングにはこだわりをもっています。近年はLEDが主流となっていますが、その特性を踏まえつつ、作品の魅力を最大限に引き出せる光環境を意識しています。場合によっては自ら照明を用意することもあり、作品と光が一体となって完成するという感覚を大切にしています。

「(憑↔依) Simulation: Vessel with flame」H360×W340×L340mm 磁器土 2025年

最後に今後の展望をお聞かせください。

工房にて

やりたいことがたくさんあって、時間が足りないという状況にありますが、その時々で興味のあるテーマに挑戦し続けたいと考えています。これまで取り組んできた磁土の表現をさらに深めていく一方で、新しい技法や素材、デジタル技術も取り入れながら、造形の可能性を広げていきたいと思っています。

最近はサイズの大きな作品などの制作にも関心があり、従来の枠にとらわれない新しいかたちを模索しています。これからも試行錯誤を重ねながら、自分らしい表現を磨き続け、今の時代にふさわしい陶芸のあり方を探求していきたいです。

松村 淳(まつむら じゅん)

1986年
千葉県生まれ。現在、埼玉県にて制作。
2010年
University of South Alabama 卒業
2015年
多治見市陶磁器意匠研究所 修了
2018年
金沢卯辰山工芸工房 修了

〈アートフェア〉

2024年
ART FAIR ASIA FUKUOKA(福岡)
TEFAF Maastricht(MECC MAASTRICHT・オランダ)

〈受賞〉

2021年
「パラミタ美術館 パラミタ陶芸大賞展」(三重)
「第12回 国際陶磁器展美濃 国際陶磁器コンペティション」銅賞(岐阜)
2024年
「2024台湾国際陶磁ビエンナーレ 国際コンペティション」入選(台湾)

〈収蔵〉

茨城県陶芸美術館
上海外灘美術館(中国)

作品写真提供:松村淳様