創造人×話
伝統と構造、その接点から生まれる表現に面白さを感じています。
藤田 朋一さん彫刻家

今回は彫刻家の藤田朋一さんをご紹介いたします。藤田さんは、日本の神社仏閣といった伝統建築に着想を得て、木組みなどの工芸技術を応用した独自の表現を追求するアーティストです。木材やアクリルを素材に、透過性や影の織りなす繊細な構造をもつ立体作品を多数制作。伝統工芸の精緻さと現代的な表現感覚を融合させ、空間に豊かな光の変化や奥行きをもたらす作品の数々は見る人を魅了し、その技術的熟練と斬新な美意識が高い評価を得ています。
はじめに、藤田さんが彫刻家として活動をされるまでの歩みについてお聞かせください。
子どもの頃から絵を描くというよりも、手を使って立体的なものをつくることに興味があり、粘土細工やプラモデルづくりが好きだったことを覚えています。中学の修学旅行で飛騨高山に行った際に伝統的な街の風景に感動し、その後、木工に興味を持ったこともあり、飛騨国際工芸学園に進学しました。
卒業後は高山市にある老舗の家具メーカーに就職し、洋家具の制作に携わりつつ、作業場を持って自分でも家具づくりを始めたのですが、デザインと現代アートとの関係性などについて考えるうちに、機能を持つ家具という制限の枠から解き放たれた一歩進んだ表現をしてみたくなりました。そこで木工科で学んだ木工芸の技術のひとつである、木組み(釘を使わずに木材を組み合わせて構造をつくる)という技法を使ったアート作品をつくるようになったことが、創作活動の原点となりました。
神社仏閣といった日本の伝統的な建築物をモチーフに、木材やアクリルを用いて現代アートに昇華される藤田さんの作品は、とても独創的であり、繊細かつダイナミックな作風に魅了されます。神社仏閣を作品のモチーフにされていらっしゃるのには何か理由がおありなのでしょうか。
私はもともと建築が好きで、日本各地の神社仏閣や伝統的な日本建築を見て廻るうちに、歴史の中で神社仏閣がどのような変化や進化を遂げてきたのだろうか、ということに興味を持ち、今まで日本が享受してきたさまざまな文化が映し出されている建築様式の面白さに惹かれていきました。
そして、古来より各地域の土着の神、八百万の神々の神社と寺院仏像が混在する風景があった日本ならではの宗教観に面白さを感じ、伝統的な建築物の造形美と現代の素材や工芸技術を融合させ、再構築した作品づくりを始めました。
2002年からは千葉にアトリエを構え、制作を続けています。
木材だけなく、アクリル素材を用いて作品を制作されていらっしゃいますね。その魅力についてお教えください。
建築物において屋根、特に破風と呼ばれる屋根の妻側の端部分は装飾的な意味合いも強く、造形表現で重要な意味合いを持ちます。木組みの作品をつくる時、屋根部分の加工にはレーザーカッターを用いているのですが、その際にふと、アクリルでつくってみたら面白いのでは?と思ったことがきっかけでした。
アクリルは透明感もあり、またカラフルにもできるので、日本建築にはないポップな色使いで新たな世界が見えてくるのではないかと考えたのです。
CADで設計した図面をもとに、手作業で作品を制作していくのですが、色の組み合わせによって見え方が変わるのも面白く、創作の可能性が広がりました。デジタルツールと伝統工芸を融合して作品をつくるのは、時に大変ではありますが、とても楽しくやりがいを感じています。
羽田空港第3ターミナルに2024年、オープンしたレストラン「Diversity Diner HND」には、藤田さんの作品が常設展示されているだけではなく、ファサードなど店頭や店内の装飾デザインも手がけられたと伺いました。国内外から多くの方々が訪れる場所で、いつでも作品を拝見できるのは素敵ですね。
和食をモチーフにした日本食のヴィーガンレストランですので、和を意識した内装となり、入口のファサードや店舗の天井のシャンデリアは木組みでつくりました。店舗デザインというのは、自分の作品づくりとは異なり、その場の条件に合わせて制作するという新しい経験でもあったので、そういう点でも新鮮で楽しかったです。店舗内には、東京タワーと仏塔の融合、江戸城の城郭、平等院鳳凰堂をモチーフにしたアクリルの作品なども展示していますので、羽田空港にいらした際にはご覧いただけると嬉しいです。
個展の開催やグループ展にも数多く出展されている藤田さんは、2025年の初夏に、東京・根津にあるギャラリー・マルヒで、「壁に建つ社寺」という個展を開催されました。どのような作品を展示されたのでしょうか?
ここでの展示テーマは、“懸造り(かけづくり)”の神社仏閣でした。
懸造りとは、日本の伝統建築様式のひとつで、崖などの急な斜面に建物を張り出すようにして建てられる構造です。ギャラリー・マルヒさんは、大正時代の趣を残した建物で室内に蔵を備えていることを特徴としていますので、その壁を崖と見立て、懸造りという様式に独自の虚構を交えながら、小さくさまざまな神社仏閣を空間に建てるような展示を行いました。
ほかにも手のひらサイズのアクリル神社や和にSF的な要素を加えたアクリルの五重塔なども展示し、来場いただいた方々に間近で色々な作品をご覧いただけるよい機会となりました。
作品を展示される際には、照明の当て方などライティングも重視されますか?
当初は照明についての知識もあまりなく、展示会の主催者側にお任せしていたこともあるのですが、経験を重ねる中でその重要性を実感しました。面の光で作品を照らすと作品がどうしてもフラットに見えてしまうため、斜めからピンスポットでアクリルのエッジを照らし出して、その発色や構造を際立たせるなど、最適のライティングを追求しています。光の当て方ひとつで作品の印象は大きく変わりますから、見る人に最も魅力的に映るよう、展示空間そのものを作品の一部と捉えて取り組んでいます。
今後のご予定と抱負についてお教えください。
今年は9月24日~10月13日まで東京の日本橋高島屋 美術画廊X、10月29日~11月10日まで大阪高島屋 ギャラリーNEXTにて巡回展を予定しています。
現在は、かつてF1で使用されていたHONDAのV型10気筒エンジンとその造形からの着想で、山口県下関市にある住吉神社に代表されるような流造り(ながれづくり)という屋根形式に千鳥破風と社殿が5つ連なった珍しい形式の本殿をモチーフにして、それらを融合させた新作など、個展に向けた作品づくりを行っているところです。
伝統的な建築と歴史的事象を織り交ぜ、現代の素材や工芸技術を用いて新たな表現を再構築していくという私の創作スタイルには、まだまだ多くの可能性が秘められていると感じていますので、今後も表現の幅を広げるべく、挑戦を続けていきたいと考えています。
より大きなスケールの作品にも取り組みたいですし、既存のものに新たな視点を重ねることで、自分なりのアプローチをさらに深めていけたらと思っています。
藤田 朋一(ふじた ともいち)
- 1976年
- 千葉県生まれ
- 1997年
- 飛騨国際工芸学園木工科卒業
〈主な個展〉
- 2016年
- 「木から生まれる物語-現代作家 藤田朋一と県美収蔵作家のコラボ展示」(千葉県立美術館)
- 2017年
- 「様々な威厳」(千葉銀行ひまわりギャラリー(企画展))
- 2020年
- 「扶桑國 -ふそうこく-」(日本橋高島屋 美術画廊X)
- 2021年
- 「扶桑と混淆」(Gallery MUMON)
- 2023年
- 「NEO TOKYO」(日本橋高島屋 美術画廊X)(大阪高島屋 ギャラリーNEXT)
- 2025年
- 「壁に建つ社寺」(ギャラリー・マルヒ(企画展))
最新個展情報
2025年9月24日~10月13日「JAPANESQUE」(日本橋高島屋 美術画廊X)
2025年10月29日~11月10日「JAPANESQUE」(大阪高島屋 ギャラリーNEXT)
〈主なグループ展〉
- 2015年
- 「TENGAI2.0」天明屋尚企画(六本木ヒルズA/Dギャラリー)
- 2024年
- KOUGEI Art Fair KANAZAWA 2024 (Hyatt Centric Kanazawa)
〈受賞歴〉
- 2021年
- 第24回岡本太郎現代芸術賞展 入選
〈パブリック・コレクション〉
羽田空港第3ターミナル内レストラン「Diversity Diner HND」(2025年9月までの営業)のファサードデザイン及び作品納品