創造人×話

“現象”を建築の大切な要素と捉えている私にとって光のありかたは重要なテーマのひとつです。

永山 祐子さん建築家

今回は、建築家の永山祐子さんをご紹介します。
「ルイ・ヴィトン京都大丸店」、横尾忠則さんの美術館「豊島横尾館」などを手掛け、気鋭の建築家として注目されている永山さんは、JCD(日本商環境設計家協会)デザイン賞 2005奨励賞、イギリスのAR Awards Highly Commended賞2006、Architectural Record Design Vanguard Architects 2012、JIA(日本建築家協会)2014新人賞など数多くの受賞歴を持ち、建物はもちろん店舗のインテリアを手掛けるなど、国内外で幅広く活躍されていらっしゃいます。

永山さんは大学を卒業後、青木淳建築設計事務所に就職され4年後に独立されたと伺いました。
若くして独立されたわけですが不安はありませんでしたか。

青木さんの事務所で過ごした日々は、とても忙しく仕事漬けの毎日でしたが、おかげさまでたくさんのことを学ばせていただき、その4年間があったから独立出来たのだと思います。
当時は入所して4年位で独立する制度のようなものがあったこともあり、とにかくその間は一生懸命にやろうと決めていました。

独立後はちょっとゆっくりしたい気持ちもあったので特に不安にはならずにいて、幸い、1ヶ月後には表参道の大型美容室「afloat-f」のインテリアの仕事を青木さんに紹介していただき、すぐに事務所を構えました。

最初の頃はもちろん仕事が来ない時期もありましたが、独立して1~2年後にルイ・ヴィトン京都大丸店のファサードデザインコンペに参加させていただく機会に恵まれ、プレゼンテーションまでの約1ヶ月はスタッフと昼夜を徹して準備を進めました。

五穀屋/撮影:表恒匡

そのコンペで見事に選ばれ、ルイ・ヴィトン京都大丸店のファサードデザインを手掛けられて、永山さんは一躍注目を集められました。
ファサードに偏光板を使うという、前例のない試みを実現されたとのことでご苦労も多かったのではないでしょうか。

ルイ・ヴィトンが古いトランクに使用していた“レイエ”というストライプパターンと、京都の伝統的なモチーフである“縦格子”をイメージした縦ストライプをファサードのパターンとして取り入れ、偏光板という光学フィルムによって表現しました。
一方向の波長の光しか通さない偏光板の特性を利用して、実際には存在しない黒い縦格子が見る角度によって表情を変える事象を構築したのですが、施工に至るまでは難題の続出でした。

偏光板はディスプレイのフィルムなどに使われていますが、建築素材として使用されたことはなく、デリケートな素材でもあるため、数々の実験と厳しい耐久テストを繰り返し、施工会社や偏光板のフィルムメーカーの方々に協力していただき、実現することが出来ました。
もともとのアイデアは実家で見つけた、ある教材です。
父が物理学の研究者なので、子供の理科離れを防ぐための教材が置いてあったのですが、その教材に偏光板が使われていて、空間を可視化できる偏光板という素材の面白さに気づいたことがきっかけになりました。
この偏光板を重ねる光の手法については、その後特許を取得しました。

豊島横尾館 エントランス/撮影:表恒匡

偏光板で光と影を表現されたルイ・ヴィトン京都大丸店をはじめ、住宅、店舗、また2013年、香川県土庄町に開館した横尾忠則さんの美術館「豊島横尾館」など、永山さんが手掛けられた建築空間は光をとても大切にしていらっしゃる印象を受けます。
光についてのお考えを少しお聞かせ願います。

建築の中で光は非常に重要なテーマのひとつです。
私は明るさを得る為の光を超えて光が生み出す様々な現象が好きです。
照明、光源だけではなく、仕上げの色や素材など、全ての要素が揃ってつくり出されるものが光環境だと思います。

ガラスに反射する光、フィルターを通した光など様々な光の状態があり、豊島横尾館では光や色をコントロールする色ガラスを用いました。
たとえば、庭園にある横尾忠則さんのインスタレーション作品の赤い石をより効果的に体験していただくために、色彩情報を消す赤いガラススクリーンを使って入口から赤い石が見えないようにしました。

私は“現象”を建築の中での大切な要素として捉えていて、物質(モノ)より事象(コト)に重きを置いています。
横尾さんのエネルギー溢れる「生と死」をテーマにした、この美術館のプロジェクトでは、体験型の美術館を目指し、体験の束が建築だという考え方を随所に生かすことが出来、とても印象深い仕事でした。

豊島横尾館 展示室/撮影:表恒匡

仕事のやりがいはどんな時に感じますか。今後の展望と併せてお教えください。

自分が手掛けた建築やインテリア空間が完成した時はもちろんですが、その過程で起きる数々の課題に取り組む中で、突破口を見つけた時はとても嬉しいです。
建築はチームワークで進めていく仕事なので、様々な分野のプロフェッショナルな方々と力を合わせて難題にチャレンジし、新しいものを作り上げていくプロセスは楽しく、やりがいを感じています。
現在は住宅や店舗、また約5000m²の敷地に建設中の某企業のホールなどのプロジェクトが進行中で、今後もジャンルにこだわらず、建築とインテリアの仕事をバランス良く両方続けていきたいと考えています。

永山 祐子(ながやま ゆうこ)

建築家。永山祐子建築設計主宰。
1998年、昭和女子大学生活科学部生活環境学科卒業。
青木淳建築計画事務所勤務を経て、2002年に永山祐子建築設計を設立。
主な仕事は「ルイ・ヴィトン京都大丸店」、「丘のある家」、「カヤバ珈琲」、「木屋旅館」、「豊島横尾館」など。
2012年:Architectural Record Design Vanguard Architects 2012(USA)、2014年:日本建築家協会 JIA新人賞受賞など。