ライティング講座(照明講座)
照明計画資料
歩行者空間の照明 - 歩行者空間の照明とは
(1)歩行者空間の照明の目的
歩行者空間の照明は、「安全」、「見え方」、「効率」、「経済性」という機能的なものだけではなく、快適な視環境を利用者に提供するものでなくてはなりません。快適な視環境を創るためには、次に示す要件を満たすことが求められます。
(2)歩行者空間の照明の要件
2.1 環境に溶け込む色彩、形状、光色であること
街には、さまざまな形状、材質、色彩があふれています。このような環境に設置される照明器具は、自己主張の少ない普遍的なデザインであると同時に、違和感の少ない色彩である必要があります。
また、主張しすぎない光源色であることも重要です。
2.2 親しみの持てる大きさ(ヒューマンスケール)であること
道路、街灯、ストリートファニチャーなどは、それがヒューマンスケールと合っているときに親しみが持てるものです。道路幅に対して必要以上に背の高い街灯などは、親しみを持てません。図3.1は、環境に調和した例と、街灯が高すぎる例を示したものです。ヒューマンスケールを考慮した道路幅員と灯高との関係を図3.2に示します。

図3.1 環境との調和
図3.2 ヒューマンスケールを考慮した道幅と街灯の高さ
2.3 適切な明るさであること
歩行者を中心としたコミュニティの場としての道路では、接近してくる人の表情を離れた位置からでも確認できる明るさが必要です。歩行者の表情を確認できるようにするためには、水平面照度だけではなく空間照度(半円筒面照度や鉛直面照度)も大切な要素になります。これらの照度は、周辺の明るさや交通量を考慮して決める必要があります。具体的には、JIS Z 9126(屋外照明基準)や、照明学会・技術規格JIES-010(歩行者の安全・安心のための屋外照明基準)などで推奨照度を定めています。
2.4 不快グレアを生じさせないこと
図3.3 照明器具の輝度とグレアの関係
街灯が規則正しく並んでいると、照明器具の輝きにより道路線形を認識しやすくなり、人を誘導する効果が期待できます。また同時に、安心感や賑わいを与えてくれます。しかし、その輝きが強すぎると、グレアとなり人を不快にしたり、周囲が見えにくくなったり、時として景観照明などの演出効果を低下させます。そのため照明器具のグレアを規制する必要があります。
図3.3は、視線から5°上方向に照明器具がある場合の、発光部分の輝度とその見かけの大きさとの関係を示したものです。
JISによると、屋外歩行者空間の不快グレアはGRで規定されています。ただし、「屋外歩行者空間におけるLED照明の不快グレアに関する指針(照明学会:JIEG-011)」には、屋外に設置されたLED照明器具の中には極端に高輝度なLEDモジュールがグローブ越しに見えるものがあり、これらは従来方式によるグレア評価は適用できない可能性があるとしています。LED照明器具のグレア評価を行う場合は注意する必要があります。表3.1にJISに定められた歩行者空間の照明要件を示します。
場所の分類 | \(\bar{E}_{m}\)(ℓx) | \(U_{0}\) | GRL | Raa) | 注/注記 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
使用状況 | 目指す明るさの程度 | \(\bar{E}_{mh}\)(ℓx) | \(\bar{E}_{mv}\)(ℓx) | ||||
夜間の使用大 | 明るい | 20 | 4 | 0.20 | 50 | 40 | |
中程度 | 15 | 3 | 0.20 | 50 | 40 | ||
暗い | 10 | 2 | 0.20 | 50 | 40 | ||
夜間の使用中 | 明るい | 15 | 3 | 0.20 | 50 | 40 | |
中程度 | 10 | 2 | 0.20 | 50 | 40 | ||
暗い | 7.5 | 1.5 | 0.20 | 50 | 40 | ||
夜間の使用小 | 明るい | 10 | 2 | 0.20 | 55 | 40 | |
中程度 | 7.5 | 1.5 | 0.20 | 55 | 40 | ||
暗い | 5 | 1 | 0.20 | 55 | 40 | ||
階段 急なスロープ |
明るい | 20 | 4 | 0.20 | 50 | 40 | |
中程度 | 15 | 3 | 0.20 | 50 | 40 | ||
暗い | 10 | 2 | 0.20 | 50 | 40 |
注a)JIS Z 9112による普通形LEDにおけるRa最小値は60以上と規定されているため、その使用により、一般材料の安全色の認識とともに演色性の向上も同時に実現できる。
(参考文献 JIS Z 9126:屋外照明基準(2021))
2.5 用途に合った照明器具を使用すること
照明器具に求められる要件は、用途によって異なります。このため照明器具の選定に際しては、次の3点に考慮することが大切です。
- 見せる
- 昼景:地域の個性を考慮したデザインと素材を用いる。
- 夜景:照明器具の輝度を適度にする。
- 見える
- 昼景:空間に溶け込むように形と色をシンプルにする。
- 夜景:照明器具がまぶしくないよう輝度を規制する。
- 隠す
- 昼景:小形照明器具を選定し、目立たない配色にする。
- 夜景:照明対象のみが浮かび上がるようにし、照明器具の輝きを見せない。
(3)照明手法
代表的な照明方式を表3.2に示します。
照明手法の特徴 | 例 |
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ポール照明
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ブラケット照明
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投光(演出)照明
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景観材組込み照明
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(4)照明器具
歩行者空間に使用される照明器具を表3.3に示します。
光環境類型 | 地域対象イメージ | 配慮すべき影響 | 目標設定例 | 上方光束比の最大許容値 | 照明器具の例 | |
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E1 | 自然公園や里地等で、屋外照明設備等の設置密度が低く、本質的に暗く保つべき地域 |
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0.0%![]() |
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E2 | 村落部や郊外の住宅地等で、道路照明灯や防犯灯等が主として配置されている程度であり、周辺の明るさが低い地域 |
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2.5%![]() |
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E3 | 都市部住宅地等で、道路照明灯・街路灯や屋外広告物等がある程度設置されており、周辺の明るさが中程度の地域 |
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5.0%![]() |
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E4 | 大都市中心部、繁華街等で、屋外照明や屋外広告物の設置密度が高く、周囲の明るさが高い地域 |
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15%![]() |
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- 備考
- 上方光束比は、照明器具から出る光束のうち水平より上方へ向かう光束の比のことです。
(参考文献 環境省:光害対策ガイドライン(令和3年3月改訂版))
(2025年4月25日入稿)
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