ライティング講座(照明講座)

照明計画資料

スポーツ照明 - 照明要件

スポーツ施設の照明は、机上の視作業のための平面的な照明とは異なり、競技空間全体を照らす必要があります。競技者が動きながらも視対象物をしっかりと視認し、瞬時に正確な判断を下せるように設計することが要求されます。照明設計においては、競技種目に応じた視対象物の大きさや動き、競技範囲などを十分に理解し、競技面、競技空間、背景に適切な明るさを確保することが求められます。また、競技者の視線方向を考慮し、競技に集中しやすい視環境を整えることも重要です。

(1)照度

通常、照度などの照明要件は「JIS Z 9127 スポーツ照明基準」を基に設定します。しかし、スポーツ競技によっては、競技団体が照度基準を定めている場合があります。

表6.1 競技団体の照度基準
競技種目 競技団体名 競技団体による照度基準
屋外テニス 日本テニス協会 国体:競技面から1mの高さで500ℓx以上
陸上競技 日本陸上競技連盟 競技面から1.22mの高さで平均照度1000ℓx以上
フィニッシュラインは1500ℓx以上
サッカー 日本サッカー協会 Jリーグ:フィールドから1mの高さで最小1500ℓx以上
体操 日本体操協会 国体:1000ℓx以上
卓球 日本卓球協会 国際大会:台上1000ℓx以上、プレー領域500ℓx以上
バドミントン 日本バドミントン協会 国体:ネットの中央上縁で1200ℓx以上
バスケットボール 日本バスケットボール協会 Bリーグ:コートエリアを均一に照らし平均照度1400ℓx以上
国体:コート面から1mの高さで700ℓx以上
バレーボール 日本バレーボール協会 Vリーグ:平均照度1500ℓx以上
ハンドボール 日本ハンドボール協会 コートフロア表面:800ℓx以上
アマチュアボクシング 日本アマチュアボクシング協会 国体:リング上で1200ℓx~1500ℓx(仮設照明可)
水泳プール 日本水泳連盟 公式競技プール:水面上1mの照度は600ℓx以上
国際基準水泳プール:全水面上1mの照度は2500ℓx以上
  1. 指定がないものは水平面照度を示しています。
  2. 「500ℓx以上」といった最小・平均などの指定がない場合は「平均照度500ℓx以上」であることを示しています。
  3. 高さの指定がないものは競技面の照度を示しています。

(2)グレア(まぶしさ)

グレアは、視対象物の見え方や競技への集中力を低下させる原因となるため、軽減することが重要です。しかし、競技者は、さまざまな位置から、あらゆる方向を見る可能性があるため、完全にグレアをなくすことは困難です。グレアは、直接グレア(減能グレアや不快グレア)と反射グレアに分類できます。最近は、直接グレアに加え、照明器具を直視した際に生じる直射グレアについても問題になることがあります。

2.1 減能グレア

減能グレアとは、競技者の視野内に輝度の高い光源(器具)が入り視対象物が見えなくなるなど、競技者のスポーツ能力に悪影響を及ぼす”まぶしさ”のことです。

2.2 不快グレア

不快グレアとは、競技者に不快感を与え、競技への集中力を低下させる”まぶしさ”のことです。不快グレアは、下記のように計算することで予測することができます。GR値と不快グレアの関係を表6.2に示します。

GR=27+24log(LvlLve0.9)

Lvl=Lv1+Lv2++Lvn

Lvn=10×Eeyeθ2

Lve=0.035×Ehav×ρπ

ここに

Lvl
個々の照明器具によって生じる等価光幕輝度の合計 cd/m²
Lvn
個々の照明器具の光幕輝度 cd/m²
Eeye
観測者の視線に対して垂直な面の照度(水平下方2°) ℓx
θ
観測者の視線と個々の照明器具とのなす角度 °
Lve
環境の等価光幕輝度 cd/m²
ρ
領域(地面など)の平均反射率
Ehav
全運動競技面の平均照度 ℓx
表6.2 GRと不快グレアの程度
GR 不快グレアの判定
90 耐えられない
70 邪魔になる
50 許容できる限界
30 あまり気にならない
10 気にならない

(参考文献 JIS Z 9127:スポーツ照明基準(2020))

注記:領域の平均反射率は、一般に、土が10%、芝生が15%、雪面及び氷面が50%が用いられている。

2.3 反射グレア

テレビジョン撮影が行われる施設では、競技面を撮影した際に競技面に反射グレアが生じないよう、照明設備の設置位置を考える必要があります。

2.4 直射グレア

競技者が高輝度の照明器具を直視すると、発光面の残像や強い光芒が視野内に発生し競技に支障を及ぼします。直射グレアを緩和するためには、競技者の位置から見たときの照明の発光面輝度を低く抑えること、また高輝度の発光部が連続した「塊」にならないように照明設備を調整する必要があります。

2.5 グレア軽減策

グレアの軽減策としては下記の方法が考えられます。

  • 照明器具の背景を明るくする
  • 照明器具の発光部輝度が低い灯具を選択する
  • 競技中に比較的よく見る方向やその範囲に照明器具を設置しない
  • 照明器具にルーバを取付ける(ただし、空間の明るさが不足しやすいので注意が必要)
  • 照明器具の照射する方向をできるだけ遠方にしない
  • 照明器具の設置位置を高くする
  • 架台に投光器を多数設置する場合、競技者などが架台方向を見た際に発光部の塊が小さくなるよう、隣接する投光器が異なる方向に向くよう配置する

グレアが生じる原因は、照明器具からの直接光ばかりでなく、光沢面での反射や昼間時の窓面なども考えられます。これらの取扱いにも十分に配慮することが必要です。

(3)ちらつき

ストロボ現象などのちらつきは、ボールなど高速に動く視対象が断続的に動いているように見える現象であり、競技に支障を与えたり、写真やテレビジョンの画質を低下させることがあります。そのため、ちらつきが生じないように設計します。

3.1 ちらつきの防止策

照明器具3灯を三相交流の各相で位相をずらして点灯させます。
(HIDランプを用いる場合によく用いられる方法。この方法を用いる場合、各相の照明器具から照射される光が空間で十分に交差していることがポイント。)

また、撮影された動画にちらつきが生じないよう考慮して、LED照明器具と出力の変動を抑えたLED専用電源装置を組合せて使用することでフリッカやストロボ現象を抑えることができます。

(4)光色

CIE昼光の軌跡と黒体放射の軌跡と各光色の色度範囲

図6.1 xy色度図上における光源色の色度範囲

光色は、運動競技者の心理状態に影響を及ぼすため、特別な理由のない場合には温白色、白色、昼白色、昼光色又は色度がこれらの間にある光色を用います。また、テレビジョン撮影及び写真撮影にも影響するので、昼光及び人工光を併用する場合には、昼光と調和する白色、昼白色、昼光色又は色度がこれらの光色の間にある人工光を用います。なお、光源又は照明器具の光色は、JIS Z 9112を参考にするとよいです。

(参考文献 JIS Z 9112:蛍光ランプ・LEDの光源色及び演色性による区分(2019))

(5)平均演色評価数

演色性は、物の色がその照明に照らされたとき、どれだけ忠実にその物本来の色を再現できるかを表したものです。照明器具(光源)の平均演色評価数Raを用いて評価します。詳細は第1章を参照してください。

(2025年4月25日入稿)

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