技術資料

中圧ランプに対応した化学線量計

技術研究所 光応用研究室
お茶の水女子大学 大学院 人間文化創成科学研究科 大瀧 雅寛

Chemical actinometer for corresponding to medium pressure UV lamp, by Yuko HIROTO (Iwasaki Electric Co., Ltd.) and Masahiro OTAKI(Dep. of Human Env. Sci., Ochanomizu University)

キーワード

紫外線照射装置,性能評価,中圧ランプ,化学線量計,核酸,ウリジン

1.はじめに

耐塩素性原虫対策として紫外線照射が有効であるとされ,平成19年厚生労働省によって水道におけるクリプトスポリジウム対策指針が施行された。また平成20年1月にはJWRCにより,低圧紫外線ランプを利用した紫外線照射装置の性能評価のための技術審査基準が策定された。

低圧ランプは消毒効果の高い254nmを効率よく出力するが,ランプ出力の大きいものが作りにくい。低圧ランプが単波長出力型であるのに対して,中圧ランプは多波長を出力するため,消毒効果のある200~300nmの波長が出力可能であり,ランプ出力の大きなものが作成可能である。

中圧ランプは多波長を出力するため,消毒効果の評価には留意しなければならない点がある。UVメーターは,受光部の波長依存性によって測定結果が異なる。化学線量計は,波長ごとに量子収率が異なり補正を必要とする。また生物線量計では,生物影響を直接測定するものの,生物種によって波長感受性が異なる。これらの測定結果をクリプトスポリジウムの不活化効果として評価するためには補正が必要と考えられるが,その方法は確定していない。

本稿では,中圧ランプの消毒効果を持つ紫外線照射量を測定できる,化学線量計について検討した。

2.化学線量計

図1 核酸物質の吸収スペクトル;0.1g・L-1

化学線量計は吸収された光エネルギーを吸収係数(物質固有の波長ごとの吸収率)と,量子収率(濃度によって反応率が異なる)を基に,算定することによって紫外線照射量を求める。化学線量計の利点は,生物的手法と比較して迅速に測定が可能なことにある。化学線量計の物質として核酸を用いた場合,可視光域に吸収を持たず,かつ不活化効果のある波長域に吸収を持つため,微生物の不活化効果線量の測定ができると考えられる。また吸光度測定で反応量を知ることができる。

扱いの簡便さから,可視光域に吸収を持たない物質としてヨウ化カリウムを用いた手法と,核酸物質であるウリジンを用いた手法を比較した。ウラシルとウリジンの吸光スペクトルを図1に示す。

2.1 ヨウ化カリウム線量計

図2 I/I₃⁻による線量測定

ヨウ素イオンの光化学反応により生成する三ヨウ化イオンの生成量から,吸収エネルギー量を測定する手法である。実験手順はRahn(2003)1)に従い,8Wの低圧ランプを2本用い,照射時間は自動シャッターにて制御した。線量計溶液の波長352nmにおける吸光度を測定し,得られた照射時間と吸光度の関係を図2に示した。紫外線照射量の算出式は(1)式を用いた。(2)式より,図2に傾きとして,試料表面における紫外線線量率I0が示された。

表1 数式に用いた文字
量子収率 φ 紫外線照射量 Dose
物質の変化量 M 被照射面積 Area
吸収されたエネルギー E 波長 λ
吸光度 Abs プランク定数 h
線量溶液量 V 光速 c
アボガドロ数 NA 紫外線線量率 I0
モル吸収係数 ε 照射時間 time

図3 I/I₃⁻の吸光度変化

この実験においては,紫外線線量率として0.747mW・cm⁻²が得られた。 線量計溶液(KI 0.6M溶液)に,紫外線を11.2mJ・cm⁻²照射した時の吸光スペクトル変化を図3に示した。 300nm以下の吸光度は紫外線照射後も高く,未反応のヨウ化カリウムが充分にあることがわかる。 また,352nm付近の吸光が上昇しているのは,生成した三ヨウ化物イオン(I₃⁻)によるものである。

2.2 核酸を利用した線量測定

図4 0.2g・L⁻¹ウリジンの吸収スペクトル変化

微生物の不活化影響のモデルとなる,核酸物質(ウラシル・ウリジン)を用いて線量測定を行った。ウリジンに紫外線を照射するとダイマーが生成される。吸光度測定により得られる吸光度の減少は,ダイマーの生成とモノマーの消失を表しているが,現段階ではダイマーとモノマーの分離ができないため,ダイマーの持つ吸光スペクトルが不明である。本報告では,モノマーの減少量分だけダイマーが生成されると仮定し,吸光度変化をモノマーの消失量とした。

図5 0.2g・L⁻¹ウリジンの254nmにおける量子収率

核酸物質の濃度を変化させ,各濃度における量子収率を求めた。紫外線照射後のウリジンの吸光スペクトル変化を図4に示した。照射時間が増加すると,ウリジンの吸光度は減少した。波長254nmの吸光度の変化を図5に示した。なお,図5の紫外線照射量は,ヨウ化カリウムを用いて測定した値を用いている。

(1)式を用いて,ウリジンの量子収率を求める式を(3)式とした。ウリジンのモル吸収係数は,濃度0.02g・L⁻¹のときの254nm吸光度0.693cm⁻¹より,7.77×10⁷mL・mol⁻¹・cm⁻¹とした。図5における傾きから量子収率を求めた。

図6 ウリジンの量子収率と濃度変化

ウリジン濃度を変化させたときのそれぞれの量子収率を図6に示した。量子収率と濃度には対数的な関係が見出せた。

3.まとめ

中圧ランプの不活化効果線量の測定を化学線量計で行う場合,吸収波長域と感度に注意する必要がある。ウリジンは量子収率が低いものの,その吸光スペクトルから微生物の消毒波長依存性を示す線量計であると考えられ,広波長照射のランプにも対応可能であると考えられる。

参考文献

  1. R. O. Rahn, et al.:Quantum Yield of the Iodide-Iodate Chemical Actinometer: Dependence on Wavelength and Concentrations, Photochemistry and Photobiology, 78(2), 146-152.(2003).

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第20号掲載記事に基づいて作成しました。
(2009年4月27日入稿)


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