技術資料

省電力型枚葉印刷機用紫外線硬化装置 - ハイブリッドUV装置 -

アイグラフィックス株式会社 印刷技術部

キーワード

UV印刷,LED,高感度インキ,ハイブリッドUV,省電力,オゾンレス

1.はじめに

1.1 開発背景

印刷用インキの種類として,酸化重合により半日から1日などの時間を要する自然乾燥の油性インキと,光化学反応により0.2秒などで瞬時硬化するUVインキが知られている。また,印刷の用途として,枚葉,ビジネスフォーム,シール・ラベル,シルクスクリーン,グラビアなどがあり,UV印刷の即乾,ノンVOC(揮発性有機化合物不使用),対摩擦性・対溶剤性に優れているといった利点を活かし,現在,全ての用途で,紫外線硬化装置(以下「UV装置」という)が採用されている。

今回は,枚葉印刷用に当社が新たに開発した,ハイブリッドUV印刷装置について紹介する。

開発の背景として,国内の印刷機メーカーのリョービ(株)殿がインキメーカー殿,LED照射装置メーカー殿とコラボレーションし,3年前,高出力型LEDを光源とする枚葉印刷機用UV装置を印刷市場に発表し,その中で,従来のUV装置に比較し,70~80%の消費電力が削減出来る,オゾンレス,排気ダクト設備が不要,光源が長寿命といったメリットが紹介されたことが挙げられる。当時は,次世代UV装置というキャッチコピーもあり,従来のUV装置に取って代わる優れものという強い印象を与えることとなった。これは印刷業界の大きな話題となり,従来のUV装置の次期設備計画を見合わせるユーザーも出る状況ともなっていた。

1.2 新UV装置誕生のいきさつ

この対応として,当社としても,早速LED光源型のUV装置の開発を進めることとなった。開発のための事前調査を行う中で,LED UV印刷には専用の「LEDインキ」が必要であることが分かった。インキメーカー殿の協力をいただきながら,当社のLED光源UV装置の検証を行ったわけだが,このインキを従来のUVランプで硬化させて見てはどうだろうかとの単純なひらめきが浮かび,それを実行に移した。従来のUVランプを用い,このLEDインキで印刷した印刷物を硬化させた結果,良好に硬化し,LEDインキはすばらしく硬化性の良い「高感度インキ」であることが分かった。印刷業界の気運は次世代LED-UVであったが,社内ではLEDインキを従来のUVランプで硬化させる道を選び,そのための評価テストを行い,基本仕様を決めるに至った。

高感度インキについて少し説明する。組成として,着色成分である顔料,顔料を非印刷体に定着させるためのビヒクル(樹脂),重合反応の起爆剤である光重合開始剤,印刷適正性・安定性などのための補助剤が含まれている。この内,光重合開始剤の量は通常全体の5~10%程度であるのを20%などに比率を高めて配合され,硬化性を高めたインキとなっている。省電力型UV装置はこの高感度インキがなくては成り立たない。

このような状況の中,国内の印刷機メーカーの(株)小森コーポレーション殿との意見交換にて,LEDインキについて,お互い同じ取組みをしていることが分かり,協同でこれをシステム化することとなった。インキについてはLEDインキから派生した,UVランプ用の省電力型高感度インキに変更された。

本装置は,LED-UV装置と従来のUV装置を比較した際の欠点を低減し,LED-UV装置に対抗出来るUV装置を印刷業界に提案することを目標に開発したものである。

2.商品概要

2.1 従来装置との比較

表1にUV装置別特徴比較を示す。LED-UVとハイブリッドUV装置を比較すると,イニシャルコスト,光源交換費用の点での優位性がセールスポイントとして挙げられる。

表1 UV装置別特徴比較表
項目/装置種別 従来型UV ハイブリッドUV UV-LED
イニシャルコスト ×
電気料金 ×
光源寿命 ×
光源交換費用 ×
立ち上げ時間 × ×
照射部の温度 ×
照射距離 ×
モジュール毎の点灯選択 × ×
短波長の弊害 ×
オゾンレス ×
臭気の無さ
排気ダクトレス ×
設置床面積 1 0.2 0.1
騒音 ×
インキコスト 1 1.1 ? 1.2 ?
ニス,フィルム
インキの特色数

2.2 ハイブリッドUV装置の構造

図1は印刷機の一部の概要を示す図である。排紙立ち上がり部にUV照射器が搭載されている。図2は,UV照射器(水空冷式)の断面概略図である。照射器の取付け部を図3に示す。

ハイブリッドUV装置に搭載のUVランプは,オゾンレスランプをベースに設計されており,その照射光は図4に示すように300nm未満と500nm以上の波長域の光を抑制し,インキ硬化に必要と考えられる波長域に制限した分光分布を有し,原反や印刷機に無駄なエネルギーを与えない。

図1 印刷機概要図

図2 UV照射器断面概略図

図3 照射器取付部

図4 分光分布図

2.3 ハイブリッドUV装置の構成及び主な仕様

本装置はオゾンレス,低排気風量をコンセプトに設計した。それらを実現するための各構成部材の特長を以下に説明する。

2.3.1 UVランプ(図5参照)

図5 UVランプ外観図

図示例)菊全タイプ用。出力:16.8kW,160W/cm;型式:ME168-L42DX(オゾンレスメタルハライドランプ)

ランプ構造は基本的に従来型と同じだが,石英ガラスに特殊な添加剤を加え,230nm以下の波長をカットし,オゾンの発生波長である210nm以下(185nm)の波長の光は放射されない。

2.3.2 照射器(図6参照)

図示例 )菊全タイプ用。16.8kW 1灯用 型式:UE1681-412-03ZKFA

水空冷式タイプで水冷効率を高め,低風量を実現した最新型。主に反射板支持体を水冷し,ランプ部を含んだ照射器の雰囲気排気を行う構造。反射板は熱線を吸収し紫外線を反射するコールドミラー。観音式シャッター機構。印刷機のタイプによって照射面側開口部に専用フィルターを装着し,印刷機に与える熱を低減する。

図6 UV照射器概要図

2.3.3 電源装置(図7参照)

図7 電源装置外観図

図示例 )菊全タイプ用。16.8kW 1灯用 型式:UBX1801-11

インバーター型安定器を採用し,省スペースを再現。

2.3.4 水冷装置(図8参照)

オリオン機械(株)製 型式:RKE5500A-V,分配器2系統チラー式冷却水循環装置となっており,照射器及びUV照射部の印刷機部品である紙ガイドの冷却を行う。

図8 チラー,分配器概要図

2.3.5 排風機(図9参照)

16.8kW 1灯用 型式:UCB1681

排風機は照射器とダクトで接続し,照射器及び照射器付近の雰囲気排気を行い,印刷機内の温度上昇を抑制する。

図9 排風機外観図

表2 UV装置別消費電力比較表(菊半タイプ例)
仕様 消費電力 消費電力比率
従来型UV
12kW(発光長750mm)3灯
ランニング48kW/h
スタンバイ24kW/h
432kWh/1日
129600kWh/1年
100%
ハイブリッドUV
9kW(発光長750mm)1灯
ランニング17.2kW/h
スタンバイ7kW/h
145.2kWh/1日
43560kWh/1年
33.60%
UV-LED
8.4kW 1式
ランニング15kW/h
スタンバイ1kW/h
96kWh/1日
28800kWh/1年
22.20%

3.特長・機能

  1. 高感度インキとのマッチングで,印刷機に搭載する照射器のランプ本数は基本的には1本で構成される。ランプ出力は菊半タイプ(印刷幅750mm,目安速度130m/min)で120W/cm,菊全タイプ(印刷幅1020mm,目安速度180m/min)で160W/cmである。
  2. 1灯仕様のためイニシャルコストが安く,ランニングコストについてもランプの使用本数や反射板などの消耗品の数量が少なく,低コストである。
  3. 装置構成全体がコンパクトで省スペース。
  4. 一定条件にて従来UV装置比33.6%と省電力である。
  5. 原反に与える熱が少なく給紙の状態プラス5℃程度と低温キュアーが実現出来る。
  6. オゾンレスランプのため,オゾンタイプでは必須のオゾン排出用の屋外までのダクト設備工事の必要がない。また,酸化力の強いオゾンに対する機械の錆び対策が低減出来る。
  7. 照射器灯数が従来UV装置より少ないため,排風風量が少なく,ブロアの運転音が低減出来る。
  8. 空調の容量が従来UV装置比で概略25%に低減出来る。
  9. 従来型と比較し,灯数減のため光源交換作業が低減出来る。

4.おわりに

今まで,近隣の住宅などに対して騒音・臭気の問題がある,UV装置の設置スペースが必要,ダクトなどの設備コストかかるなどの障害があるために,即乾であるUV印刷に魅力を感じてはいたが,導入を見送っていた印刷ユーザー様が,ハイブリッドUV装置を導入されている。

ハイブリッドUV装置の出荷台数は発表から1年の間に40台程に達し,3年を経過したLED-UV装置の台数の約2倍の実績となった。この結果は,本装置が市場の要求に上手くマッチし,新規ユーザーの拡大に寄与したことを示していると考えている。

インキメーカーは全てのユーザーに高感度インキをPRし,同種のUV装置を他の印刷機メーカーもPRを始めた。印刷業界に省電力型UV装置は定着するであろう。

また,時代は消費エネルギーの低減,CO₂削減であり,省電力化に努めなくてはならない時流に乗り,省電力型UVの需要は今後,更に増えるであろう。

他社に引けを取らない装置造りが必要である。一層のUV硬化効率のアップ,コストダウンを実施し,競争力を高め,海外への展開も積極的に行いたいものである。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第23号掲載記事に基づいて作成しました。
(2010年11月15日入稿)


テクニカルレポートに掲載されている内容は、原稿執筆時点の情報です。ご覧の時点では内容変更や取扱い中止などが行われている可能性があるため、あらかじめご了承ください。