技術資料

UVカット性能強化ランプの開発

光源部 HID技術課

キーワード

紫外線,カット,相対損傷係数,誘虫性

1.はじめに

特殊な工程を行う生産工場の照明では、ランプから照射される紫外線をできる限り少なくしたい、という要望がある。また例えば、紫外線を吸収することにより硬化する接着剤を使用する工程では、ランプから照射される紫外線量が製品の品質へ大きく影響する場合もある。

ランプの外球バルブ表面にUVカット膜を塗布するとランプ発光管から照射される紫外線をカットすることができ、当社では380nm以下の紫外線を約90%カットするUVカット膜をセラルクス、ハイラックス、及び一部のメタルハライドランプ(この他水銀ランプなどの特注対応品)に採用している。しかしさらに,上記の特殊な工程を行う工場などからの上記の要望に対応するために、そのUVカット膜の性能をさらに強化し、波長380nm以下の紫外線を99%以上カットしたランプを作製し、特定の顧客に限定したサンプル出荷を行っている。今回はそのUVカット膜の紫外線カット性能について紹介する。

2.特性概要

2.1 紫外線カット原理

当社で塗布しているUVカット膜には、微粒子(粒径5~40nm程度)の酸化亜鉛(ZnO)が含まれている。この酸化亜鉛が紫外線を吸収することで380nm以下の紫外線がカットされる。

半導体酸化物である酸化亜鉛は375nm以下の短波長の光が照射されると、価電子帯の電子がそのエネルギーを吸収し導電帯へと励起される。よって、375nm以下の短波長の光は微粒子の酸化亜鉛を含むUVカット膜を透過できない。半導体酸化物の種類によって吸収する光の波長が異なるが、可視光域(380~780nm)の紫外線側に隣接した波長域に吸収特性を持つ酸化亜鉛が、ランプに塗布する紫外線カット剤として適しているといえる。また、380nm以上の波長をカットするためには、酸化亜鉛をベースに他の金属微粒子をドープすることでより長波長域のカット特性を持たせることもできる。

今回紹介するUVカット強化ランプでは、このUVカット膜に含まれる微粒子の酸化亜鉛の濃度を高めることで、通常の約90%カットから99%以上カットへと強化をしている。

2.2 対応可能品種

現在UVカット膜を塗布しているHIDランプの品種全てに特注対応が可能である。ただし、150W以下のコンパクトメタルハライドランプを除く。(E39口金タイプは対応可能)

2.3 紫外線カット特性

図1と図2にFECセラルクスエース360WのUVカット膜なし品・UVカット膜通常品・UVカット膜強化品の紫外線域の分光分布図(図1は250~780nm,図2は250~380nm)を、また表1に紫外線波長の出力値、相対損傷係数、虫の誘引割合を示す誘虫性をそれぞれ示す。

図1又は図2において分光放射照度の波長積分値で比較すると、UVカット膜通常品ではUVカット膜なし品に対して紫外線域(250~380nm)出力のカット比率が89.9%であるが、UVカット膜強化品では99.7%となっており、380nm以下の紫外線カットに対して大きな効果を示している。

図1 FECセラルクスエース360W 分光分布図 250nm~780nm

図2 FECセラルクスエース360W 分光分布図 250nm~380nm

被照射物の紫外線及び可視光による損傷作用を示す損傷係数や虫の誘引割合を示す誘虫性に対しては、UVカット膜強化品とUVカット膜通常品での数値差は小さいものとなった。これは、UVカット膜にてカットされない可視域波長の影響が数値に表れたもので、本来は数値に大きく影響を与える紫外線域の波長が、UVカット膜通常品においても可視光域より影響が小さくなる程度にカットされているためと考えられる。図3に相対損傷度曲線・虫(ショウジョウバエ)の比視感度曲線・人の比視感度曲線を示す。この曲線から損傷係数及び誘虫性は紫外線域の波長に大きく影響されることと、紫外線域の波長をカットしても可視光による影響が残ることが分かる。

図3 虫の比視感度曲線・相対損傷度曲線・人の比視感度曲線

表1 M360FCELSH-W/BUDでの紫外線出力特性表
  紫外線出力値 紫外線カット率 損傷係数 誘虫性(*)
UVカット膜なし品 8.543W - 0.039 67.0
UVカット膜通常品 0.863W 89.9% 0.014 39.5
UVカット膜強化品 0.027W 99.7% 0.012 36.4
  • *水銀灯400Wを100とした場合の比率

2.4 既存の紫外線カットランプとの比較

図4 セラミック材塗布ランプ
(FECセラルクスエースに試験塗布した参考品)

他社製品では、ランプ外表面にセラミックをコーティングしたUVカットランプが発売されている。(図4はFECセラルクスエースにセラミック剤を試験的に塗布した参考品の外観を示す。)このコーティングはランプ外球の外表面にセラミックのUVカット剤を吹き付け塗装をするものだが、吹き付けによりガラス表面にダメージが残る場合があり、使用条件によってはガラス表面の耐衝撃性低下や熱負荷による変形などの問題が残る場合もある。また、セラミックのUVカット剤では可視域の波長の透過率も低下する傾向にあるため、塗布前後でランプの光束値が10%以上低下する。

これに対して当社のUVカット膜は可視域のランプ特性への影響がないため、安全かつ効率的に紫外線カットの要望を実現し得る手段と考える。しかし、セラミックのUVカット剤塗布品は飛散防止膜塗布に対応可能であるのに対し、当社のUVカット膜強化品での飛散防止膜塗布対応は実現できていないため、この点については今後の課題である。(なお,UVカット膜通常品での飛散防止膜塗布対応については,IWASAKIテクニカルレポート『FECセラルクスエース垂直点灯形』の記事を参照されたい。)

3.おわりに

一般照明用としてのUVカット性能は通常のUVカット膜特性にて十分に満足できると考えられるが、特に紫外線照射が問題となる特殊なご要望に対してはUVカット膜の性能強化によって対応することができる。

今後はUVカット膜強化品を特定顧客以外にも特注対応品として標準化を進める。

また、今回対象としていないコンパクトメタルハライドランプにおいてもUVカット膜強化仕様の追加を検討したい。屋内商業施設においては近年急激な低価格化が進んでおり、とくに衣服関係において原材料のコストダウンにより、紫外線に強く影響される商品の退色・劣化が起こりやすい状況にある。現在でも、当社の通常のUVカット膜塗布品は他社品と比較して紫外線カット性能の点で優位性があるが、さらにこれを強化したランプの要望も高まってきているため、さらなる他社との差別化が図れるものと考える。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第21号掲載記事に基づいて作成しました。
(2009年11月26日入稿)


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