技術資料

画像処理による油膜検知に関する基礎的研究(その2)
- 河川における油膜検知システムについて -

技術開発室 技術部 技術開発グループ

キーワード

画像処理システム,水質汚濁,油膜,検知,河川,干渉縞,CIE色度図

1.はじめに

現在,各地方整備局などにおいて,「水質汚濁防止法」の改正や「防災基本計画」に基づき,「河川水質事故対策」が行なわれている。河川水質事故の原因物質割合は,油流出事故が水質事故全体の約7割を占めている(図1参照)。油流出事故は,少量の油が流出した場合でも,浄水場の取水停止,悪臭による生活環境の悪化,魚介類の窒息死など環境に甚大な被害を及ぼす。このことから,河川管理事務所などでは,高感度で24時間連続モニタリング可能な河川の油膜検知システムが望まれている。

既存の油膜検知装置としては,油臭検知方式,反射率測定方式,蛍光解析装置などがある。しかしながら,これら既存の油膜検知装置は専用装置であり,“設置に特別な施設が必要となる”,“広範囲な検知が困難である”などの問題点がある。

そこで本研究では,比較的簡易な照明と画像処理を用いて,河川に流出した油膜を検出するシステムの開発を目的としている。

先の報告1)では,研究の基礎段階として,水面上に拡散した油膜が虹色の干渉縞を形成することに着目し,その光学的特性について述べた。さらに,画像処理により水面上の油膜による虹色の干渉縞の検出方法を考案し,基礎実験によりその妥当性を確認した。

本報告では,先に考案した画像処理による油膜検知方法に対し検出精度の向上のために加えられた改良点,及び実際の河川に提案する油膜検知方法を適用した場合に予想される,システムの概要と設置要件について述べる。

図1 水質事故の原因物質別発生割合

図2 実際の河川における油流出画像

2.画像処理方法の改良

先の報告では,水面上に拡散した油膜が形成する虹色の干渉縞を,xy色度座標系を用いて画像中の色の分布状態を判別し抽出を行なっていた。しかしながら,xy色度座標系は均等色差空間ではないため,色によって検出精度が異なってくるといった問題が生じてくる。

そこで,色の分布状態の評価方法として均等色差空間を表すLab表色系に着目した。

2.1 Lab表色系

Lab表色系(図3参照)は「均等色空間」を表す代表的なもので,カラー画像処理を行なう場合に有効な座標系であるとされている2)。図中のLは明度,θは色相,rは彩度を示している。このとき,Lab座標は,画像から得られるRGB値より式(1),(2)より求めることができる。この座標上で示される2色の色の一定距離が,どの色の領域においても,知覚的な色差に対応するようになる。

このことから,油膜の存在する水面を撮影し,その色の分布状態を画像より得られるRGB値からLab座標上にプロットすることで,水面と油膜により形成される虹色の干渉縞との間に大きな差が生じてくるものと考えられる。

図3 Lab座標

2.2 Lab表色系を用いた油膜の抽出

図4 油膜画像(微小領域分割)

図4は,実際に水面上の油膜を撮影した画像である。はじめに,撮影した画像を任意の矩形領域に分割する。

さらに,分割した矩形領域から油膜の存在する領域と油膜の存在しない水面のみの領域を選択する。なお図中の赤の矩形領域が油膜の存在する領域,青の矩形領域が油膜の存在しない領域である。つぎに,それぞれ選択した矩形領域からRGB値を求め,式(1),(2)からLab座標を算出する。

図5 Lab表色系(ab)
座標算出結果(油膜の有無による比較)

図5は選択した2つの矩形領域から求めたLab表色系の座標を算出し,油膜の有無によるLab座標上での色の分布状態の比較を行なった結果である。同図(a)はa-b座標,(b)はL-a座標について示している。

図5(a)より,油膜の無い領域ではほぼ一箇所に色の分布が集中しているのに対し,油膜の有る領域では広い範囲に色の分布が広がっていることが分かる。また図5(b)より油膜の有る領域では,油膜の無い領域と比較し一様に高い明度となっていることが分かる。したがって,油膜の無い領域のLab座標の範囲を求め,画像より取り除くことで,油膜の検出が可能になるものと考えられる。

そこで,算出した油膜の無い領域のLab座標の平均値を求め,油膜の無い場合での色の分布の重心座標を求める。その結果,重心座標(Lcacbc)は(189,-12,12)となった。

ここで図5(a)より,油膜の無い領域の色の分布範囲は,重心座標(acbc)を中心とした半径rcの円内に存在すると考える。なお,ここでは半径rcを20と設定した。また,図5(b)より,油膜の無い領域の明度の範囲は,重心座標Lcより低い値になると考える。

図6 油膜検出画像

図6は,図4で得られた画像より,上述の通り油膜の無い領域のLab座標の範囲を推定し,画像から取り除いたものである。図6より,油膜の存在する領域のみが検出されていることがわかる。

このことから,色の分布状態の評価方法として均等色差空間を表すLab表色系を用いることで,油膜の検出が可能であることが確認できた。

2.3 検知精度

図7 水平面照度に対する検知誤差率

ここでは,水面の水平面照度が変化した場合の油膜の検知精度について検討を行なった。

図7は,この時の検知精度を求めた結果である。なお,検知精度の評価方法は,撮影した画像より目視で確認できる油膜領域の画素数と前述で示した画像処理手法を用いて抽出した油膜領域との画素数とを比較し誤差率とした。撮影に使用したCCDカメラは,焦点距離55mmのレンズと偏光フィルタをマウントし,縦512画素,横640画素,R(赤)G(緑)B(青)それぞれ256階調16777216色のカラー画像を記録する。また,カメラの最低被写体照度は3であった。

図7より,水面の水平面照度が50以上あれば,20%以内の誤差率で油膜が抽出可能であることがわかる。

参考文献

  1. 山田,池本:画像処理による油膜検知に関する基礎的研究,IWASAKI技報,No.14,pp.33-38(2006)
  2. 日本色彩学会編:新編色彩科学ハンドブック第2版,東京大学出版会,pp.1128-1132(1998)

テクニカルレポートに掲載されている内容は、原稿執筆時点の情報です。ご覧の時点では内容変更や取扱い中止などが行われている可能性があるため、あらかじめご了承ください。