技術資料

エキシマ光照射装置の開発 - 装置開発の経緯と技術内容の紹介 -

技術開発室 技術研究所 知能化システムグループ
光応用事業部 EB推進室
光応用事業部
株式会社アイ・ライティング・システム 技術管理部

キーワード

キセノン(Xe),エキシマ,真空紫外光,172nm,照射装置

1. はじめに

エキシマ発光を利用するエキシマ光照射装置は現在,洗浄や表面改質等の用途に広く利用されている。当社でエキシマ光照射装置の開発が本格的に始まってから10年になるのを機に,本稿では,その装置開発の経緯を簡単に振り返り,同装置に関わる技術の概要を紹介する。

2. 装置開発の経緯

図1 点灯中のエキシマランプ

1996年当時,無電極電界放電(E放電)による殺菌ランプ(低圧水銀ランプ)の開発において,点灯20,000時間で光束維持率85%が達成でき,商品化の可能性が出来かけていた時に,Xeエキシマランプの開発依頼が舞い込んできた。それは,長さ1.8m,ランプ電力3kWの仕様で,超純水生成用のものであり,低圧水銀ランプでも分解できない物質を分解する性能を要求するものであった。

直感的に,それまで開発していた無電極電界放電(E放電)による技術を転用すれば,うまく行くのではないかと考え,各種ランプを製造し,条件出しを行った。それから約1年以内に,図2のような,他励方式RF電源とマッチング回路を使用し,外形45φで長さ30cmのXeエキシマランプに,800WのRF電力を入れることが可能となり,ランプ表面で,100mW/cm²を達成することができるまでになった。エキシマランプの点灯の様子を図1に示す。しかし,その後の商品化は,図3のような電源回路方式を用いて行われ,十分すぎるほどの時間をかけ,進んだ。

図2 他励方式の回路構成

図3 点灯電源構成

3. エキシマ発光とは

近年エキシマの発光を利用することにより,紫外から可視までの範囲で,種々の単色光を得ることが出来るようになった。特に,真空紫外光と呼ばれる100~200nmの波長領域の光は,200nmの光子の場合でも,599kJ/mol,172nmの光子の場合は,695kJ/molのエネルギーがあり,表1に示したように,ほとんどの分子の原子間結合力より大きいため,光量子プロセスと呼ばれる光子のみによる作用により,原子の結合を直接切断することが可能である。これに必要な真空紫外光源として,従来の光源,たとえば,重水素ランプでは工業的に実用化の可能性がある十分な強度を持つ光が得られなかったが,希ガスエキシマランプの登場により,それが可能となった。

表1 分子の結合エネルギー
結合結合エネルギー
(kJ/mol)
結合結合エネルギー
(kJ/mol)
H-H436C-F441
H-C348C-N292
C=C607C≡N791
C≡C823C-O352
N-N161C=O724
O-O139O-H463
O=O491

Xe,Kr,Ar,Neなどの希ガスの原子は化学的に結合して分子を作らないため,不活性ガスと呼ばれている。しかし,放電などによりエネルギーを得た希ガスの原子(励起原子)は他の原子と結合して分子を作ることが出来る。こうして出来た分子がエキシマ(excited dimmerの略)と呼ばれる。希ガスがキセノン(Xe)の場合には,次のような反応が起こる。

e + Xe → e + Xe*
Xe* + Xe + Xe → Xe₂* + Xe

励起されたエキシマ分子であるXe₂*が基底状態に遷移するときに172nmのエキシマ光が放射される。エキシマ光は波長172nmを中心に±15nm程度の範囲に集中しており,低圧水銀ランプの輝線である185nmの光より高い発光効率が得られる。


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