技術資料

赤外線照射による食品加工前クリの品質低下防止技術

光応用事業部 光応用営業部 技術グループ
光応用事業部 光応用営業部 第三営業課
光応用事業部 光応用製造部 第二製造課
光応用事業部 光応用開発部 ソフトエンジニアリング課

キーワード

クリ,クリシギゾウムシ,赤外線照射,加熱処理,殺虫,駆除技術,食品加工

1.はじめに

図1 クリシギゾウムシによる被害

収穫後のクリは,図1に示すような貯蔵害虫であるクリシギゾウムシにより40%以上が被害を受け,流通・消費段階で問題になっている。

一次産物には臭化メチル薫蒸を主体とする化学薬剤による駆除が行われているが,臭化メチルはオゾン層を破壊する物質として,2005年に一部を除いて全廃されることとなっている。

図2 赤外線の種類

現在,各所にて臭化メチルに代わる有効な駆除方法を研究中ではあるがまだ確立されてはいない。臭化メチルが全廃されると一次産物の品質低下を招き,クリを用いた食品加工は大打撃を受ける可能性が高い。

そこで,本技術開発では一次産物におけるクリシギゾウムシの駆除技術として,赤外線(近赤外線ランプ)を用いた,安全で環境負荷が少なく,食品として加工利用する際に原料としてのクリの品質低下を招かない駆除技術の開発を目的とする。

図3 クリに対する各種エネルギーの作用

本技術開発のポイントである赤外線は,電磁波エネルギーの一種で,0.8~5.0μmの波長範囲を指す(図2)。この中で,波長の短い方から,近赤外線,中赤外線,遠赤外線に区分することができる。赤外線,特に近赤外線は,効率的な熱源(投入電力に対する熱変換効率は80~90%),発光の立ち上りが早く,熱制御も容易(出力コントロール可能),クリーンで安全(非接触加熱により被加熱物を汚さない,化学物質を発生しないため環境に優しい)などの特徴がある。

また,近赤外線はソフトエレクトロン(電子線)やマイクロ波とは異なり,クリシギゾウムシの卵が存在している鬼皮近傍に選択的に加熱させる作用を有している(図3)。

2.実験方法

2.1 加熱処理実験用・赤外線照射装置の製作

2.1.1 赤外線照射装置の製作

クリの昇温特性評価,および各種加熱条件の処理サンプル作成を行うため,連続搬送機構を備えた両面照射式の赤外線照射装置を製作した。

2.1.2 適正条件の検討

各種照射条件(表1)におけるクリ各部の昇温特性および温度分布を温度データ収集装置(熱電対,サーモグラフィ)により計測評価し,適正なランプ配置,電力,調光条件等を検討した。

表1 加熱サンプル作成条件
渋皮部温度\保持時間(min.) 1 2 3 4 5 8
50℃  
60℃
70℃      

2.2 赤外線照射によるクリ果実内のクリシギゾウムシ殺虫効果調査

各種条件にて加熱処理したクリの被害果率をクリシギゾウムシ幼虫の生存率(実数計測)にて評価し,適正な殺虫温度,保持時間を検討した。

なお,当初はクリシギゾウムシの孵化率で評価する予定であったが,平成15年度のクリは冷夏により収穫量が少なく,また品質が悪かったため,加熱処理前の時点で既にクリシギゾウムシが孵化していた。よって,クリ果実内のクリシギゾウムシ幼虫の生存率評価に急遽変更した。

試験に用いた原料クリの品種は,埼玉県日高市のクリ園で収穫されたクリで『筑波』,サイズは2L(約25g/個)。各条件ともに約3.5kg(150個程度)使用し,加熱処理後に室温で2~3週間放置し,果実を解剖して生存しているクリシギゾウムシ幼虫を計測した。クリシギゾウムシの生存率は式1により算出した。

比較対照として,無処理区および臭化メチル処理区についても同様に評価を行った。

クリシギゾウムシの生存率(%)=加熱後の幼虫生存クリの個数/全クリ個数×100 (式1)

2.3 赤外線照射がクリ果実の品質に及ぼす影響調査

2.3.1 調査個体数

調査固体数は,各処理区(表1)とも任意の10個体とした。なお,試験に用いたクリは2.2項と同じである。

2.3.2 調査項目

形状,先端裂果の有無及び程度,果肉断面の腐敗の有無及び程度(最大幅と最小幅),果肉色,熱変性の有無及び程度(最大幅と最小幅)を調査した。

2.4 収穫時期が異なるクリにおける殺虫効果と品質影響調査

上記2.2項および2.3項と同様の手法で,収穫時期が異なるクリにおけるクリシギゾウムシ幼虫の生存率評価および品質影響を調査した。

収穫時期は,当初最盛期の初期及び末期を予定していたが,平成15年度のクリの収穫状況が芳しくなく,9月22日収穫を1stロット,9月29日収穫を2ndロットとした。

2.5 加工品評価

2.5.1 試験区

前記2.2項及び2.4項の結果に基づいて殺虫効果データの検討を行い,殺虫効果の高い70℃から3分及び1分区,次いで効果の分かれ目である60℃8分及び5分区を臭化メチル区と比較した。尚,クリ不作のため1stロットのみの試験とした。加工は,0~2℃で約9週間貯蔵を行った。

2.5.2 比重選別

比重1.00以上クリの重量及び個数,比重1.00未満クリの重量及び個数,比重1.00未満クリ果肉の腐敗及び先端空洞の有無を調査した。

2.5.3 歩留の評価
2.5.3.1 渋皮煮向け原料歩留

供試材料は,比重選別後の比重1.00以上のクリを約6kgとした。

調査項目は,渋皮良品クリ重量,渋皮不良品クリ重量,鬼皮重量とし,鬼皮を包丁で丁寧に剥き,脱水後,表面観察及び触診により渋皮良品クリ及び渋皮不良品クリに選別した。

2.5.3.2 甘露煮向け原料歩留

供試材料は渋皮煮向け原料歩留調査後の渋皮不良品クリの全部及び渋皮良品クリの一部とした。調査項目は,剥きグリ重量,渋皮+腐敗の重量とした。

2.5.3.3 ペースト向け原料歩留

供試材料は,比重選別後の比重1.00以上のクリを約2kgとした。調査項目は,裏ごし後の果肉重量,残さ重量とした。

2.5.4 渋皮煮及び甘露煮の破断強度測定
測定個数
製品の側果を10個体
測定項目
破断応力,破断歪率
測定条件
測定器 YAMADEN RE-3305
2.5.5 色彩測定
2.5.5.1 渋皮煮及び甘露煮
測定個数
製品の側果を10個体
測定項目
L*値(明度),C*値(彩度),h値(色相角)
測定条件
MINOLTA CR-300を使用し,1個当たり1ヵ所を測定
2.5.5.2 ペースト
測定項目
L*値(明度),C*値(彩度),h値(色相角)
測定条件
ペーストを8mmの厚さにして,スライドグラスで覆い,MINOLTA CR-300を使用し,5ヵ所を測定した。

2.6 赤外線処理したクリの貯蔵安定性調査

調査個体数
各処理区とも任意に10個体
調査項目
果肉断面の腐敗部分及び程度(最大幅と最小幅),果肉色
調査方法
赤外線処理クリを0.05mmポリエチレン袋に入れて密閉して0~2℃で貯蔵した後,カッターで花柱部を通り半分にして果肉断面における調査を行った。
調査時期
赤外線処理5週間,9週間,14週間後

2.7 実用化装置の仕様検討

前記2.1項から2.6項の実験結果および現状のクリ処理量に基づき,実用化装置の仕様(搬送速度,ランプ容量等)を検討した。


テクニカルレポートに掲載されている内容は、原稿執筆時点の情報です。ご覧の時点では内容変更や取扱い中止などが行われている可能性があるため、あらかじめご了承ください。