技術資料

酸化物半導体を用いたUVフォトダイオードの特性

技術本部 研究開発部 光技術基礎研究課

キーワード

紫外線センサ,酸化物半導体,フォトダイオード,ショットキー接合

1.はじめに

殺菌や改質に用いられる紫外線照射装置においては,処理対象に対して規定の紫外線照射量が維持されているかどうかを確認することは非常に重要な課題である。最も確実な確認方法は,特定の波長にのみ感度を持つフォトダイオードや照度計を用いて常に照射光をモニタし続ける方法であるが,既存のシリコンを用いたフォトダイオードや照度計は長期間紫外線を照射されると感度が低下する問題があり,そのため,照射光をモニタするに当たっては,シャッター機構などを用いて間欠的に計測を行うか,頻繁にモニタリング機器の校正を行わねばならない。間欠的な測定を行う場合は,そのための機械的な機構が必要になる上,紫外線照射量に異常が発生してから検知するまでに遅延が生じることが避けられず,また,頻繁(たとえば1回/月)に校正を行うことは現実的ではない。

そこで,それらの問題を解決するため,紫外線に弱いシリコンではなく,紫外線に比較的耐性があるといわれる市販の酸化物半導体を用いて,紫外線にのみ感度を持つフォトダイオードの作製を試み,その特性の評価を行った。

2.フォトダイオード感光部材料の選定

フォトダイオードは半導体や金属の接合面を利用した受光デバイスであり,入射した光子の数に比例した電流を出力する。一般的に使用されているシリコンフォトダイオードは,シリコン結晶中にホウ素やリンをドープしpn接合をつくり,これを利用して光の検出を行う。シリコンフォトダイオードは,感光材料にシリコンを使用しているためバンドギャップの関係上必ず可視光領域に感度を持っており,紫外線を選択的に検出するためには光学フィルターにより入射光の波長に制限を掛けなければならない。また,シリコンフォトダイオードは,紫外線の累積照射量に応じて感度が減少してゆく問題もある。このような欠点は感光部にシリコンを用いることで生じるものであり,感光部をシリコンでない他の物質を用いた場合には,以上のような問題点を解決することが可能である。

紫外線にのみ感度を持つフォトダイオードの感光材料として必要な条件は,n型もしくはp型の極性を持った半導体であること,バンドギャップが3.2eV程度であること,加えて,紫外線を照射しても容易に物理的・化学的変化が生じないことが挙げられる。列挙した条件を満たす材料には酸化チタン(TiO2)や酸化亜鉛(ZnO),窒化ガリウム(GaN)などがあるが,フォトダイオードを構成するために必要なこれら材料の薄膜や単結晶を得るのは容易ではない。そこで,チタン酸ストロンチウム(SrTiO3,以下STOと呼ぶ)という材料に注目した。この材料は,材料のチタンの一部をニオブに置換したもの(Nb:STO)がn型半導体としての性質を持ち,バンドギャップが3.2eVであって,光触媒材料に使用される程度に化学的に安定である。したがって,紫外線フォトダイオードの感光材料として必要な特性を備えている。また,STOはベルヌーイ法によって単結晶が得られることが知られており,単結晶の基板が複数のメーカーから販売されているため容易に入手することができるので,STOをフォトダイオードの感光部材料として用いた。

3.フォトダイオードの構造の決定

1種類半導体を利用するフォトダイオードの構造には,大きく区分するとpn接合型とショットキー接合型の2種類が存在する。pn接合型が光電流を発生させる仕組みは,感光材料である半導体が光を吸収された際に生じる光電子を半導体中のpn接合部付近に存在する内蔵電場によって加速し,半導体外に電流として出力する仕組みとなっている。したがって,p型・n型の両方が入手できる半導体を必要とする。一方,ショットキー型は光電子をn型もしくはp型の半導体と金属の整流特性を持つ接合部であるショットキー接合付近の内蔵電場で加速されることを利用するので,半導体はn型かp型のどちらか一方しか必要としない。STOは,n型であるNb:STOは存在するがp型は存在しないので,ショットキー型のフォトダイオードのみが作製可能である。

Nb:STOとショットキー接合をなす金属はAuとPtがある。両金属ともに仕事関数が大きく化学的に安定であり,ショットキー接合自体には問題ないが,AuはSTOとの密着性が小さくAuワイヤボンディングによる接合ができないので,ショットキー接合に用いる金属はPtを使用することにした。電極の形状はPtを透過した光をSTOに吸収させるため薄膜とし,形成方法はスパッタリングを用いた。

受光面側はPtを電極としたが,非受光面側のもう一方の電極は電流を障害なく取り出すために整流特性のないオーミック接合を形成しなければならない。この電極には抵抗加熱式の真空蒸着を用いて形成したAl薄膜を用いた。

4.素子の製作

図1 素子個片(袋内)

(株)信光社製のNb(0.05wt%):SrTiO₃単結晶(サイズ15×15×0.5mmt,面方位(100))にPtをArガスRFスパッタリングにより2mm□のパターンに厚さ10nm成膜し,3mm□にダイシングした。ダイシング後の個片を図1に示す。

図2 STOフォトダイオードの構成(模式図)

ダイシングした個片の裏面にAlを真空蒸着により2mm□のパターンに100nm成膜する。Al薄膜側をカーボンフィラー導電ペースト(ドータイトXC-12)によってAuめっき金属基板にダイボンドし,受光面側Pt薄膜にAuワイヤボンディング(ø31μm)を行い,STOフォトダイオードを構成した。模式図を図2に示す。


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